面会
春になり桜も咲くころ、秋田へ行く準備も煮詰まって来た。日用品や着替えなど色々、揃えて大学の寮へ移り住むだけとなった。私が秋田へ行ってる間、家は祖母が自宅と兼用で住むことになり、東京へ帰省するときもそのまま帰れるようにしてくれた。
秋田へ行くまでに、私にはどうしてもしなければならないことがある・・・
瞳に会うことだ。
瞳は、今、【栃木刑務所】という女子の受刑者が服役するところに入っている。逮捕当時は18歳になっており、成人と同じ厳しい判決を受けた。初犯ということもあり恐らく執行猶予が出るかと思われたが、懲役一年の実刑判決が下された。薬物犯罪・・・特に覚せい剤は厳しい処罰だ。実際、体から完全に薬物を抜くには一年ほどかかるらしい。それは体には残ってなくても、【脳】というものに執着してしまいこれが大変なのだ。自分では止めようと思ってても【脳】がそれを受け入れず体が薬物へと勝手に動いてしまう。だから、2度、3度と同じ過ちをする。薬物中毒というのはこれほど恐ろしいものなのだ。
瞳の事件を担当した刑事さんに連絡をし、瞳との面会の旨を伝えた。刑事さんによると薬
物による症状も見られず、だいぶ気持ちも落ち着き刑務作業などもテキパキとこなして元気なようだ。また、薬物依存症の人を更生させる施設の人たちもこの【栃木刑務所】で受刑者たちに、薬物中毒の恐ろしさを伝えているようで、このまま順調にいけば一年もしないうちに、仮出所になる可能性もあるらしい。
私は女性の刑事さんと一緒に【栃木刑務所】へ行くことになった。
瞳はどんなになったんだろう・・あの夏の日からもう季節は春になった。高校生活も終わり瞳は卒業式も迎えることが出来ず、刑務所の中で過ごした。果たして、私は瞳と面会してキチンと話すことが出来るのだろうか・・でも、会わなければならない。話さなければならない。それが瞳に対して私が唯一、できることなのだ。
刑事さんの運転する車で栃木まで向かった。 ちょうど刑事さんも瞳との面会をする予定で都合が良かったみたいだ。車の中で刑事さんが話す・・
(彼女も、最初は自分がなんでこんな刑務所に・・・って思ってたようだけど徐々に受け入れるようにもなってきて、受刑者同士でも仲良くやってるみたいよ。特に目立って問題なども起こしてないし、模範囚にでもなれば仮出所も近いかな・・)
(ちゃんとご飯なんか食べれるんですか?何かそこが心配で・・・)
(食事は朝、昼、夕と3回あるし、それにおやつもでるのよ。意外に贅沢してきた受刑者でもちゃんと秩序を守ってるし、刑務官も近くにいるから食事の面では大丈夫よ。刑務所のご飯って結構、美味しいらしいわよ。笑。)
(良かったです・・特に真行寺さんは本当に良く食べるんで・・笑。)
(良く食べるってことはそれだけ元気だということだからね。出所するころは太ってるかもしれないね。フフフ。)
刑事さんと瞳のことを話しながら、車は栃木県内に入った。あと少しで【栃木刑務所】に着く。
刑務所内に入ると入館手続きをして面会室に通された。パン屋のおじさんがいる【府中刑務所】と順序は同じだ。 刑事さんと一緒に面会室で待った・・・おじさんの時と同じで、ドキドキする・・・私は瞳とどんな話をするのだろうか・・・
刑務官と一緒に、瞳が面会室に入ってきた。
グレーの作業着姿の瞳は、私の記憶にある瞳とは全くの別人だった・・・髪は短くなり少し痩せたのか、疲れてるような感じで頬が細くなっている。それに私と同じくらいの背丈だったはずだが、何だか小さくなったような気もする。 分かりやすく言えば、老けたな・・って感じか。
刑事さんが瞳に語りかけるが、瞳は下にうつむいたまま顔を上げようとしない。こうなれば私から先手を打つしかないようだ。
(真行寺さん、久しぶりだね・・・・私ね・・・)
事件の事は後にして、ここ最近の出来事や大学受験のこと、玄さんたちのことなどから話すことにした。しかし、瞳は一向に聞く耳を持たず、下にうつむいたままだ。
刑事さんも語りかけるが、返事一つ、しようとはしない。面会時間も限られてるため、また次の機会にでも面会にこようと思い、刑事さんと面会室を出ることにした。
(愛・・・)
面会室を出るときに、瞳が私を呼んだ・・・
(私・・・本当はすごくショックだった・・・愛には一番、知られたくなかった。絶対、嫌われると思ったから・・・だけど、内心、ホッとしたとこもあって・・きっといつも怯えていて怖かったから・・・それに、もしかしたら・・もしかしたら、愛なら・・愛と一緒なら頑張れると思ったの。やめれると思ったの・・・一生懸命に生きようと思ったの。 けど、やっぱり・・・愛は嫌だよね。こんな私・・・嫌だよね・・・・)
瞳は涙ぐみながら私を見て後ろに振り返り面会室を後にしようと立ち、もう一度、私を見た・・・
(でも・・・私、愛のこと、大好き。 さよなら・・・)
瞳との再会は終わった。
これで、私と瞳とは本当に終止符になってしまうのだろうか・・・いや、そんなことは絶対にない。瞳からを待っているのではなく、私から歩み寄らなければダメなんだ。瞳が今、一番に必要としているのは他でもない、私自身なのだ。
(月岡さん、面会に来てくれて彼女もきっと嬉しかったはずよ。だって、うつむいてはいたけど、何だか安心したような感じだったな。きっと時間の流れが解決してくれるわよ。大丈夫。)
私たちは栃木県を後にし都内へと向かった。




