奨学金
卒業式も終え、真っ先に祖母の自宅へと向い、合格通知のことを伝えた。
(合格したのかい?良かったじゃないか・・・愛、本当によく頑張った。)
(ありがとう。おばあちゃんのおかげだよ。)
(無事に高校も卒業して、大学も合格して、おばあちゃんもこれで安心だよ。)
祖母のホッとした表情が見れて私も一安心した。しかし、ここから先がどうしても気にかかってしまう。やはり【お金】の問題だろう。合格したはいいがまだ奨学金やら入学金やら授業料、入寮費など何も手続きしていないし全然分からない。
(おばあちゃん・・・学費とか、寮のお金とか、まだ知らないの・・・)
(愛、心配しなくてもいいんだよ。前にも言っただろう?お母さんとお父さんがちゃんと準備してくれてたって。)
(うん・・・でも・・・)
(大丈夫だよ。おばあちゃんがちゃんとやるから。)
後からそういう諸々のことは分かるだろうが、どうしても気になるので調べてみることにした。相棒(iphone6s)で大学を検索・・・
私は見てビックリした。学費や入学金、寮費、等・・その金額だ。入学金と授業料で約120万円。それプラス入寮費が一年間、約75万円。これだけでも初年度で約200万円かかる。寮は光熱費、食費なども含まれてるが、日用品やちょっとしたお小遣いも必要になる。それに夏休みや年末、5月の連休などは食事は出ない。必然的に仕送りとかに頼よざるを得ない。 アルバイトでも出来ればいいが、秋田県ともなると東京のようにそんなに仕事も多くないだろうし。 4年間、無事に過ごしたとしても1000万円以上の費用が必要ということになる。
それにしてもこんなにもお金がかかるなんて、全く理解していなかった。いくら親がお金を残してくれてたとはいえ、4年間も払い続けられるのか・・・減免制度や奨学金制度などがあるにせよ、こんな金額、祖母に負担をかけるわけにはいかない。何とかならないものか・・・ 担任に相談することにした。
翌日、学校へ行き担任と教室で話すことになった。今日は休校で、授業は休みとなっている。 誰もいない教室は、ガランとしていて昨日までこの教室で過ごしていたのかと思うほど静か。卒業した翌日だというのに、もう既に過去の出来事のようでとても寂しく感じてしまう。
(お待たせ。ま、ゆっくり話そうか。)
担任らしく、お菓子とコーヒーも準備してくれていた。 ストレートに学費のことを話すと・・・
担任によれば、私の場合、奨学金を利用するとして、特待生というものが適用されるようだ。これは特に優れた人で経済的理由により修学困難な人が利用できる、無利息の奨学金なのだ。祖母からの援助以外に不足してる部分をこの奨学金で賄おうという方法だ。
でも、私は優秀ではないし学力も平均並みだ。たしかに経済的にはあまり良くはないが・・・
(月岡さんにはなぜこの制度が適用されたかというと、今回の2つの事件で解決のキッカケにもなり、警察から感謝状を贈られたでしょ?それと、きちんと前向きに大学で勉強をという姿勢、それも東京から秋田に行き、生活しながらと。そういう意味合いもあり審査の結果、認められたのよ。先方の大学の方もずいぶん押してくれたの。だから必ずしも成績が良いからといって受けられる制度ではないの。)
(でも先生、額が額だけに、おばあちゃんに負担をかけそうで・・・)
(月岡さん、実はね、ある方たちが月岡さんにこれを渡してくれって来たの。)
担任から渡されたのは一通の手紙と銀行の通帳だった。
(これは・・何ですか?)
(玄さん・・・って言ったら分かる? 昨日の卒業式に他の2人とも来てたのよ。黙ってたけど。)
(え?玄さんたちが卒業式に来てくれてたんですか?)
(一つの区切りとして、月岡さんの晴れ姿を見たいというので参加してもらったの。3人ともカッコいいスーツで来てたわよ。)
玄さんたちが来てたなんて・・・全く分からなかった・・・
(でも、なんで銀行の通帳なんか私に?)
(手紙を見なさい・・・)
玄さんたちからの手紙を開けた・・・
《 愛ちゃんへ。
卒業おめでとう。 それに大学受験も無事に合格して俺らも本当に安心したよ。愛ちゃんも春には東京を離れて秋田に行ってしまい、とても寂しくなるけど、こうして俺ら3人も人生の再出発が出来たのは、愛ちゃんとの出会いがあったからなんだ。離れた家族と再会しもう一度、やり直せる・・・こんな素晴らしいことはそう無いと思う。人って色々な人生がある。時には流す涙も出ず、どうにもならないときもあるんだ。しかし、不思議なもんで今、こうして俺らも生きてる。毎日、朝起きて、仕事して、ご飯を食べて・・こんなホームレスになってもな。 誤解を恐れずに言うが【神様】に生かされてる・・・っていうのかな。その【神様】とめぐり合わせてくれたのも他ならぬ、愛ちゃんだと俺らは信じてやまないところなんだ・・・ 老婆心ながらこのお金は愛ちゃんの学費に充ててくれ。俺ら3人の細やかな気持ちなんだ。一生懸命、たくさん勉強して立派な社会人になった愛ちゃんを俺たちに見せてくれ。その時が来るまで俺たち3人は必死で家族を守り生き抜いて行こうって誓いあったんだ。 愛ちゃんと出会えて本当に良かった。
本当にありがとう・・・
その日が来るのを楽しみにしています。 》
(通帳を開けてみたら?)
担任のいうとおりに開いてみた。その金額に絶句した。
(こんなに?ダメだよ。もらえない。私、受け取れない・・)
通帳に記載されてた金額は、1000万円。 どんな理由があるにせよ、このお金は玄さんたち3人がホームレスになりながら必死に働いてきて残したお金に違いない。絶対に受け取るわけにはいかない。私はすぐに【六郷村】に行くことにした。
(先生、やっぱダメだよ。こんなの。)
(あ、月岡さん、ちょっと待って!!まだ話が・・・)
担任を振り切り、一目散で六郷土手に向った。
駅を降りて【六郷村】に着くと、玄さんたちの家が解体され始めていた。区の職員たちや作業員の人が廃材となったものを運んだりしている。
(あの・・すいません、ここにいた人たちはどうしたんですか?)
(え?玄さんたちだろ? 昨日、家族の人たちが来て、区役所で色々手続きなどもして、それぞれ家族の元へ帰ったよ。夜、遅かったけど。)
(え?支援施設でとりあえずってことではなかったんですか?)
(うーん、よくわからないんだけど、家族と一緒に帰ったようだけど・・)
区役所に行き、玄さんたちの住所を教えてもらうことにした・・・が、区役所によれば個人情報保護法というのがあり、むやみに所在地などは教えることが出来ようになっている。
担任から連絡が入った。
(月岡さん、今、どこ?)
(蒲田にいます・・・)
(今から、そっちに行くから、蒲田で話そう。まだ終わってないの。)
担任と蒲田で会うことになった。
(ちょっとスタバにでも入ろうか?)
担任とスタバに入り、先ほどの続き・・・
(玄さんたちのお金のことだけど、月岡さんには奨学金として渡してくれって言われたの。大学を卒業して社会人になったら少しづづ、返してくれればいいってね。おばあちゃんに負担をかけたくないってことも月岡さんから聞かなくても、玄さんたちは分かっていたのよ。それに、おばあちゃんにも会いにいってそのことを伝えたようなの。)
(それでおばあちゃんは?何て?・・・)
(もちろん、拒否はしたでしょう?でもね、玄さんたちの気持ちをありがたく受け取りたいってなったの。だから月岡さんも、玄さんたちからの奨学金って理解してそのお金は月岡さんが大学を卒業し、就職をして社会人になり、お給料ももらえるようになったときに返していくということで玄さんたちの気持ちを受け取ったらどうかしら? )
祖母に負担をかけたくない一面、玄さんたちにも迷惑をかけてるようでその両扉に挟まれている・・・
私は玄さんたちの【奨学金】を受けることにした。これも玄さんたちへの孝行だと自分に言い聞かせた・・・・担任にもこの気持ちを伝えた。
(玄さんたちもきっと喜んでる・・あとはおばあちゃんに任せて、月岡さんはしっかりと大学に通うことよ。)
私は色々な人から、守られている・・・玄さんの手紙ではないが【神様】というのは絶対に存在してると思う。だってこんな危機の場面で必ずと言っていいほど助け舟が出る。私も生かされてるんだ。だから支えてくれる人たちの期待を裏切ってはいけない。また、感謝の気持ちを持ち、恩を返すことも忘れてはいけない。 また、これからの人生、色々なことを学ぶことにもなるのだろうから・・・・
私は何のお礼の言葉も出来なく、玄さんたちとの別れを迎えた・・・・




