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ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
17/22

東京に到着

品川駅に着き、祖母に電話した。


(おばあちゃん、今、品川に着いたよ。これから京急蒲田に行くから。)


(無事に帰って来たね。どうだった向こうは?)


(うん、雪が凄くて。でも旅館に人たちも良くしてくれて新しい友達も出来たんだ。)


(良かったじゃないか・・駅に着いたらこっちに寄りな。)


(分かった。じゃ今から行くね。)


新幹線の改札口を出ると、品川駅は夜7時過ぎということもあり帰宅ラッシュで凄い人だ。何とか掻き分けて京急線のホームまでたどり着いた。快速三崎口行を乗り祖母の家へと向った。


京急蒲田駅に着いて、ようやく自分の家に戻れるんだな・・・という気持ちで体が楽になった。祖母の家に着き、荷物とお土産をドスンと置いて、しゃがみ込んだ。


(疲れたろう?お風呂に入りな。愛の好きはおでんも用意してあるから。)


(おでん??ありがとう。じゃ、すぐにお風呂に入るね。)


靴を脱ぎ一目散にお風呂に向った。 湯上りにサッパリしたはいいが、逆に疲れが出てきてしまい、とても眠い・・・


(大学はどうだった? 難しかったかい?)


(うん、でも頑張ってやったよ。あとはどうなるか・・だけど・・)


(大丈夫だよ。愛なら合格する。頑張ったんだから・・・)


(でも、あんな豪華な旅館をとってくれて本当にありがとう。他にも私と同じ受験生がいたんだ。)


(豪華だなんて、何てことはないよ。あの旅館は韓国ドラマにも出てきたとこなんだよ。だから、調べて予約したんだよ。ご飯とか美味しかっただろう? )


おでんを食べながら祖母との話が弾む。 祖母には、秋田名物、【金萬】と【なまはげせんべい】を渡した。お腹いっぱいになり、眠気もマックスになる。


(お土産なんていいんだよ。今日は泊まっていきな。明日、朝、帰ればいい。休みだろう?)


(うん、そうする・・・)


すぐに布団に向い、そのまま意識を失った・・・


翌朝、明日、学校と玄さんたちにも渡すお土産を分け自宅に戻った。 明日は学校に行ったらまず、担任と校長先生に報告しなければならない。自信はないが一生懸命、頑張ったということだけを伝えようと思っている。




週明けの月曜、JR蒲田駅に向いながら思う。あと3週間ほどで高校生活にもピリオドを迎えるのだ。私の高校は夏休みが少ない分、春休みが多い。3月3日の雛祭りに卒業式となっている。学校には【雛飾り】が出来、卒業していく生徒たちを見守ってくれる。合格か不合格かは分からないが正直、たぶん受からないだろうというのが私の気持ちだ。でも、色々な人から支えられて一生懸命、頑張れたことには感謝しなければならない。人はやはり一人では生きていけないのだ。


学校に着き、職員室に入り、担任と校長先生にお礼を言った。


(ありがとうございました。無事に試験も終わりました。)


(そうか。よくやった。向こうは寒かったろう?)


(月岡さん、よく頑張ったわね。疲れたでしょう?)


担任と校長先生にお土産を渡した。


(なまはげせんべいと金萬じゃないか? ありがとう。)


(あと、クラスの人たちにも・・)


(ありがと。みんな喜ぶわよ。じゃ、行こうか?)


教室に入り、クラスメイトたちに、なまはげせんべいと金萬を配った。 秋田名物は思いもよらぬ好評で、みんなからありがとうと言われ少し照れ気味・・・


秋田でのことや試験のことなど、色々聞かれ、今までこんなにクラスメイトと接したことないよな・・と思った。


担任から・・・


(あと、3週間ほどで卒業式を迎えます。一月にセンター試験を受けた人は来週には合格発表があります。本当に高校3年間の生活はあっという間です。一年365日というのは長いようで短いです。この高校で過ごした3年間はきっと貴方たちにプラスになることだと思います。みんな、本当によく頑張った。)


本当にあと数週間で高校生活が終わる。クラスメイトの中には涙を流してる人もいる。合格発表があり、就職する人は採用通知がありとそれぞれの道に行く。あまり親しくはなかったがクラスメイトたちとも別れが近づいてると思うと、寂しい気持ちになる。


担任の話が終わり、卒業式までの日程を配られた。卒業式までの一日の授業はほとんど午前中で終わり、間に休みもある。高校生活、最後のご優待というとこか・・・


午前中で学校が終わり、【六郷村】に向った。


玄さんたちの家に着くと、ケンさんと譲さんもいた。


(愛ちゃん、無事に帰って来たね。受験はどうだった?)


(雪が凄くて、試験も難しく面接が大変でした。あ、これお土産です。)


(ありがとう。あまり気をつかわなくてもいいぞ。)


(あと、これお釣りです。お土産代だけ引きました。)


(何だよ? いいんだよ。このお金は愛ちゃんにあげたんだから。・・・)


(いえ・・やっぱり、貰うのは・・・)


(いいから、取っておきな。あ、それと愛ちゃんにも話とこうと思ってさ・・)


玄さんたちから頂いたお金は、受け取ってもらえなかった。ありがたくいただくことにした。 


(ありがとうございます。ほんとに・・ 話というのは何ですか?)


(俺たち3人のことなんだけどね・・)


玄さんによると、この春を目途にこの【六郷村】を離れることになるそうだ。そのキッカケとなったのは、玄さんの息子さんがこの【六郷村】に訪れたからだ。区の職員と一緒に来たときには、動揺を隠せず驚いたそうだ。ずいぶんと長い年月、音信不通だったが息子さんが懸命に父である玄さんを探しこの大田区にいるという情報を得て、区役所に相談に来た。そこで調べてもらいこの【六郷村】に住んでることを知った。またこれが機になりケンさんも、離れた家族と再会することになり、また譲さんも娘さんたちがずっと探していており警察にも捜索願をだしていた。その警察により【六郷村】にいることが分かって娘さんたちとも再会をした。


玄さんは・・・


(俺は昔から大工だったろ?所帯も持って子供も出来て、家も建ててなんてごく普通の幸せな家庭だったんだ。でもな、その大工仲間で一番、信頼しているヤツの連帯保証人になっちゃってさ。そしたらそいつ、借金だけ残して逃げやがったんだ。自分の家を担保にして金だけ分捕って。その担保になってる家の支払いがみんな俺のところに来たんだ。自分の家のローンとそいつの家のローンと銀行からの借金だろ?もう身動きできなくなって、自宅を差し押さえられ、その金で返してもまだ残ってるんだ。いくら働いても返せる額じゃなく、自己破産という形になった・・・俺の家庭は一家離散だよ。息子と娘は女房が引き取ってさ。まだ、中学生くらいだったかな? 可愛そうなことをしたよ。俺の不始末で。息子が区の人と来たときには誰かと思ったよ。笑。立派な大人になりやがってさ。25,6だって言ってたかな? 10年以上も経つと子供もずいぶん変わるよな。息子が俺の娘と女房の写真を見せたんだ。娘も結婚して子供もいて・・こんな俺にも孫が出来たんだって思ったら、たまらなく涙が出てきたんだ。 もう一度、再出発をしようと思った。)

玄さんは区の支援もあり、就労支援と住所を取得するためにネットカフェに泊まり歩いてる人やホームレスの人たちを保護する支援施設に一時的に身を寄せ、仕事が見つかり落ち着いたころに家族の住む場所へと移る計画になるようだ。


一方、ケンさんは・・・


(もともと名古屋に住んでいて、高校も大学もそっちだったんだ。大学卒業後は新卒で東京の会社に就職してね。こっち来たんだ。職場恋愛でさ。楽しかったな。結婚もして25年働いて定年まで頑張って家族と幸せな家庭をって思ってたら、突然、上司に呼び出されてね。 社員研修って名目で群馬の山奥の施設に行くことになったんだ。行ったはいいけど仕事に関係することは一切しないんだよ。朝から夜まで、木の伐採や草むしり、トイレ掃除・・そんなのばっかりで。一週間くらいで帰れるかと思ってたら帰れないんだよ。そこで初めて分かったんだ。これは研修という名目のリストラ・・・いわゆる解雇って名の退職研修なんだって。この研修で退職願を書くまでは帰してくれないんだから・・世間で名の通った上場企業が影ではこんな卑劣なことするんだよ。 玄さんと同じ、家のローンもあったし、また子供が高校へ入学なんて大変なときにこんなことになってしまって。もう年も50近い年齢だったから、雇ってくれる会社なんて皆無だったな。 退職金で家のローンは払えたけど、娘2人は将さんが引き取り、離婚した。 人生なんてそんなもんか・・って思ったな。)


しかし、私が秋田に行っている間に、娘さん2人がこの【六郷村】に来た。それも奥さんと一緒に。


(初めは目を疑ったよ。まさか?ってさ。だって間違ってもここに来るなんて思ってもなかったもの・・どうしてここが分かった?って聞いたら、テレビを見ていたらこの六郷土手が出て偶然、俺とこの小屋が映って、それで分かったらしい。まったく世間って広いようで狭いよな。)


ケンさんも家族が区の人と連絡をとり色々と相談した結果、就労支援や住所取得のため、玄さんと同じ、支援施設に身を寄せることなった。すぐにでも家族の元へというのが一番、早いのだが玄さんもケンさんも今までの【ケジメ】としてこのような方法をとるようだ。


譲さんの家族は、行方が分からなくなったときにはすでに警察に捜索願を出しており、心当たりあるところはすべてあたっていた。しかし、分からず本人からの連絡をずっと待っていた。そんな折、警察と区が路上生活者の調査をしてるとき偶然にも譲さんの身元が分かり捜索願が出されてるのが分かったらしい。


(まさか、家族が自分を探していたなんて思わなかったよ。警察と区の人が来たときには何かやったか?と思ったから。色々、説明を受けてるうちに俺のことを探していたんだってようやく理解できた。娘2人も一緒に来てね・・・こんなに大きくなったんだって思ったら涙が止まらなくなっちゃってさ。警察署に行って事情聴取も受けて区の人にも色々、支援を受けることになったんだ。)



譲さんは、玄さんとケンさんとは違い、娘さんと奥さんの説得もあり、家族の住む家に直接、身を寄せることになった。玄さんたちと同じ、就労支援を受け、再出発にも意欲的だ。


(俺は、大学を卒業した後、大学の先輩の紹介で会社に入社した。当時は、最難関な企業でね。先輩が口利きをしてくれたんだ。ケンさんと同じ、職場恋愛でさ。笑。結婚もして子供出来て、家も建ててさ。本当に幸せで楽しかったよ。ケンさんも言ってたけど、俺の勤めてた会社でもリストラ研修はあったんだ。でも、まさか自分が・・?って思ってたから。何年か前に、リーマンショックってあったろ? その時だよ。俺もリストラされたの。業績が前年比よりずいぶん落ちて結構な人数が対象になったんだ。ほとんどの人が希望退職に応じたんだけど、俺は留まりたかった。だって、先輩から紹介され、恋愛もして、結婚もして、なんて思い出がたくさん詰まった会社だもの。そうそう簡単には辞めたくなかった。ある日、いつも通り出勤したら、上司が、今日からここで仕事するようにって別の部署につれて行かれたんだよ。そしたらその部屋が狭い物置部屋でさ。椅子と机があり周りには段ボール箱や使えなくなった備品などが散乱していて、ついに俺にも来たなって思

った。仕事を全く与えられず、ただ座って一日いるだけ。なんて真面な人間ならおかしくなるよ。 翌日には退職願を出したな。 2人と同じ、家のローンもあり娘たちもこれからってときにこれだから。 俺も人生、こんなもんか・・って思ったよ。 ケンさんと一緒で、退職金を女房に渡し、家のローンを完済させて俺は、そのまま家族との連絡を絶ったんだ。でも、まさか、探してるとはね・・・)



(3人が一緒に生活するキッカケは何だったんですか?)


(俺ら3人は、この六郷土手の炊き出しで出会ったんだ。世間から身を引いてお互い長い月日も経って、人生観も似ていてさ。不思議と馬が合ったんだよ。それに空き缶や段ボール拾いはしない。ちゃんと仕事はしているんだ。まぁ、ネットカフェなんかに泊まりながら生活してる連中と同じく日雇いのバイトだけどな。でも、仕事によっちゃぁ一日、イチゴー(15000円)くらいになる仕事もあり、3人とも25,6日は稼働しているから意外に金持ちなんだよ。笑。靴磨きもしてるしな。笑。 それに借金っていうのがない。3人とも、たっぷりと経験しているからな。)


秋田に行っていた、一週間の間に、私も玄さんたちも大きな動きになっている。これも【転機】というものなのだろうか・・・


(俺ら3人、愛ちゃんと出会ってから、光が見えてきたような気がするんだ。もう一度、チャンスを与えてくれるってさ。)


私も同じだ。玄さんたちと出会ってから自分の環境がぐるりと変わった。玄さんの言葉じゃないが、光が見えチャンスを与えてくれたような気がしてならない。


玄さんたちも私も新しい人生のスタートなのだ。



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