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ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
13/22

玄さんに報告

週末の土曜日、私は玄さんに面談のことを話に行った。携帯を教えてもらおうと思ってるにもかかわらず、いつも忘れてしまう。 蒲田にいるかもしれないけどたぶん【六郷村】かと思い向かった。 しかし予想は外れて、ケンさんと譲二さんがいた。


(おお、この前はどうだった? 結構、楽しいだろう?ああいうのも?)


(ハハハ・・そうですねぇ・・あの、玄さんは?)


(玄さんは今日は蒲田にいるよ。夕方になるかな・・帰るの。)


(あ、そうですか・・・あ、それで玄さんの携帯を教えてもらいたいんですが?)


(携帯? 俺たちは持てないんだよ。だから玄さんもないよ。)


(え?何でなんですか?)


(笑。見ての通り、俺たちは路上生活だろ?住所不定になるんだよ。だから身分証明もないし・・・当然、カードなんかも持てない。だから携帯はないんだ。)


そうか・・そうだったんだ・・・携帯を持つには身元を確認しなければならないし、それに銀行口座かクレジットカードが必要になるんだったけ・・・


(蒲田まで行ったらどうだい? まだ朝の時間だから話せると思うよ。)


(分かりました。じゃ、行ってみます。)


2人を後にして蒲田に向った。面談明けの土曜日の朝は天気もよくとても気持ちがいい。玄さんにもいい土産話が出来そうで私もうれしい。


JR蒲田駅に着き、地下通路に下りた・・・あれ? いない・・別の場所にいるのかな・・・辺りを見回してもいない。蒲田にいなければどこにいるんだろう・・・駅ビルの周りを歩いてみたが玄さんは見当たらない。 あ、そうだ。地下通路上の交番に聞けば分かるかもしれない。 交番に入り、警察官の人に聞いてみた。


(あの、この下で靴磨きをしているおじさん、今日はいなんですか?)


(玄さんのことかい?)


(はい!そうです。)


(玄さはね、さっき区役所の人とホームレスの人たちを見まわってる町会の人とさ、一緒に行ったよ。そこの大田区役所で何か相談してるんじゃないか? これから寒い時期になってくるからね。行ってみたら?)


(あ、分かりました。行ってみます。)


駅ビルのとなり、区役所に向った。 区役所で相談となると社会復帰だとかそんな感じなのかな・・23区の多少の違いはあるが、大田区では路上生活や河川敷で生活している人たちの就労支援や自立支援を積極的にしている。生活保護の申請をしシェルターと呼ばれる保護施設に一時的に住み、住所を取得して社会復帰を目指す・・玄さんやケンさんなども対象になってるのだろう。【六郷村】にも区の相談員などが定期的に来ていると聞いたことがある。


区役所に入り受付で尋ねた。今日は土曜日だから、中は閑散としている。しかし待合所には、ホームレスらしき人が居眠りしてたり新聞を見てたりとしていた。 受付のお姉さんが上に案内してくれた。エレベーターを降り、会議室みたいな場所に来た。今日は路上生活の人を中心に、健康状態や生活状況などを聞き取り調査をする日のようで結構、賑わっている。でも、見た目、ここにいる人たちホームレスに全然見えない。何か仕事帰りの人たちが来ているみたいでちょっと驚き。 私は玄さんを探した。 ちょうど医師の診察を受けてたようで終わったあたりを見計らい声をかけた。


(おはようございます。さっき六郷まで行きました・・)


(おお、愛ちゃん、よく分かったな?ここ。)


(交番の人に聞いて来ました。)


(そうか。今日は、俺ら路上連中の定期検診なんだ。いろいろな相談なんかもしてさ。ところで学校はどうなった?)


(はい。そのことで玄さんに会いに来ました。)


(よし。早速、報告会だな。スタバに行くぞ。)


(へ?スタバ・・・ですか?)


(駅の改札の前にあるだろ?そこだよ。)


玄さんがスタバなんてビックリだ。スタバでもコーヒタイムをしてるのかな・・駅ビルを上がり、スタバに入った。


(さ、好きなものでいいぞ。俺はこれだな。)


玄さんはコーヒにこれでもか、というくらいのホイップクリームとチョコがかかったもの、私はスタンダードに季節のコーヒーをオーダーした。マックの100円コーヒーが一番の贅沢である私にはスタバなんて、大人のコーヒーを嗜むにはまだ早いような気がする。


(愛ちゃん、これも食べな。このサンドイッチ、マジで旨いぞ。)


アボカド・チキンサンドという、少し変わったパンだ。玄さんは、ハニージンジャーポークという細長いサンドイッチだ。


(さ、こっちおいで。奥の方が話もしやすいだろう。)


店内を見渡すと土曜だというのに、結構、混んでる。改札の目の前かもしれないが人通りも多い。時刻を見るとまだ、10時前。グランディオも開店前。 コーヒーを口にし、パンを頬張りながら玄さんに話した。


(そうか!受験か!そうこなくっちゃ。それにしても【秋田国際大学】なんてスゴイ大学を受験することになったな?)


(え?知ってるんですか? )


(当たり前だろ? 笑。 こう見えても新聞やニュースは欠かさないんだ。ラジオもNHKとかだ。新聞だって経済新聞だ。スポーツ新聞などまず見ん。)


(へぇ・・・じゃ、パチンコやギャンブルなんてしないんですか?)


(俺もそうだが、ケンさんも譲さんも賭け事は一切しない。ま、お互い色々な事情がありこんな生活だけど乱れた生き方はしてないつもりだ。あの2人もちゃんと職があるしな。ところで愛ちゃんの受験する大学、上場企業から引っ張りだこなんだぞ。就職率もほぼ100%なんだから・・)


(100パー・・・? ですか???)


玄さんによれば【秋田国際大学】はまだ設立して10余年ほど。4年間の在学中は寮生活、授業はすべて外国語、内一年間は海外留学。今の時代、有名大学卒だけでは就職はとても厳しいそうだ。なぜその厳しい時代にこの【秋田国際大学】は就職率はトップクラスなのだろうか? まず、授業の質。先生といわれる人がすべて外国人。イギリス、フランス、イタリア、中東、韓国、アメリカ、ロシア、中国など世界から来ている。話す言葉もすべて外国語。この4年間で相当な会話力が身に付くという。それだけでなく実際に海外でも生活しながら学びその国の習慣、歴史など生で体験できる。次に、寮生活。日本人だけでなく外国人の生徒もいる。そういう人と一緒に生活するということもコミュニケーション能力を養うのにはとても良い環境だろうし、ましてや秋田といったら冬はつらいだろうが、春、夏など自然の中で過ごしやすいはずだ。まさにグローバルな世界でそれに自然の中で4年間、生活することが出来る。


今や4大卒なんていわれる時代ではない。実践力なのだ。外国語力、コミュニケーション力、・・・それらが問われる時代なのだ。 玄さんの話を聞くうち、私も何だか気持ちが熱くなってきた。


(愛ちゃんもこの大学を卒業するころには、ずいぶんと成長してるんだろうな。)


(でも、推薦といっても一般の人と同じく試験はするんです。)


(大丈夫だよ。自信持ってやってみな。愛ちゃんなら絶対に合格だよ。あ、そうだ、ケンさんや譲さんにも色々聞くといいよ。これから行くかい?)


スタバを後にして玄さんと【六郷村】に向った。 玄さんの家に着くとお二人は何やら書きものをしている。


(ケンさん、譲さんよ、愛ちゃん、【秋田国際大学】に行くんだってよ。受験の時のこととか思い出して話してやってよ。)


(本当かい?【秋田国際大学】なんてすごいじゃないか? あそこの大学は就職率もいいんだぞ。)


(それも【推薦】なんだよ。だから尚更、行けっていったんだ。)


(【推薦】なんて滅多にもらえないよ。愛ちゃん、絶対に行けよ。な。)


(はい。でもちょっと不安で・・・・)


(誰でもそうだ。俺たちだって大学受験のときは、不安で不安で寝れない日もあったんだから。だけどな、我も人なり彼も人なり・・・って言葉があるだろ?自分だけでなく周りの受験生たちもみんなそうなんだよ。不安と戦い、それに打ち勝つことによって良い結果が出るんだ。だから愛ちゃんも、私だけでないんだ・・みんな同じなんだ・・・って思って受験に挑みな。)


ケンさんが励ましてくれた。譲さんも、


(俺が大学受験のときは、第一希望の大学はダメだったんだ・・・すごく落ち込んでね。受かったのは、第2希望の大学だったんだけど、正直、行きたくなかったんだ。初めから行こうと思ってた大学じゃなかったんだ。それで、進学せず働くつもりでいたんだよ。そしたら担任の先生がさ、そんな気持ちじゃダメだ。今、ここで踏ん張らないとお前、惨めな生き方をするぞ!って言われてさ・・笑。 その先生が言うには、金、仕事、女、セックス・・これら全部、お前、手に入れられないんだぞ?出来なくなるんだぞ?って。


始めは、何言ってんだろう???って思ったけど、後々、大学に進学して就職して結婚もしてさ・・子供も出来て【家庭】というものを得たときに、このときに先生に言われたことを思い出して、あぁ・・先生の言ったことは本当だったんだな・・って思ったよ。ま、その後は色々なことがあったけどな。結果的にはよい人生だったよ。だから今でもその担任には感謝しているんだ。)


玄さんも語り始めた・・・


(俺はこの2人とは違い、中学を出た後、すぐに大工の道に入ったんだ。初めは【小僧】って言われるとこから始めてな。親方や職人さんなどの使い走りだよな。要は。道具のドの字も分からなくて怒られながら仕事をしていた。何度も辞めたいと思って逃げ出そうとしたこともある。でも、辛いくて耐えられなくても【家】が完成したときのあの達成感は何とも言えない気持ちになるんだよ。何もない更地から土台をつくり骨組みの材木を組み立て壁や屋根や窓などを作り上げていく・・・完成した【家】を見て家主さんが涙を流すんだよ。ありがとうございます・・ってさ。それを見ると俺もいつかはこんな立派な【家】を建てて感動させてやるって思ったんだ。そうすると仕事に対する意欲も変わってきて面白くなってくるんだ。道具も初めは分からなかったのに、ノミや鋸、げんのう・・なんて覚えてきて使い方も一工夫、加えたりしてさ。大工の仕事に限らず、学業でもそうだが、諦めたらそこで終わりだよ。そこでその人の成長は止まる。これは間違いないよ。 だから、愛ちゃんもおばあちゃんや先生が支えてくれてるんだから、絶対に、大学に行くべきだ。)


私は嬉しい。先生や祖母だけでなく、出会って間もない玄さんたちにも守られている。やるべきだ。絶対に行くべきなんだ。私の決意は強く固まろうとしていた。


(受験まであと、2か月もないじゃないか? それまで少し集中してやったらどうだ?)


(試験も終わり、あとは結果までって時にまたおいで。それまでは大学受験に集中したほうがいいな。)


玄さんたちも私を見てくれている。 そうしよう。玄さんたちの言うとおりにしよう。絶対に合格して玄さんたちに合格通知を見せてあげるんだ。


(私、絶対に合格して玄さんたちに会いに来ます。)


(期待して待ってるぞ。頑張ってこい!)



あと、2か月もない大学受験に向けて、私は高校生活、最後の挑戦に挑むことになった。





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