小説家な俺
俺は一年前からずっと戦い続けている。もちろん比喩で、何とと問われれば、そうだな。
一言もしゃべらない妹とか、めったに帰ってこない母親とか、まだ高校生でしかない自分のはがゆさとか、まあそういった諸々とだ。
俺たち兄弟は、血が繋がっていない。
お互いの両親が、連れ子付きの再婚同士だったからだ。
その後、思い出したくない事情は省略させてもらうが、いま、この家には俺たち兄妹と母親(めったに帰ってこない)の三人しか住んでいない。それがすべてだ。
それから……俺のたった一人の兄妹である妹は、なぜか俺と口をきかなくなった。しかも、部屋からもあまり出てこない始末…
「なにやってんだかな」
その呟きは、妹に対してか、それともふがいない自分に対してか。
もしくは、その両方か。
食事を終えた俺は、一階の自室へと入り、机に座る。
「さぁてと」
B5サイズの可変型ノートパソコンを広げた。
俺は、小説家という職業についている。
俗称になるが、ライトノベル作家といえばわかりやすいだろう。中学二年の時にライトノベル新人賞の選考員奨励賞を受賞しデビュー。ちょうどあの事件があった頃だ。
以来三年間、学校に行きながら、兼業作家として活動している。
中学生デビューというのは、かなり珍しいそうで、同ノーベルに俺より年下の作家は、一人しかいないらしい。
初投稿でいきなりデビューしてしまったので、多くの作家志望者が悩むであろう苦労の道程を、俺は知らない。当時は『俺って天才かも』と増長しかけたこともある。
が、そんな仮初めの自信は、得てしてすぐに打ち砕かれるものだ。
いまでは『俺って運よかったんだな』って思ってるよ。
ペンネームは山須江ヒロト。ほぼ本名。
家族を含め、仕事関係者以外には内緒にしているので、俺が高校生作家だということは、クラスのやつらも知らない。
__今までは。
「どうかな、ばれたかな」
ドキドキしながら呟く。
明かしてしまうと、昨日、初めてのサイン会を執り行ったばかりなのだ。
デビュー三年目にして、初のサイン会だ。
クラスメイトにバレると恥ずかしいという理由で、今までは一切顔出しをしてこなかったのだが、今回だけは特別だった。
だって……
続く…
今回も見ていただいた方、本当にありがとうございます。
これからも書いていこうと思うのでどうぞよろしくおねがいします。