妹の声がききたい
四月のある日。俺は一人、キッチンで料理を作っていると二階から大声で叫んでいるのが聞こえた。
「わかってるって、ちょっと待ってろ」
腹が減ったと叫んでいる。料理ぐらい一緒に食えばいいのに…。
どうしてなのかな……
何の話かというと俺の妹の話である。
俺は、山須江広人16歳 高2。
妹は、山須江華穂12歳 中1。
親は働いていてほとんど家に帰ってこない。実質二人暮らし。
俺にとって唯一共にくらしている妹だがほとんど口をきいてくれない。
どうして突然口をきかなくなったのか俺には理由がわからなかった。
久しぶりに帰ってきた母親と話していても俺が来たら話すのをやめる徹底ぶりだ。
ここまでかたくなに口をきかない人は、そうそういないのではなかろうか。
俺たち唯一の兄妹交流がさっきの叫び声だっていうんだから……
どうしたもんかね…
「よし、できた」
こんがり炒めたチャーハンに、トマトときゅうりのサラダ。これが妹好みの食事である。
「あいかわらずうまそうな夕食だな」
我ながら長年の料理作りのおかげですっかり手際が良くなった。
俺は今作った食事を全てお盆の上に載せて、妹の部屋へと運ぶ。
誰もいない部屋ばかりの廊下を次々に通り過ぎ、階段を上っていく。
片足に体重をかけるたびにぎしぎしと音が鳴り、食事の到着を妹に知らせる。
二階建ての一軒家はほとんど二人暮らしの俺たちにとって広すぎるといつも思う。
俺の妹の部屋の扉にはハート形のネームプレートがかかっていて、可愛い字で「kaho」と書かれている。
軽くノックし、
「華穂、メシもってきたぞ」
待つ。
じっ、とそのまま一分ほど待ち続けてから、俺はお盆を床に置いた。
「ここに置いとくからちゃんと食えよ」
こめかみを掌で叩き、溜息をつく。
そして俺は置き紙を置いて、今日も妹にメッセージを伝える。
____何で怒ってるかわかんないけど部屋から出てきて声を聞かせてください__
それが俺の、たった一つの願いだった。
続く………
「決して妹なんか好きじゃない」を見ていただきありがとうございます。
皆さんが面白いと思っていただけたら幸いです。
次作は一か月以内に投稿します。
もし興味があれば見てください