4月の問題~血の入学式~
4月10日 職員室
この時期、学校は出会いの季節。
新入生、次の学年への進学等々あるだろう。ちなみにこの日、俺たちが通う天ヶ原高校の入学式当日である。新入生が新たな道に進む儀式。そんなめでたい日に・・・。
何故か俺たちは職員室に呼び出されていた。
「何してくれてんだお前らぁぁぁぁぁ!」
職員室でのいきなりの怒号が飛ぶ。
この怒号の矛先にはもちろんというかやっぱりというか、俺たち二人しか学生はいないのだ。だからその怒号は俺たちに向けられているのだろう。だが俺たちには何故怒られてるのか皆目見当がつかないのだが・・・。
俺の方は形なりにも微量ながら反省の色は一応見せてはいるが、もう一人、まぁこいつは俺の幼馴染だが、反省する素振りも見せず、パーカーのフードを深く被り不満そうにほほを膨らませている。
「あれは僕の所為じゃないでしょ!桜兎が原因じゃないか!」
「いやいや、元はと言えば千尋があのアホに調子に乗って突っかかって行くのが悪い。 俺の所為じゃないな。それにあれは穏便に済ませたかったからああするしかなかった。それなのに千尋はやきもち焼いて・・・」
「うにゃー!焼いてない!微塵とも焼いてない!僕もああされたかった!じゃなくて!桜兎が悪い!ニヤついてたし!」
「本音漏れてるぞー。あと俺は悪くない。それにニヤついていない。」
この無意味で不毛な言い争いの途中であるが、まずは俺たちのことでも紹介しておこう。
まずは俺、桜兎と呼ばれていたが、名を桜井 桜兎何気に読みづらいと思うがこんな名前である。ちなみに俺は自分の名前を気に入っている。この春2年へと首席で進学し自分で言うのも何だが、言わば『天才』である。しかし今現在こうして怒られているので、特に優等生というわけではない。
そしてもう一人、千尋と俺が呼んでいた女子、名を千石 千尋一人称が『僕』と珍しい言い方をし、俺より問題を起こすが一応、生物学上、女子だ。俺と同じく2年。だが俺とは違い、言わば『馬鹿』である。ちなみに俺は千尋と知り合ったその日からの監視役でもある。
「お前らの辞書に反省と言う文字はないのかぁぁぁぁ!ゴラァァァァ!」
「俺は反省していますよ。焼肉のカルビに入っているビタミンC程度の反省を。ちなみに味付けなしのカルビです。」
「あ、僕もそのくらいで」
「カルビにはほぼビタミンC入ってねーよ!つまりは反省してないんだな!してないんだろう!」
そしてこのギャーギャーうるさいアラサー・・・もとい先生は俺たちの担任。桃野 桃香可愛らしい名前とは裏腹にとても怖く、いつも怒っている。おそらくは婚期が危ないから焦ってでもいるのだろう。ちなみにこの人は意外というか、意外しかない秘密があるのだが・・・まぁ今はその話はよそう。
「おい桜井、何かとんでもない失礼な事考えてないか?」
「い、いいえ別に何も」
あと付け加えるならば無駄に勘がいい。俺にとっては極めて厄介だ。いつもは愛想笑いで誤魔化しているがそれすら見破る。勘で。
とまぁ紹介の方はここらへんにして、なぜ俺たちがこんな怒られているのか。まったく身に覚えのない、言わば濡れ衣のような出来事だったのだが話くらいはさせてもらおう。 こういう場くらいでしか愚痴が吐けないから。
何があったかと言うと、今から約2時間前に遡る。
同日2時間前 体育館裏
千尋と一緒にいつものようにいつもの時間いつもの道を通りいつもの校舎に入ろうとした瞬間、桃野先生に呼び止められた。
「桜井、ちょっといいか?ついでに千石も一緒でいい。急で悪いがお前らに頼みがあるんだがいいか?」
「頼み?いきなりですね・・・俺らにできることなら、まぁ」
「ありがとう。で、頼みごとの本題だが、今日入学式だろ?実はな、3年の代表が新入生に向けてスピーチをする予定だったんだが、風邪で欠席してな。そこで首席で進学した桜井にスピーチの代役をしてもらいたい」
「べつに構いませんが、千尋が一緒の意味が分かりませんよ。それ」
「うん、自分で言うのもなんだけど桜兎のサポートとか僕にはできないよ?桜兎は一人で何でもできるから」
「それはわかっている。それでもう一つの頼み事があるんだが・・・毎年必ず入学式への不参加者が出てくるんだ。それでサボるんだよなぁ、どっかの誰かさんのように・・・」
「うぐ・・・」
桃野先生に睨まれる千尋。確か去年の入学式、こいつサボって体育館の裏で寝てたんだっけ・・・まぁ俺もその時一緒に寝てたが。
「昔の事じゃん・・・大目に見てよ」
「ま、それはいいとして、そのもう一つの頼み事だが、お前たちにそのサボりが居ないかの見回りもしてもらいたい」
「えー・・・何で僕たちが見回りなんて・・・」
「まぁ、その、なんだ・・・見回り役の奴もいたんだが・・・」
「休みですか」
「・・・ああ」
先生は頭を抱えている。心中察するにこの厄介ごとを押し付けられたのだろう。誰でもいいから代理見つけて来いとでも言われたのだろうか。まぁ桃野先生は1年の時の担任だしいろいろと世話になった身だ。ここは協力するのが吉だろう。何かあった時の責任は先生に任せればいいか。
「わかりました。そっちも引き受けましょう。となればスピーチの時間まで見回りしてればいいですかね?」
「ああ、それで構わない。見回り場所は体育館の周りだけでいいぞ」
「面倒くさいなぁ・・・・」
「そういうなって。終わったら俺がなんか奢ってやるから」
「僕、全力で頑張らせていただきます!」
「現金なやつめ・・・」
珍しく先生と意見が一致した。俺以外から見ても千尋はこういう欲深い女なのだろう・・・あれ?本当に女なのか?こいつ・・・
食事量も俺より多く、食べるのが速く、横取りしようとするとネコのように威嚇する。と言うくらいの飯好きなのだ。だからこう食べ物が絡むと女に見えなくなる時がある。うん、言うなれば女の皮をかぶった獣だ。しかも何でも食うから雑食の獣。いつか俺も食われるのかもしれない・・・。
とまぁ、この話は置いといて・・・
「じゃあさっそく見回りしてきます。さっさと行くぞ千尋」
「はいはーい」
「じゃあよろしくな。スピーチの時間になったら電話をするから携帯はちゃんと持っとけよ。まぁ一応日程表も見とけよ。そこにスピーチ開始の時間がかかれてるから」
「わかりましたー」
俺たちは鞄を新しい教室に置き直ぐに体育館に向かった。
まぁどれほどの新入生がサボっているかの確認で、まずは体育館内を見てみようとしたが運がいいのか悪いのか確認する前にサボりをかました新入生を見つけてしまった。何故新入生と分かったのかと言うと、律儀に新入生用の花飾りをつけていたのだ。素行の悪い学生と言うのは無駄な事に律儀でよくわからない。例えるなら制服姿、しかも校章のバッチを付けてカツアゲをする学生と同じような感じだ。数は・・・1,2,3・・・計5人。そのうち一人はなぜかジャージ姿に花飾りをつけていた。違和感がありすぎる。
「見つけた・・・いいか千尋、事を荒だてず慎重に・・・ってあれ?」
隣に居た千尋を見る。居ない。
「あいつ・・・まさか」
「アチョー!」
「あ?なんぐふぁぁぁぁぁぁ!!」
「何してんだ千尋ー!?」
やりやがった・・・いきなり飛び蹴りかましやがった!穏便にしたいという俺の気持ちをものの見事に逆撫でる行動を真っ先にとりやがって・・・しかもリーダー格らしい男になんの迷いもなく。
まぁ、やってしまったものは仕方ない・・・俺も出るしかないが、まだ修正は利くだろう・・・きっと、おそらく、たぶん
「うぐう・・・誰だ、お前ら・・・」
ふらふらと起き上がり睨んでくるリーダー格の男
「僕たちは見回りの者だぁ!早く入学式に戻れー!」
「と、いうわけだ。入学式に参加しなさい」
「ああ?何で出ねえといけねえんだよそんなかったるい物。さっきの蹴りは許してやるから怪我したくなかったらとっとと失せあぎゃあ!?」
「だまれぃ!君らがちゃんと入学式に参加しないと僕は奢ってもらえないんだぁぁぁ!」
千尋が相手の足を踏み固定して顔面を思い切り殴りつけた。
その間0.5秒・・・!
「このやろ・・・1度ならず2度までも・・・」
「焼肉の食べ放題じゃない方の食べ放題が僕を待ってるんだぁぁぁ!さっさと式に出ろぉぉぉ!」
「そこまで奢る気はないぞ」
そんなもん奢ってたまるか。諭吉が何人犠牲になると思ってるんだこの野郎。
「もう許さん!おまえら!こいつら押さえとけ!」
「了解ッス!」
「ヘイ!」
さっき殴られていたやつが号令をかけると俺らを取り押さえた。
「捕まえたッス!」
ふむ、捕まってしまったか・・・でもなんだこれ。俺を捕まえてるのはジャージの奴一人だけだし、なんか、こう・・・驚くほど捕まえる力が弱い。例えるなら小さい子供が親に甘えるときに抱きつくような・・・子猫や子犬が主人の手を前足で掴むような・・・そんな感じだ。こうも弱いと引っぺがすのが可哀想に感じてしまう。
「先輩!大人しくしてもらうッスよ」
うん、まぁ、この力の弱さに驚いて動けないや、うん。
「これからリーダーに殴られてボコボコッスよー怖いッスか?どうッスか?」
わーこわーい。この弱い下っ端引き連れてる時点でリーダー格の程度が知れてるからこの後の展開が手に取るように分かってこわーい。とまぁ、このことは心の中に閉まっておこう。つい口にでも出したらまたややこしいことになるだけだ。これくらいの事も千尋はわかってくれ・・・
「なんだこれ?こんなよわっちぃ力で僕を捕まえたと思ってるの?こんなよっわーい取り巻き連れてちゃリーダーである君の程度も知れて、たいしたことないってわかっちゃうよ?どうなの?そこんとこ」
「て、てめぇ・・・俺自身でも気にしてることをこうもあっさりと・・・」
はいアウトー。わかってた。うん、こうなるってことは予測もできたし、ぶっちゃけそっちの方にも内心賭けていた。8:2で。ちなみに千尋が何かやらかすっていう方が8だ。っていうか気にしてたのか・・・なんかすまなかった。
「もう気が済んだ?なら反撃行くよー!」
ドゴォ!!
「~~~~~~!?」
千尋がリーダー格に思い切り蹴りを入れる。思ったよりリーチが長かったようでジャストミートで股間に入った。この一撃だけは同情せざるを得ない。見てるだけでこっちも痛くなりそうだ・・・。千尋を抑えていた下っ端も青ざめている。
「えい!そりゃ!あちょー!でりゃぁ!」
ドゴォ!ズガァ!グシャ!グチャァ!
「や、めぎゃ!?ぎゃう!?ふぐぅ!?あひぃ!?」
あああ・・・もうやめて!リーダー格の股間のライフは0よ!下っ端も千尋を抑えることをやめて自分の股間を抑えている。この痛みは男にしかわからないが故の行動だろう。俺も抑えたい気分だ。というかリーダー格も逃げればいいのになぜそこに留まるのだろう・・・。面子のため?ただ痛みで動けない?あーまさか・・・いや、まさかな・・・
「どうしたッスか?何が起きてるッスか?」
あ、こいつの事忘れてた。律儀に俺を捕まえていた。のだが、なんか・・・構図的になんか別な意味に見えてしまう。
「先輩を捕まえてるから前がみえないッス・・・」
どんな構図かというと背中から抱きしめられてる感じ。俗にいう大好きホールドをされてる構図である。はたから見たら甘えてるようにしか見えない。だが、問題は・・・こいつ、男なのか?女なのか?中性的な声だししゃべり方も男っぽいんだが、密着してる相手の体が妙に柔らかい。特に胸あたりが・・・いい感触だ。まぁこの感触があるってことは女の子か。これはこれで役得だしもう少しこの感触を楽しませてもらおう。昔、千尋にもこうされたことがあったが、その時千尋は俗に言うまな板だったからこんな感触は楽しめなかったなぁ・・・今では前より大きくなってるとは思うし、やっぱ千尋もあんなんでも
女の子なのだろう。・・・と、お世辞を心の中で呟いても正直意味のないことだろう。大きくなったとはいっても、まだあのまな板は絶望的ともいえる。先の成長は期待しないでおこう。俺がこうも悟ることができるとは・・・時が経つのは早いものだ。時間の問題なのかと言われると疑問になるのだが・・・
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!!」
「んひぃぃぃぃ!もっとぉぉぉぉ!もっとお願いしますぅぅぅ!お姉さまぁぁぁぁ!!」
柔らかい感触を楽しんでたり昔を懐かしんでそれなりに時間も経っただろう。だけど千尋のあの拷問は続いていた。いや、あれは拷問なのだろうか?あのリーダー格の男も叫びながら喜んでいる・・・。やっぱり目覚めてしまったか、行ってはならない道へ・・・。
「うう・・・桜兎~・・・この新入生気落ち悪い・・・蹴っても蹴っても堪えないし、なんか喜んでる・・・何とかして~」
ふむ、ご指名を受けてしまったか。だが俺もこの変態マゾの相手はなるべくしたくないんだが唯一の幼馴染の頼みだ。できる限り答えてあげたい。しかし、そう考えてあるこうとしたら後ろで抱き着いてる・・・もとい俺を捕まえている奴が力を強めて必死に止めようとしていた。まぁその力も雀の涙程度だが
「ダメッスよ!リーダーがどうなろうと自分が受けた指令は必ず守るッス!だから離さないッスよー!」
「んー・・・離してくれないかなぁ」
「ダーメーッス」
「むー・・・はやくこっち来てよー」
こらこら、そんな胸を押し付けるな。千尋がなんかこっち見てむくれている・・・後が怖いから早く離してくれないだろうか。・・・仕方ないが無理にでも離してもらおう。
「なぁ・・・いい子だから離してくれないか?」
捕まえられてる態勢から腕だけ抜け出させて頭を撫でる。ちょっと辛い位置だが別に撫でられないというわけでない。高さも丁度よかったのでギリ行けた。
「ふぁ・・・だ、ダメっす!んに・・・」
撫でられて気持ちよさそうだ・・・頭を撫でられるのが慣れてないのだろうか・・・とりあえず手荒なことはしたくないし撫で続けよう。
なで、なでなで、なでなでなでなでなでなでなでなで、ときどきポンポン、そしてなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。おまけに頬なでなでなでなで。あごの下なでなで。
「わふぅ・・・くぅ~ん・・・」
まるで子犬のようにものすごく気持ちよさそうにしているみたいだ。声だけで分かる。そろそろ頃合いだろう。後は簡単な交渉だ・・・これさえ言えば離してくれるだろう。
「もう離してくれるかな?離してくれたらもっと撫でてあげよう」
「ふぁ・・・は、はいッス」
素直に離してくれた。こういうご褒美に弱い子は扱いやすい。これでやっと自由の身だ。さて、千尋にも呼ばれてたしさっさとそばに行かな・・・
「おーうーとー?」
あ、やばい。なんかめっちゃドス黒いオーラ出てる。これかなり怒ってるわ。どんくらいやばいか例えるなら、北斗七星の下に強く光る星が昼間でも見えるくらいやばい状況。ここまで怒ってるのは初めて見るしどう千尋の怒りを抑えるべきか・・・?
否!ここは煽っていくスタイルで行こう。どこまで行けるかちょっと気になって面白そうだし、毒を食らわば皿まで・・・だっけ?まぁそんな感じだ。
「いやぁ、悪い悪い。つい夢中になってしまって」
なでなで
「わふぅ・・・」
「ううう・・・」
なでなで
「えへへ・・・」
「い、いつまで・・・」
なでなで
「くぅーん・・・先輩、もっと撫でてくださいッス」
「よしよし、いい子いい子」
「いつまで撫でてんだー!」
ドグシャァァァァ!
「ありがとうございますぅー!」
「ひゃあ!?リ、リーダー?なんかきもいッス!」
あのリーダーを蹴ってこっちに飛ばして来ただと!?しかもリーダーは蹴り飛ばされても礼を言っている。どんだけM道の深いとこまで行ったんだ・・・。しかし、意外と沸点が低かったようだ。これ以上はひどいことにならないだろう。だが、このままでは俺はいいとしてもジャージの子が危ない。仕方ないから蹴り返そう・・・うん、やってみたかったとかではなく、仕方なくだ、仕方なく。
「ホラァ!」
ドグシャァァァァ!
「ぐぎゃああああ!」
「危ないだろう。いきなり蹴り飛ばしてくるなんて・・・この子に当たったらどうすんだ。」
「そんなの知らない!これがキモいからさっさと何とかしてって言ってるでしょ!もう僕じゃどうにもできないから!」
ドゴォォォォ!
「俺もこいつとはあまり関わりたくない」
「な、なんかリーダーの顔がだんだん原型なくなっていくッス・・・そしてそんなんなってもいい顔してるってわかるリーダーが怖いッス・・・」
かれこれもう15往復は蹴ってるだろうか・・・ジャージの子が怖がってるみたいだしやはりここは紳士的にもう終わりにするべきだろうか。足だけじゃなく手も使ってお互いアクロバティックな技でパスをしたしもう返し技がなくなってきたから終わりにするか。もう飽きたし。
「もうそろそろ終わりにするか。そっちも技のネタ切れだろ?」
千尋が返してきたリーダーだったものを足で踏み落とす。その音は水音に聞こえた。そこまで蹴ったり殴ったりしてたのか・・・まぁ、まだ息もあるし入学式終わりに保健室にでも運べばいいか。
「そだねーストレス発散にもなったし桜兎へのイライラもなくなったよ」
「そりゃあよかった。今後は気を付けるよ。お前を本気で怒らせたら危ないっていまさらながら身を以て知ったし」
「息はしてるッスけど、血だらけッスよ・・・ほんとに大丈夫なんスか・・・?」
「大丈夫だろ。なんたって息してるし。それ以前に手加減してたからな俺ら」
「え?」(手加減という言葉に対しての千尋の回答)
「え?」(千尋の「え?」に対する予想外の返しに対しての桜兎の回答)
「え?」(その場の勢いとノリで言ってしまったジャージの回答)
「・・・ま、いいか!」
「だね!」
うん、考えるのをやめよう。これ以上考えるのはよくない。そうに違いない。うん。
「で、でもこうしてさっきの見て考えると・・・なんかこう・・・ドキドキするッス」
ほほう・・・自分から撫でてくれと催促するくらいの甘えん坊がそんなSな反応をするとは意外というか想像以上と言うか・・・面白いと思って・・・・
「自分も蹴られたいと思ってしまってすごいドキドキするッス!」
あれ、なんか予想と違う。Sじゃなくて身体的な意味でのドMだこの子・・・でもそうなると納得もするな。撫でてるとき正直そのケはあった感覚がある。でもいじめたくなるオーラは感じないのが救いだろう。もう懐いてる子犬くらいにしか見えてないし、そんな子犬をいじめる精神なんて俺は持ち合わせていないのだ。
「というわけで善は急げッス!先輩!蹴って」
「蹴らないからな」
「なんでスと!?」
「じゃあ僕が蹴ってあげ」
「いや、それは結構ッス。自分はこっちの先輩がいいッス」
俺の袖を引っ張るな。伸びる。
「なんで!?」
「手加減しないからじゃないか?」
「早くも後輩に嫌われたぁ・・・」
「まぁまぁ、そんな気を落とすなって」
「そうッスよ!嫌いってわけじゃなく、自分はこっちの先輩が気になるってだけッス!」
だから袖を引っ張るな。ってか今なんか気になる発言が聞こえたがここはあえてスルーしよう。落ち込む千尋を慰め頭を撫でる。そうするとすぐに笑顔に戻った。頭を撫でるだけで機嫌を直す。そういえば昔から安い奴だった。でもそれが今現在でも通用するのはどうかと思うぞ幼馴染よ。
「いいなぁ。自分もまた撫でて欲しいッス。あと蹴っ」
「撫でるのはいいが蹴るのは断る」
そういえば遊んでいて忘れていたがまだ見回りがあるんだった。でもサボりはこいつらだけみたいだ。周りには気配しなかったし。戦果、もといみつけたサボりは・・・
負傷者1名
戦意喪失3名
仲間になったジャージ1名
あれ、仲間になったっていうのかな?これ・・・
まぁこれなら楽に仕事を終わらせることができるだろう。それと、そろそろもう一つの仕事の時間になる。携帯を取出し確かめる。ちょうど日程表に書いてあった時間の10分前だな。そろそろ電話が来るだろう。と、考えていると丁度よく携帯電話が鳴りだした。もちろん俺のだが、初期設定のままのモダンなベル着信音。変えるのが面倒くさいと考えていたがこの音もいい加減飽きてきたころだし頃合いを見て変えるかな。でも特に好きな曲と言うものが俺にはないんだよなぁ・・・・っと、おっとそんなこと考えてないでさっさと電話に出なければ・・・着信名はもちろん『桃野先生』早く出なければまた何か言われるな・・・
「はい、もしもし?」
『私だ。そろそろ時間だが戻ってこれるか?』
「あ、はい。こっちはひと段落しましたからすぐにそっちにサボりの連中を連れて向かいます。」
『ああ、正面入り口から入って構わない』
「はーい」
電話を切って、息だけして動かないリーダーの首根っこをつかむ。重いから引きずって持って行けばいいか。
「桜兎―もう時間?」
「ああ、さっきの電話で呼ばれた。こいつら連れて体育館に戻るぞ。お前らもちゃんとついてこいよ」
「は、はい!」
戦意喪失してた三人は一言かけたら我に返ったみたいだ。これなら問題ないだろう。だがこの3人にはトラウマになるだろうなぁ・・・。あんな悲惨な光景を見続け、千尋の威圧で逃げることもできず、ただ立ち尽くしてたからなぁ・・・。
「はいッス!先輩のためならどこまでも付いていくッスよ!たとえ火の中水の中ッス!地獄の果てまでもお供しまッス!」
「おいおい、ただ戻るだけだからそこまで気合い入れなくてもいいぞ?それに地獄の果てまでって・・・そんなところまで行くことはないって」
ジャージの気合いの入った宣言を半分聞き流しながら準備をしていたが、このジャージの言ってることはすべて本気であり本当の事だと気づくのは後々の事だった。先ほども地獄の果てとも言っていたが・・・どう結果が転ぶかはすぐにわかると思う。
同日 体育館
さっさと戻ろう。早く戻らないとスピーチに間に合わないかもしれない。と言っても体育館の入り口までは1分もかからないし余裕だろう。とまぁとても短い道のりなんで入り口まで着いたな。これがバトル物ならもしかしたら入り口前でもう一戦闘でもあったのだろう。しかしそんな展開はないに等しい。
「千尋、扉あけてくれ。荷物持ってると開けにくい」
「はいはーい」
バーン!
思い切り勢いよく体育館の扉を開ける千尋。その音で新入生、在校生、教師含むほぼ全員が俺たちの方を向いた。そして、一斉に青ざめ、一斉に騒ぎ出した。
「え?なにあれ・・・」
「血だらけって何したんだよ・・・」
「あの人が持ってる男って確か不良の・・・」
「あのパーカーの子可愛くない?」
「いや俺はあのジャージの子の方が・・・」
何故皆が青ざめてるのか、何故騒いでるのか理由は全くと言っていいほど心当たりはないが、自分が思うにおそらくこっちを見て騒いでる理由は俺の袖を掴んで付いて来てるジャージの子かもしれない。もしくは勢いよく扉を開けたからか・・・青ざめてるのは知らん。そんな些細なことはどうでもいいだろう。さっさと桃野先生に報告して、ちゃっちゃとスピーチを済ませるか。
「ちわーお届け物でーす」
「でーす」
「ッス」
「お、お前ら・・・なんつう格好して・・・ってそのジャージ誰だ?」
「サボってた一人です。気づいたら懐かれました。」
「まぁその姿を見ればそれはわかるが・・・」
未だに俺の袖を掴んで一緒に移動している。まぁ、引っ張ってないし悪い気分でもないからそのままでいいか。たまに千尋が睨んでるが・・・睨まれるだけなら怖くないし放っておこう。とりあえず戦果としてこのぼこぼこのリーダーを・・・いや、元リーダーかな?こいつを見せるか。
「いやぁーでもこいつはおとなしくさせるのにちょっと手こずって・・・うそじゃないですよ?けして遊んでたわけじゃないですって」
「そうそう。僕たちはこの新入生使って蹴りパスや殴りパスしてたりとか飽きるまでやってたとかそういうのしてないよ?」
「そうッス。見てたからわかるッス。自分もそれ見て蹴られたいとか思ってないッス」
「お前らぁ・・・悪びれることもなくさらさらとそんなことをよく言えたもんだなぁ・・・ああ?おい?」
「と言うかもうスピーチの時間ですよね?さっさと終わらせたいんでもう上がってもいいですか?」
「確かにもうお前の紹介も終わったし時間的にそうだが・・・」
「じゃあさっそく行ってきますね。二人は自分の席に戻ってな」
「んーわかったー。さらっと終わらせてご飯食べにいこー!」
「あ、自分も一緒にご飯いいッスか?なんか楽しそうッス♪」
「まったくお前らはマイペースと言うか、自己中というか・・・おいまて!そのままで行くんじゃなああああああああ!」
さてと・・・檀上に上がったはいいが何を話そう・・・と言うかやっぱりみんな顔が青いなぁ・・・まぁいいや、簡単に済ませてしまおう。
「えー・・・たぶんご紹介に与りました2年の桜井です。何故みんなの顔が青いのかは知りませんが、まぁそんな些細なことはどうでもいいでしょう」
「まったく・・・全校生徒から『あんたの所為だよ!』という総ツッコミが轟きそうな雰囲気醸し出しても生徒たちはツッコミが出来ないんだな・・・あの血を見ちゃぁなぁ・・・」
ちらっと桃野先生を見てみたが先生までも青ざめてなんか呆れてるような、焦ってるようなそんな顔をしてるのがちらっと見えた。ふむ・・・なるほど。そういえば時間がないとか言っていたな・・・。と、なればやることは一つだな。
「せめて・・・せめて、いいこと言って綺麗に〆てくれよ・・・」
「新入生のみなさん!えー・・・」
先生が何かジェスチャーをしているな。やはり、時間が迫っているのだろうか。さっさと終わらせて檀上から降りろって意味なのだろう。ならそのお言葉・・・じゃなかった。ジェスチャーに甘えさせてもらおうか。
「これから3年間頑張ってください! 以上」
「えええーーーーーーーーー!?」
ふっ・・・我ながら迅速で簡潔なスピーチだったな。新入生たちも俺の完璧なスピーチ驚いてたしこれで、先生の株もうなぎ上りなはずだ。先生にも世話になってたし、これで恩は返せただろう。
「桜兎、おつかれー」
「お疲れ様ッス!先輩!」
「さーくーらーいー!それと千尋!やってくれたな!無事で済むとは思ってなかったけどここまでヒドイ事になるとも思ってなかったよ!どうすんだよこの有様!新入生はおろか2年や3年も総じてポカーンだぞ!?見てみろよこの惨状!」
「え!?これ俺のスピーチに感動してみんな呆然としてるんじゃないの!?」
「そんなわけねーだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「僕はいいスピーチだったと思うよ?簡潔で分かりやすくて」
「自分もそう思うッス!それに感動もしたッス!」
「感動もしねーしもうこれスピーチじゃねぇよ!ったく!桜井!後で職員室に来い!」
「やーい説教だー説教」
「お前もだよ千石!覚悟しとけよお前らぁ!」
「ええー・・・」
「自分も説教ッスか?望むところッス!」
「お前は入学式サボってた件で担当の先生に説教を頼んである」
「そんな!先輩と一緒だと思ったのに!」
同日 職員室
とまぁそんな感じで現在の状況になったのである。聞いての通り俺に何か落ち度があっただろうか。
「コラァ!聞いてるのか!?」
「あー・・・はいはい。聞いてますよ」
先ほどまで何があったかを読者に説明してたので無論先生の話は聞いていないし、さっきも話した通り反省はしていない。
「なんだそのいい加減な返事は!まったく、お前らは反省する素振りがないってんならこっちもそれ相応の罰を与えなければいけないんだが、仕方ない。最上級の罰とも言えるアレをやらせるしかないか。いやでもあれは校長の許可がないとだめだか・・・いや、今回の処罰の件は任されてるし、うーん・・・」
なんかぶつぶつ言っているが、なんだろう?最上級の罰?校長の許可が必要?そんなに大きな罰なのだろうか?停学?謹慎?まさか退学はないだろうけど、一応は覚悟した方がいいかもしれない。ここはふざけず真面目に聞いた方がいいかもしれない。
「くっちゃくっちゃ(プクゥー」
こいつ・・・俺らの今後の学園生活がかかってるというのに何呑気にガム噛んでやがるんだ。少しは真面目にできないのだろうか。俺も人のこと言えんがここだけは真面目にやりたい。だから・・・
「あ痛ぁ!?何するんだよ!桜兎ぉ!」
「ガム噛んでるんじゃない。少しは真面目に聞け。俺たちの処分が決まるんだ」
一発殴っておいた。頭頂部に重い一撃で。千尋は頭を押さえて涙目で睨んできたが、その直後に悩んでいた先生がやっと口を開いた。
「お前ら二人は学生寮『賽の河原荘』への入居を罰とする。ちなみにこれが一番重い罰だ。停学よりも、謹慎よりも、反省文キロ単位よりも、写経よりも、そして、退学よりも最も重い罰だ。」
罰の内容を聞いた瞬間、俺は一気に青ざめた。
「さ、賽の・・・」
「河原荘?というか・・・退学より重い!?そんなん聞いたことないよ!?どういうこと?ただの学生寮への引っ越しが最も重いって!」
「おおおお落ち着けちひろろろろろ・・・大丈夫、素数を数えるんだだだダダ・・・1,2,3,4,5,6,7・・・」
「桜兎、僕でも知ってる。それ素数じゃない。でもその慌てよう・・・何か知ってるの?」
「知ってるも何も・・・」
「千尋は知らんかぁ・・・まぁ、その反応が当たり前といえば当たり前か。桜井は一回その賽の河原荘に入ったことあったんだよな?学生寮の選択での下見で。でも一応説明をさせてもらう。」
あの場所はいろいろとやばい、下見で中に入ろうとした瞬間本能が拒絶して足が動かなかったくらいだ。それ以来俺はそこに近づいていないから今はどうなってるのか知らないが・・・。
俺が軽く震えるのを先生は軽く見て大きくため息をつき説明をし始めた。
「賽の河原荘ってのは最初は普通の学生寮だったんだ。それが、とある事件があって、その事件の後遺症がひどく、つい最近、処罰の一つと扱われるようになったんだ」
「事件・・・それに後遺症って・・・」
「ああ、私がここの教師になる前だからよくは知らないんだが、聞いた話によると数年前にな・・・その賽の河原荘で集団自殺があったらしい。」
「自殺!?何でそんなことが・・・あ、あー・・・その後遺症ってもしかして・・・」
「ああ・・・」
「出る。というか俺はその下見の時に見たんだよ・・・玄関で吊ってるゆう・・・」
「に、に、に・・・」
「だから賽の河原荘に入れること=幽霊たちと同居、となるから、最高位の処罰といえるんだ。で、来週からお前らはその幽霊屋敷に入居するんだ」
「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
そういや千尋、幽霊系だめだったな。ああああ・・・俺ですらもう満身創痍だってのに、あいつ何日・・・いや何時間保つんだろう・・・
「と、いうわけだ、来週まで休みにしてやるから引っ越し済ませておけよ。私ができるのは覚悟をする時間を与えることだけだ」
「あうあうあうあう・・・ブクブクブク・・・」
死刑宣告された気分だ。千尋なんかもう立ったまま気絶して泡を吹いている。どんだけ幽霊嫌いなんだ・・・。
「ち、ちなみに・・・ほかに入った人たちってのはどうなったんです?」
「何人かいたがな、ほぼ全員、1週間せずに退学届出してこの学園を去って行った。お前らはそうならないように祈っておくよ」
ああ・・・ちくしょう・・・なんでこうなるかなぁ・・・何か悪いことしたかなぁ・・・そして宣告された結果がこれかぁ・・・ああ・・・もう・・・どうにでもなーれー!呪われようが憑りつかれようが生き延びでやるさぁ!
と、そんなこんなで俺たちはこの小説の題名である「賽の河原荘」へと入居することになってしまった。言わば次の話から本編である。この話がプロローグとなるがこの先が心配になる、しかし、もちろんというかやっぱりというかこれ以上にひどいことになることは間違いない。ともあれ、「血の入学式」この話はここでお開きである。




