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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
導入編
6/56

0-32:異世界の戦士たち

各話の番号は公開順なので時系列とは無関係です。

この話は主人公勢の外見描写が少ないので後から挿入しました。

【0-32:異世界の戦士たち】


 来たる災いを前に召喚した十人の戦士たち。(わたくし)は彼らを招いた者として、最大限の手助けをしなくては。そう思っていましたが、いざ本題を切り出そうとして、あることに気が付きました。

 そう、無作為に呼びかけただけの私は、彼らのことを何も知りません。これでは万が一心無い者が紛れ込んでいた場合、非常によろしくない事態になりかねませんわ。見るからに怪しいという方はいませんが、ここは一度、間を置いて出方を窺った方が良いかもしれません。

「説明に入る前に……私は〈守り人〉のシャルロッテ。この大楔石――後でご説明しますわ――の管理人です。この度の召喚に関する責任者であり、貴方がたの身元保証人とも言えますの。この世界、クロスヴェルトの代表者として、まず皆さんについて少々お聞きしておきたいですわ」

そう言うと、皆さんが少し身構えたような気がします。よく考えてみれば彼らもお互い初対面で警戒しているかもしれませんわ。最初から打ち解けるというのも無理な話。お互いを知るきっかけは、まず私が作るべきでしょう。

「簡単に自己紹介してくださいませ。細々としたことは後でも良いでしょうが、名前ぐらいは知らないと不便だと思いますの」

 私はすでに名乗っておりますし、礼は失していないはず。……していませんわよね。どうも限られたコミュニティの中で暮らしているので不安ですわ。


 などと考えましたが、どうやら杞憂のようです。一番手前にいた、騎士様が動いてくださいました。召喚直後にも真っ先に話し掛けていましたし、どうやら先頭に立つことに慣れているご様子。頼もしい限りですわ。

「ならば、私から。……名はクレス・アルケイデス。光の女神によって創られた勇者だ」

「創られた……?」

「勇者として初めからこの姿で生み出された存在、と言えば分かるだろうか。人の子ではないが、精霊や魔物とも違う」

 勇者と言われて納得しました。光り輝く金髪に、深い青の瞳は慈愛に満ちた海の色。神の造形物と言うにふさわしい、彫りの深い整った容姿。身に纏う武具からも、並々ならぬ力を感じますわ。威厳のある堂々とした立ち居振る舞いに、クレスの迷いの無い姿勢が分かります。嘘を吐いてはいないでしょう。


 他の方も、勇者の自称に疑問を抱いている様子はありません。感心しているか、面白がっているかの違いはありますが、概ね皆さん信じたのでしょう。私から見てクレスの右隣に立つ、先ほどセドナと名乗った女性も笑顔で一礼なさってますわ。

「よく事情は分かりませんが、そこは世界の違いということでしょう。……本物の勇者とお会いできるとは光栄です。改めて、私はセドナ・アルセナールと申します。元の世界では宮廷魔術師でした」

 何かしら決まった形式のありそうな礼をした彼女は、夜という表現がぴったりきます。長い黒髪は羨ましいほどに真っ直ぐで艶やか。瞳も同じ闇色で、衣装も黒を基調とされているのに、暗さや禍々しさは感じられません。むしろ白い肌との対比で清楚な美しさがあります。年齢は私よりも少し下ぐらいでしょうか。魔力の量やおそらく自作の杖から、魔術師としての実力の高さも窺えますわ。

「お若いのに、相当の手練れとお見受けしますわ。ぜひ後で異世界の魔法について教えてくださいませ」

「喜んで。よろしくお願いします」

同じ魔法使いとして、仲良くしたい方ですわ。今まで立場もあって同年代の友人は少なかったので、暇があれば一緒にお買い物をしたりお茶と甘味を楽しんだり、普通の遊びにも付き合ってくださればと、個人的な願望をついつい押し付けてしまいそう。自重しなくては。


 一段落したところで、十人の中でも一際若い、と言うより幼い少年が目に入りました。目が合うと勢いよく手を上げて、待ってましたとばかりに話し始めました。

「んじゃ、次はオレ! オレはゴウ! 苗字はたぶん無い! 仕事とかもしてないから……あ、でも護衛みたいなのはいちおーやってた。よろしくな!」

ゴウはとても活発な子のようですね。茶髪に茶色の瞳で、容姿も特に目立った特徴は無いものの、前二人と比べても徒人ではないことが、私には分かります。背負った大剣と彼自身から発せられる力は、魔力とは異質なもの。一見普通の人こそ実態は非凡という例ですわね。ただの元気な子供と勘違いして侮り、痛い目に遭った人は多そうです。

「元気だな、お前。武器は背中のそれ?」

「そ。使い始めたのはけっこー最近だけど。それまでは殴ってた」

「そんなのを扱えるとは、相当な怪力だな」

私の左側に居る男性が、ゴウの体格には大きすぎる武器に注目しています。少し考える素振りを見せた辺り、私とは別の視点でゴウの特異性を察しているようですわ。今は置いておくとしても、この力の正体は確かめておくべきですわね。


「よろしくね、ゴウ。僕はエド。……ああ、ここなら隠す必要もないか。エドウィン・アルタイルです」

 なぜか名乗り直したエドウィンと言う彼は、育ちの良さが窺える所作で丁寧にお辞儀しています。黄金の髪がふわりと流れ、新緑の瞳は優しい光を湛えています。柔和な笑顔に、ふと「白馬の王子様」という単語が頭を過ぎりました。もしや……。

「なぜ隠した?」

クレスが少し警戒するように聞きましたが、答えは予想通りのものでした。

「元の世界では一応王子で……。お忍びで出歩くことが多いから、身分に直結することを隠すのは癖みたいなものなんだ。ごめんね」

「いや、そのような理由なら仕方が無いだろう。よろしく頼む」

クロスヴェルトに既に王位はありませんが、概念としては私も知っています。出歩くだけで一苦労とは、呼んでおいて何ですが、ここに居ても大丈夫なのでしょうか。

 それにしても、エドウィンに関してはもう一つ気になることが。私の見立てでは彼は光属性なのですが、魔力がごく僅かながら闇属性にも傾いています。かといって光と闇の複属性という訳でもなさそうですし、何か事情がありそうですわ。召喚師の素質も見受けられますから、それが関係しているのかしら。


 ここまでだけでも一癖も二癖もありそうな方ばかり。世界が大変な状況で楽しんでいるのは許してほしいですわ。新しい出会いというものは、いつだって心躍るものですもの。

「勇者に王族に、なかなか凄い面子だねぇ。……そこのあんたらも何か複雑な関係に見えるけど?」

「…………」

「ええっと……俺と、彼のこと……を指してるよな? たぶん」

すぐ左から聞こえてきた女性の声に、心の中で同意します。何せ、一目見た時から気になっていた人たちですから。

 私のほぼ正面に立つ二人。彼らは瓜二つの顔立ちで、正反対の表情をしています。無言の彼は眼光鋭い琥珀の瞳に警戒心をありありと見せている一方、返事をした彼は同じ色の瞳から戸惑いが感じられます。反応の違いもそうですが、透き通るような銀髪の長さと色合いも若干違うようです。

「あ、俺はフィアナ王国騎士団所属のフィリオンだ。……それで、君に関しては俺も気になっているんだ。君に会うのは初めてだよな? 確認のためにも、名前を聞きたいんだが……」

「…………」

フィリオンと名乗った彼は槍使いのようです。これまた不思議な力を宿した武器ですが、今はそれよりもう一人の彼の素性が気になります。フィリオンは鎧を纏っていて一目で騎士とわかる出で立ちですが、視線を更に鋭くした彼は、見たところ武器はおろか防具も身に付けていないので、一体どういった立場の方か検討もつきません。魔力の量からして魔法使いでもなさそうですわ。

「初対面で警戒するのは分かるけど、お互いに名乗るところから始めるしかないだろ? だから、俺はフィリオン・グランディアだ。そっくりさん、君の名前は?」

他の皆さんも見守る中、フィリオンは名前を聞き出そうとしています。フィリオンは気さくな少年のようですが、もう片方は気難しい性格なのでしょう。

 もしや戦いに身を置いていない民間人を巻き込んでしまったのではと危惧していた時でした。

「……答えたくないなら、俺の名前から勝手に『リオ』って呼ばせてもらうけど」

フィリオンの予想外な発言に、一瞬もう一人の彼は虚を突かれたようです。私だって同じ立場なら、突然あだ名を付けられれば驚きますもの。不機嫌そうに目を逸らして、呟かれた答えも溜息混じりでした。

「……ライオネル」

「あ、やっと喋った。……そうか。ライオネル、か。よろしくな」

嬉しそうな少し悲しそうな顔で、フィリオンが手を差し出しますが、ライオネルは一歩輪から下がってそれきり沈黙してしまいました。彼と打ち解けるのは時間が掛かりそうです。


 肩を竦めたフィリオンが、次へ行こうと言うように、隣の少年に視線を向けました。それを受けて了承の意か、鋼色の尻尾が一振りされます。

「俺はシルバだ。シルバ・ウルフ。見ての通り獣人で、バウンティーハンターをやってる」

尻尾と同じ色の髪から、三角の獣耳が覗いています。名前から察するに、狼の獣人なのでしょう。独特な形の金の瞳に映る自信と誇り高さで錯覚しそうですが、歳はゴウよりいくらか上ぐらいのような気がします。跳ねた硬そうな髪の子供っぽさと、歴戦の傭兵を思わせる雰囲気の大人っぽさが、絶妙なバランスで共存していますわ。獣人の多いドライの町に行ったらさぞ人気になるでしょうね。

「その腰に提げているのは、武器、ですか? 魔動機関のようですが」

「魔動式の銃だ。……銃を知らねぇのか? 高威力で高速の弾を出す弓か杖みてぇなモンだと思えばいい。大砲があるなら、小型のそれを想像すりゃだいたいあってる」

 セドナが魔晶石の付いた銃を見て、疑問を持ったようです。説明の大雑把さは目を瞑るとして、魔動式の銃とはなかなか高価な物を使っていますのね。クロスヴェルトでは魔力変換の機構が複雑で巨大化しやすいのであまり発展していませんが、彼の世界では魔動式武具は当たり前なのでしょうか。世界の違いが見られて面白いですわね。


「で、オメーはさっきから何をそわそわと見てんだよ」

「ヒッ!? ご、ごめんなさい!」

 あら、隣の女の子がシルバに睨まれて今にも泣きそうです。耳と尻尾を交互に見ていた辺り、獣人が珍しいか、動物が好きなのでしょう。私もふさふさの尻尾を撫でたいと思ったので分かりますわ。

「シルバ、そいつビビッてんじゃん。女の子泣かせたらいけないんだぞー」

「うっせぇ。……おら、進まねぇからさっさと名乗りやがれ。別に取って食いやしねぇよ」

ゴウの軽い非難に、少しだけバツが悪そうです。口調こそ乱暴ですが、優しいのでしょう。

「ご、ごめんなさい……。えっと、アイリス・ダーシィです。エルフ族の末裔で、治癒師見習いです」

 アイリスが慌ててお辞儀をすると、柔らかそうな金糸の髪が宙を舞います。エルフ……この世界にも昔は居たとか居なかったとか、存在は曖昧です。アイリスも末裔ということで血は薄いのか、少々魔力は独特ですが他はほとんど普通の人間と変わりません。

 菫色の大きな目に少しだけ涙が残っていて、そわそわと視線をあちらこちらに彷徨わせているのは、先ほどのやり取りでまだ怯えているからでしょうか。長い耳の先が少し赤いです。緊張ぎみに小柄な体を更に縮こまらせていて、もう少し楽にしてほしいと思うのですが……。


 どうやってアイリスの緊張を解そうかと考えていますと、先ほどゴウの武器を気にしていた男性が動きました。

「エルフね。俺の世界ではおとぎ話の美しい妖精だから、納得できるよ」

「えっ?」

納得? 何か引っかかることがあったでしょうか。きょとんと首を傾げたアイリスの方を向いて、彼は右手を胸に当てて一礼しました。

「君が妖精よりも可愛らしい理由がね。俺の名前はジャン・クロード。しがない傭兵ですが、ぜひお見知りおきを」

……あ、ウィンクもしていますわ。青色と灰色が混ざり合った不思議な色合いの瞳が、悪戯っぽく輝いています。乱れた金茶の髪を整える仕草でさえ、他者から見た印象を計算し尽くしているように感じますわね。甘い声と微笑みで、一体何人の女性を惑わせたのでしょうか。

 何だか騙されたような気分ですが、私は先ほどから彼が一番油断ならないように思っていましたの。クレスやゴウに感じた人に非ざる力や、セドナやシルバのような一目で分かる高い能力は、それはそれで敵対すれば脅威でしょう。ですが、ジャンはそれらが見受けられないので、実力が測りづらいのです。今も言葉こそ軽薄ですが、動作には一切の隙がありません。皆さんの自己紹介の間も、喋っていない人の反応すら観察していましたし。不真面目な印象すらも実は間違っているのかもしれません。


「呆れた、最初に口説くのが子供かい。色男が台無しだね」

「おっと、気を悪くしないでくれよ? 俺は年齢なんて気にしないだけで、君のことも違った魅力があると考えてるよ、お姉さん」

 最後の一人である女性が、全く気分を害した素振りもなく文句を言っています。彼女のような完璧なスタイルの美女が隣に居るにも関わらず、まずアイリスに声を掛けるとは、本当に無節操なのでしょうか。

「調子の良いやつだねぇ。……おっと、アタシは武装商船団を率いてるエルヴィラ・レイドだ。よろしく」

エルヴィラは威勢の良い姉御肌という印象です。健康的な褐色肌と燃えるような赤い髪に夏の太陽を連想します。一方で船乗りに相応しく属性は水。あと氷もあるとは、ここまで見た目と真逆なのも珍しいですね。腰に佩いた二本のカットラスを手に、しなやかな体躯で戦う姿はきっと舞い踊るように美しいのでしょう。率いてる、ということは船長さんでしょうか。格好良いですわ。

「さて、これで一通り終わったね。そろそろ説明してもらっても良いかい、シャルロッテ」

 濃い緑色の目を向けられて、本題について思い出しました。皆さんにお聞きしたいことは山ほどありますが、まずは義務を果たさなければなりませんね。


「ええ、皆さんありがとうございます。ではまずこの世界について。……この世界の名はクロスヴェルト。かつては貴方がたの世界と共に、一つの大きな世界を形成していました――」

 分からないことはありますが、ひとまず信じても良さそうな方々です。戦うために呼ばれた彼らと、友人になりたいというのは我儘でしょうか。あるはずの無かった出会いを、せっかくですから楽しみたいと思いますの。戦いだけが思い出なんて、つまらないですものね。


【Die fantastische Geschichte 0-32 Ende】


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