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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
地の封印
40/56

0-40:今は種を蒔く時

【0-40:今は種を蒔く時】


 そこにあったのは、一面の花畑だった。赤、桃、橙、紫、紺、緑、黄、白……山の奥深くにひっそりと敷かれた色鮮やかな絨毯。足を踏み入れることを躊躇してしまう命溢れる地は、中心に向かって低くなるすり鉢状になっており、底に蔦と雑草に覆われた岩が鎮座していた。

「すっげー! これだよこれ! だから元気だったんだなー」

『オハナ! オハナ!』

『イッパイ!』

ゴウが歓喜の声を上げながら飛び跳ねている。その興奮が集う精霊たちと同じだとは気付いていない。

「結界装置は、あれか……?」

 花畑の方へ惹かれ気味ながら、ライオネルが古ぼけた岩にしか見えないものに注目する。それらしき物はこの岩しか無い。しかし普通の岩にしては形はおかしいのだが、今までに見た祭壇と同じ形かと言われれば違う。持ってきた小さな楔石を見てみれば、霞のようだった魔力の鎖は今やはっきりと地中へ向かって伸びていた。岩よりやや下方を指す印に戸惑い気味で発せられた疑問に、セドナが探査魔法で調べながら答えていく。

「どうやら間違いなさそうですよ。驚きですが……この結界装置、本体部分は地中にあるようです。地上に見えているあの部分は目印というか、飾りに近いですね」

「装置としての機能は無事なのか?」

「大丈夫そうです。埋もれたのではなく最初から埋まっていたみたいですよ。封印魔法の属性は地属性です」

何のためにそうしたのかは分からないが、最初から本体は隠して作ったところを見ると、今回のような敵からの破壊を防ぐためだったのかもしれない。しかし、もしアポカリュプスに敗れていたら、この花畑ごと消滅させられていただろう。

「これ、封印を解いても大丈夫かな。この花畑が維持できなくなったりはしないかい? たぶんこれも封印魔法の影響なんだよね?」

「きっと大丈夫さ。野の花ってのは案外強いもんだよ。魔法で管理してやらなくたって、自分たちで逞しく根付いていくよ」

 エドウィンの懸念にエルヴィラが答える。そうだ、この土地に種を蒔いたのが人間とは限らないし、もしかすると、この土地は元々植物が育ちやすい場所だったのかもしれない。少なくとも魔法が消えてすぐに枯れてしまうような、儚いものには見えない。きっとこの後もこの景色を保ってくれるはずだ。


 目の前に広がる美しい光景を少しばかり堪能してから、アイリスが風の治癒魔法を唱える。癒しの風は花畑を優しく吹き抜け、地の封印魔法を解きほぐす。結界装置が起動したことを示すものは無かったが、封印魔法は消え、代わりに新たな魔法の発動を感じた。

 ふと視線を落とすと、足元に臙脂色の花が咲いていた。アイリスはしゃがんでその小さな花弁をそっと撫でる。綺麗な色の、可愛らしい花だ。この世界では皆そう思ってくれるだろう。だが彼女の世界では、今はそうではない。

(きっといつか、変えてみせるよ。貴方と目を合わせても、誰も怖がらない世界に。貴方が傷つかなくてもいいように。そうしたら、このリボンは、特訓の道具じゃなくなるよね)

風に揺れる臙脂色は花だけではない。いつものように髪に結わえたリボンに触れ、顔をほころばせた。このリボンは大切な時には必ず彼女を助けてくれる。贈り主に返せるものと言えば、無事に使命を果たすことぐらいしか無い。その先にあるであろう、臙脂色が嫌われない世界を見せることが、彼女に唯一できる恩返しだ。

 道はまだまだ先が長そうだ。だから、アイリスは仲間たちにこの一言を伝えることから始めた。意味までは伝わらずとも、心に残すことができれば良い。いつかこの花園のように美しく広がると信じて、これからも彼女は言葉を蒔き続ける。

「臙脂色ってね、誰よりも優しい色なんだよ」


 出発の声がかかり、名残惜しみながらアイリスは立ち上がった。すぐ傍に在る頼もしい「護衛」をもう一度撫でると、むず痒くも温かい想いが彼女の胸を控えめにつつく。歩く彼女が身に纏った風は、その想いと同じ甘い香りがした。


【Die fantastische Geschichte 0-40 Ende】


地の封印編終了

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