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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
導入編
3/56

0-3:これからの話

【0-3:これからの話】


 あれから三時間、途中何度も町の人々に囲まれながら目的の屋敷まで辿り着き、ようやく広い食堂に腰を落ち着けることができた。シャルロッテが案内した屋敷は元はグローゼスの親族の別邸だったらしく――こんな立派な屋敷が別邸だと……!? と一部の者は驚愕していた――今回戦士たちのためにとほとんど使われなくなったそれを開放してくれたとのことだった。部屋は一人に一つあてがってもまだ空きがあり、食堂や玄関ホールも十人が立っていても狭さを感じない。台所や風呂場の設備は魔動機関に詳しいシルバ曰く「最新式」だそうだ。談話室や書斎、地下に倉庫と食料庫、テラスまであるのだから驚きだ。定期的に掃除していたようで目立った不具合もなく、あらかじめ用意してくれたのだろう食料庫にはすでに十分な食材が入っていた。

「俺の世界ってそんなに遅れてるイメージ無かったんだけどなぁ……。まさか小型の氷室を魔動機関で作れるなんて思わなかった」

初めて見る品物の数々に驚きっぱなしだったフィリオンは椅子に座るなり息をつく。まさかこんな形で文明レベルの違いを思い知ることになろうとは。

「あれは冷蔵庫。俺の世界にはあったよ。あそこまで高性能でも小さくもないけど」

フィリオンの言葉にジャンが訂正を入れつつ自分の世界で見たそれを思い出す。高価で魔力消費も馬鹿にならないからせいぜい大きな店や一部の富裕層の家にしか無かったと言うと、僕の所も同じ感じ、とエドウィンが同意する。他の設備に関しても発達具合には違いがあるらしく、異世界は面白いね、とアイリスが笑う。そんな様子が不思議だと言うようにシルバは肩をすくめる。

「まあ誰も銃を知らねぇぐらいだしな。むしろ俺からしてみればどうやって生活してたんだって話だぜ」

「どうやら私たちの中ではシルバの世界が一番魔動技術が発達していたようですね。分からないことが出てきたらまた教えてください」

セドナの世界も似たような発達具合だったが、いかんせんこの世界の技術に比べると旧式だ。ここは一番詳しい人に任せるべきだと結論づけて一旦この話題を切り上げ、ようやく本題に移る。


「では今後の方針についてだが――」

 この数時間のうちに自然とリーダーのような立場になっていたクレスはそう口を開くと、シャルロッテの方へ顔を向ける。

「昔の守り人が残したという結界装置と言葉についてもう少し詳しく聞きたい。後は〈災厄〉の現在の様子も」

「まず現状からご説明しますと〈災厄〉は今はまだ完全に封印を解かれてはいませんわ。しかし影響をすでに及ぼし始めています。魔物の活性化や〈災厄〉の配下たる〈影〉の目撃証言も出ています」

まずは敵を知るべきだろうからとシャルロッテは〈災厄〉の現状を説明する。魔物はもともといたものだが〈災厄〉の放つ邪な力の影響で以前より狂暴化しているらしい。〈影〉とは〈災厄〉の眷属のようなもので、名前通り影のように真っ黒で、自在に姿を変形させ地面に潜っては這うように近づき襲ってくると言う。

「魔物もだけどその〈影〉ってやつはもっと厄介だね。地面に潜られちゃ攻撃しようにも武器じゃ効果は見込めなさそうだし」

「はい。ですから出て来たところを叩くのが一番かと。また〈影〉は負の感情の塊とも言える〈災厄〉の眷属でもあるので、同じように人の負の感情に反応します。……人の忌み嫌うものに擬態したり、わざと負の感情を呼び起こすようなことをしたりもするのです」

エルヴィラの指摘に返しつつシャルロッテは更なる〈影〉の能力を語る。

「忌み嫌うもの、ねぇ……。嫌な感じしかしないな。トラウマ抉られるとか」

ジャンはそう自分で言いながらしまったと思う。多感な少年少女たちを年長者の自分が怖がらせてどうする。後悔するも時すでに遅く何人かは暗い顔をしている。アイリスなど今にも倒れそうなほど蒼白になってしまっている。らしくもなく失言してしまった理由には心当たりが無くもないが、それよりも今はこの場をなんとかしなければ。

「……何に化けようと所詮は偽物だ。切り捨てればいい」

 重い空気を払ったのは意外にもライオネルだった。言葉の響きは冷たいが、今この場で自分から話したのは彼なりの気遣いなのか、それとも。

「確かにそうですが……もし親しい者に擬態されたら、分かっていても躊躇ってしまうと思います」

セドナの言い分はもっともだ。傷つけたくないという思いを逆手に取ってこないとも限らない。割り切ることができないのは彼女の優しさゆえだろう。敵なのだから気にするなと言うライオネルと、大切だからこそ躊躇してしまうセドナ。相反する答えを返す二人のどちらが正しいとも言えない。

「そんな甘いことを言ってるようでは自分の命すら失うぞ」

「ですが――!」

「そうなった時は誰かが助けてやればいい。それが仲間と共にあることの意義だろう」

結論の出ない言い争いに発展しそうな二人を諌めた声はクレスのものだった。

「君たちの考えはどちらも間違いではない。……議論を続けても平行線になるだけだ。落ち着きなさい」

そう諭すクレスの声は静かだが、有無を言わせない雰囲気にセドナは続く言葉を失う。

「……そうですね。取り乱してすみません。話を戻しましょう」

一息ついて冷静になったのかセドナは一言詫びて先を促す。

「…………」

ライオネルの方はもう何も言うつもりは無いらしい。


「とりあえず〈影〉の方は状況に応じて対処するってことで。他に意見が無ければ昔の守り人が残したものの話を聞きたいかな」

 エドウィンの意見に反対する者はおらず話題は結界装置と助言に移る。

「残念ながら助言については詳しいことは分からないのです。ただその言葉のみが残されているだけですの。結界装置についても、起動方法は分かっているのですが肝心の装置の在り処が分からず……」

「ええええそれじゃ意味無いじゃんか! 何のために残したんだよソイツ!」

シャルロッテの言葉に落胆したゴウが叫ぶ。分からないことが多すぎてさすがにクレスも渋い顔をしている。

「その、起動方法っていうのは? とりあえず分かる事から考えた方がいいと思うの」

 このままでは何も考えようがないとアイリスは唯一の情報について尋ねた。

「結界装置は全部で八か所に設置されており、それぞれ八属性の封印が施されているそうです。相対する属性の魔法で以て封印を解いた後、大楔石の力を用いて全てを同時に起動すれば〈災厄〉を閉じ込める結界魔法が発動すると伝えられています」

「でもその八つの装置の場所は伝わってないんだろう? なんでなんだい」

エルヴィラの疑問に確かにとアイリスも同意する。起動方法については詳細が伝わっているのに設置場所を残していないはずがない。

「……正確には装置の場所を記した書物はあったのですが、今の地形と一致しないのです。おそらく世界分裂前に記されたもので、世界分裂によって地形が変わってしまい記述と合わなくなってしまったのでしょう。他の情報は長い年月の中で失われてしまったものと」

地形が大きく変化してしまうような大災害が起こるなど当時の誰もが予測していなかっただろう。混乱の中で失われた記録はいくつもあるに違いない。

「では当分の目的は結界装置の捜索だな。場合によっては世界を巡ることになるだろう。戦闘も避けられまい。明日からは町の付近の探索をしつつ、互いの戦い方を知るために模擬戦でもするべきだと思うが」

どうだ、と言うクレスに同意し、今日の所はこれで終わろうということになった。

「では私はこれで。また何か御用があればお聞きくださいまし」

 暗いから送ろうという言葉を丁重に断って――勝手知ったる町の中だ。危険などあろうはずもない――シャルロッテは自分の家へと帰って行った。

 話し合いは終了、後はとりあえず自由にとなると、ゴウが腹が減ったと騒ぎだし、じゃあ出会いを祝して簡単な宴会でもやろうとエルヴィラが乗る。遊びに来たわけじゃないんですよとセドナは呆れ、楽しいのは良いことだよとアイリスは笑う。やり取りを見ているだけのライオネルにエドウィンが声をかける。じゃあ料理作るよと名乗りを上げたのはフィリオンで、変な物を作るなよと警戒するシルバ。ジャンがせっかくなら女性の手料理が嬉しいと言うと、クレスは誰が作ろうと同じではないかと切り捨てた。

 クロスヴェルトの夜は更けてゆく。それぞれが明日への思いを内に秘め、満天の星空は静かに彼らを見守っていた。


――――――――――


―――い、を――

どこかで黒き存在が囁く。


――破壊を―――我が前に現る――

夜の闇よりなお昏い何かは別の何かに向かって語りかける。


――――忌々しき、光の――をもたらす

――異界の使者たちに、破滅を――――


「そのような些末事に神たる我を使うか、異形よ」

別の何かは人のような形をしていた。

「まあまあ良いではありませんか。面白そうだとは思いません? 皆さん」

一つではなく複数。

「面白い? フン、下賤な地の民の考えは理解できんな」

笑う者あれば怒る者あり。

「神を名乗る者も、神の如く振る舞う者も、異世界においては皆同じ。この世界で頂点に立ちたくば、まずは障害を排除せねば」

内に野望を秘めた者。

「ワレはあのエルフの末裔タる小娘を始末できレばヨい……」

己が目的のためにのみ動く者。

「私も彼以外の者に興味はないのでお好きなように。ああでも、面白い状況になっているのは確かねぇ……」

新しい玩具でも見つけたかのようにうっとりとする。

「目障りな復讐者が。この異邦の地を貴様の墓場にしてやろう」

殺意を漲らせぎらぎらと輝く瞳が何かを見据える。

「おお怖い。だがここで邪魔な存在を消しておくのには賛成だ」

策を巡らせ利用できるものは全て手の内に。

「スベテ クラウ スベテ ワガモノ」

何を思い何を求めるのか。

「さあここまでおいでなさい。愛しい子よ……」

それを知るのは己のみ。


 望まれざる出会いの時まで、あと僅か。


【Die fantastische Geschichte 0-3 Ende】


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