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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
導入編
2/56

0-2:異世界にて、仲間と共に

【0-2:異世界にて、仲間と共に】


 まずは今後の方針を立てようと誰かが言い出すと、

「でしたら一旦場所を変えませんか? 貴方がたの拠点も必要でしょうし、ちょうど良さそうな物件がございますの。立ち話もなんですし、ご案内しますわ」

とシャルロッテが待ったをかける。確かにそうだと同意して戦士たちはシャルロッテの後に続いて歩き出した。

 外に出ると柔らかな日の光が差し込む木立に囲まれた道が一本伸びていた。彼らがそれまでいたのは〈大楔石の祭殿〉と呼ばれる洞窟で、守り人の許しが無ければ入ることを禁じられている聖域である。壁に掲げられた松明と大楔石の放つ魔法的な光によって明るさの保たれた祭殿内は、洞窟であると思えないほど広かったが――天井は遥か上方にあり、十一人の一部はそれなりに上背のある人間がいてもなお広々としていたのだ――やはり閉塞感を感じていたのか、外に出た解放感に一同はほっと息をつく。

「あれが私の家ですわ。私はたいてい祭殿内か家におりますので御用の際にはいつでも来て下さい。……時々、話相手になってくださると嬉しいですわ」

 私はせいぜい町の中までしか出られないので、外のお話を聞くことが唯一の楽しみですの。と悲しげな彼女の笑みに守り人の不自由を感じ取る。守り人である限り彼女は限られた世界の中で生きてゆくのか。戦士たちを嬉しそうに案内する理由には外への憧れも含まれているのだろう。

「君のような美しいレディと話せるのなら、いつだって歓迎だよ。俺の世界の話で良ければ今からでも君の家で飽きるほど聞かせてあげる」

とウィンクしながらジャンが気障ったらしく話しかける。そのまま本当に彼女を連れて行きそうな様子に慌ててセドナが引き止める。

「ちょ、ちょっと! 今は今後のことを話し合うのが優先事項です。先に進めないのでお話は後からにしてください!」

「分かってるよ、真面目ちゃん。俺としては君の話も興味があるんだけどな」

後でどう? と言うジャンに、からかってないで前に進んでください! とセドナが怒る。緊張感のない彼らのやりとりに笑ったり呆れたりと皆それぞれの反応を見せる。世界の命運が彼らに係っているとは思えない穏やかな光景だった。

(彼らとならば、大丈夫だ。……どんな敵が相手でも負ける気はしない。根拠はないがなぜかそう思えるだけの何かが彼らにはある)

 微笑ましく皆のやり取りを眺めながらクレスは確信する。これからの戦い、なんとかやっていけそうだと元の世界に残してきた仲間たちに心の中で語りかけ、再び歩き出した。


「ここはアインの町。クロスヴェルトには五つの集落があり、ここは最も小さいですが穏やかで良い町ですよ」

 祭殿からの道を進むと町を見渡せる小高い丘に出た。道は商店で賑わう目抜き通りに続いているらしく、家々がそれを取り囲むように並び遠くには牧場や畑らしきものも見えた。

「例の物件は町の外れにありますの。せっかくですから町の中も案内しますわ。貴方がたの到着を今か今かと町の人達も待っていましたから、歓迎の挨拶で騒がしくなるかもしれませんがびっくりしないでくださいね」

「何でオレたちが来ること知ってんの?」

「異世界から戦士を召喚するということは五つの集落の長たちと話し合って決めたことですから。今日召喚するということもすでに伝達済みです」

 ゴウの疑問に答えながらシャルロッテは町へと向かう。町の中へと続く門のところに一人の老人が立っていた。

「おお、シャルロッテ様……。その方たちが異世界の戦士様で……?」

「はい。お出迎えありがとうございます、グローゼス様。……ご紹介しますわ。この方はアインの町の長のグローゼス様です」

 杖をつきながらゆっくりと歩み寄った老人は戦士たちを眺めシャルロッテに問いかける。老人の言葉を肯定しながらシャルロッテは周囲の戦士たちに紹介する。グローゼスと呼ばれた老人は深々と頭を下げた。

「よくぞお越しくださった。わしはこの町を治める者ですじゃ。異世界での生活には戸惑うことも多々ありましょう。わしら町の者にできることがあれば何でもおっしゃってくだされ」

 心から歓迎の意を示すグローゼスに、戦士たちを代表してクレスが感謝を述べる。

「お心遣い、痛み入ります。……必ずやご期待に沿う働きをしてみせます」

「なんの。貴方がたには戦いを強いることになるというのに、わしらに出来ることといったら余りに少のうて申し訳ない。この世界に生きる者として、これぐらいはさせてくだされ」

そう言って笑うグローゼスに戦士たちは改めて背負う使命の重さを実感する。彼らの戦い次第で、戦う力を持たない人々の未来もまた決まってしまうのだ。


――――――――――


 その後グローゼスはシャルロッテと二言三言交わしてゆっくりと歩いて行った。日課の散歩がてら町の見回りをするそうだ。去ってゆく姿を見守りながらアイリスが呟いた。

「……責任重大だね、私たち」

「ああ。僕たちは自分の未来だけでなく、あの人たちの未来をも背負っているんだ」

「だからってそんな暗い顔してたら勝てないだろ? もっと気楽にいこーぜ!」

エドウィンの背を叩きにっと笑うゴウの姿を見て、緊張した面持ちだった顔を綻ばせる。そうだ、一人ならともかく仲間がいる。どんな時でも苦楽を共にする仲間の存在はありがたい。いつも共にいる親友とはまた違った意味で、仲間という存在は心の支えになってくれる。

(僕にとっては仲間もまた守るべきものだ。この笑顔を守るために僕は戦うよ。……君はまたお人好しだと呆れているかい?)

心の中でそっと親友に語りかけるエドウィンをよそに、バシバシとまだ叩き続けているゴウをセドナが諌める。

「もう少し力を抜くのには賛成ですが、そろそろ叩くのはお止めなさい。第一この方は王族なのですよ? 今は仲間だとはいえ本来はこうして言葉を交わすことさえ恐れ多いというのに……」

「別にいいじゃん。仲間なのにエドウィン様とか呼ぶのめんどくせーし」

ぶー、と口を尖らせてゴウは反論する。宮廷魔術師であるセドナからしてみればエドウィンは例え異世界の王族でも敬うべき対象であることに変わりはない。仲間と呼ぶのも若干躊躇われるほどだ。

「別に気にしないでくれ。王族扱いされるために名乗ったわけじゃなくて、いずれ話しただろうから最初から明かしたんだ。呼び方だって、僕は王子とかエドウィン様とか呼ばれるよりも、エドって愛称で呼んでくれる方が嬉しいんだ」

元の世界の仲間たちもそう呼んでくれたし、とエドウィンが告げる。

「じゃあアタシもエドって呼ぶよ。……なんだ、お貴族様なんて嫌味な奴ばかりかと思ってたのに、アンタはなかなか見所あるじゃないか」

エルヴィラがそう言って悪戯っぽく笑う。なら私もそうしようとクレスが言うとセドナも折れたようだった。

「あ、そうだ。呼び方って言えば――」

 あることを思いついたフィリオンが後ろのライオネルの方へと振り返る。先ほどから全く会話に参加しようとしていない彼の名前は、フィリオンからしてみると色々な意味で呼びづらいものだったから。

「もし良ければ、ライって呼んでもいいかな? ……本当に良ければでいいんだけど」

断られるかもしれないと思いながら自分とほぼ同じ造形の顔を見つめる。相変わらず仏頂面で何を考えているのかが分からない。

「……好きにしろ」

あ、いいんだ。と二人の様子を見守っていたジャンが思わず呟く。彼もまた断られるだろうと思っていたのだが、好きにしていいのならと遠慮なくそう呼ぶことにした。

「ライとフィリオンってさ、本当に生き別れの兄弟とかじゃないの? さすがにそっくりすぎるでしょ」

「見た目だけじゃなくて匂いも似てるけどな。まあこれが分かるのは俺ぐらいだろうけどよ」

 さっそく疑問をぶつけるジャンに続いてシルバが人間よりもよく効く嗅覚で気づいたことを挙げる。

「俺に兄弟はいないし、なんで似てるのかは自分でも分からないよ」

苦笑しつつ答えるフィリオンにあの、とアイリスが声をかける。

「もしかして、平行世界の同一人物とかじゃないかな。……世界には無限の可能性があって、本質は一緒でも全然違う人生を送ってる自分がいるんだって話、聞いたことがあるから……」

恐る恐るといった様子でアイリスは元の世界で聞いた話をする。

「確かにそう考えれば納得できるね。どんだけ違う生活をしてきたら性格がここまで変わるのかって話だけど」

「私は貴方がたがどんな世界からいらしたのかまでは把握できていませんの。お役にたてずすみません」

賛同するエルヴィラの横でシャルロッテが申し訳なさそうな顔をしている。慌てて彼女を元気づけるため話題を変えようとフィリオンは先ほどのシルバの言葉について尋ねる。

「そ、それよりさ! さっきシルバは匂いが似てるって言ってたけど、やっぱり獣人って動物みたいに五感が鋭いのか? 俺の世界にはいなかったから……」

「あ? だからさっきから物珍しそうな顔して見てたのかよ。俺の世界じゃ獣人も人間も半々ぐらいだったから珍しくもねぇぞ。獣人は五感が良いだけじゃなくて身体能力だって高いんだ。速さならオメーらの誰にも負ける気はしねぇな」

 あくまで何でもない事のように話すシルバの尻尾は左右に忙しなく揺れている。どうやらこの部分も動物に近いらしい。

「なるほど、尻尾で感情表現をする所も同じなのか」

「撫でたい……」

どこかズレた部分に感心するクレスと妙に輝いた目で尻尾を見つめるアイリスに、

「あの、もう行きませんか……」

セドナは夕方までかかっても目的地に着けないのではないかと不安になってきていた。こんな呑気な会話をしていていいのだろうかとついた溜息は、穏やかな陽気の中に溶けていった。


【Die fantastische Geschichte 0-2 Ende】


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