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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
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0-17:異世界の勇者に関する仲間たちの所感

【0-17:異世界の勇者に関する仲間たちの所感】


 ある日の午後。あまりにも酷い嵐のせいで探索に出ることを諦め、戦士たちは屋敷内で思い思いに過ごしていた。談話室で難しい顔をしているエドウィンとフィリオンは、魔晶石に保存された記録魔法の映像を見ながらずっと話しこんでいた。二人並んでああでもないこうでもないと頭を抱える。

「いや、ここで下がると見せかけて攻撃を誘っていれば……」

「でも彼なら攻撃姿勢からでもどうにかして防御しそうだよね。あ、ほらここ。盾を持っているのに、咄嗟の防御で魔法を選ぶとは思わなかったよ」

「盾で防御してくれたら体勢を崩せていただろうな。まさかそこまで考えて魔法使ったのか?」

「半分意識的、半分直感かな。……僕は無理だよ、この状況でこの判断は」

「一対二で負けるって、なんだかなぁ」

二人が見ているのは昨日の模擬戦の記録である。クレス対エドウィンとフィリオンという組み合わせで行われたそれは、数の上で有利な二人ではなくクレスの圧勝という形で終わり、記録魔法で一部始終を撮っていたセドナも唖然とする結果であった。

 二人が同時に吐いた溜息を聞きつけ、窓辺のソファに座っていたジャンが本から顔を上げる。

「どうだ? 次は勝てそうか?」

「「無理」」

どんよりとした影を背負い答えた彼らにジャンは苦笑する。一度記録を見たが、次回勝つための助言はできそうになかった。彼らの戦い方は確かに改善の余地はあれど、相手が例えばジャンであったなら勝てただろうという程度には良かったのだ。そう、今回は相手が悪かったとしか言いようが無い。クレスの戦闘に関する才は十人の中でも頭一つ飛び抜けている。


「ほんとデタラメだな。アイツを創った神様も、なんで他まで完璧にしねぇんだか」

 シルバが銃の整備をしながら会話に加わった。小さなテーブルの向かい側で整備の様子を眺めていたゴウとアイリスは、その言葉に何度も首肯する。ちなみにそこに置かれている椅子は一人掛けが二つだけなので、ゴウは床に座っている。二人は特にすることも無く退屈していたのか、普段以上の賑やかさで話し出した。

「いつも同じようなカオしてるから『楽しいか?』って聞いたら、『君のようには笑えないだけだ』ってさ。めんどくせー説明しなきゃ、何考えてるか他の人に伝えられないってかわいそうじゃん」

「最初は食べたり眠ったりすることもよく分からなかったって。一人の時は『生活』してなかったから、今みたいに共同生活できるのは仲間のおかげなんだって言ってたよ」

「? お腹減ったら食って眠くなったら寝るんじゃねーの?」

「そうだけど、食事も睡眠も生きるために必要なだけで、必要無ければそんなことに貴重な時間を使うなんて、って思ってたみたい。でも一生懸命仲間が教えてくれたから、幸せそうに生きる人たちの気持ちが分かるようになったんだよ」

「なんだそれ。美味いもん食べたら幸せなのは当たり前なのに、そんなことも知らなかったんだな」

 なぜ最初からそこまで分かるようにしなかったのか、と不思議そうに首を捻る二人を見てエドウィンが微笑む。同じように人として当たり前のことを知らなかった時期のある彼には、初期のクレスが考えていたことも分からなくはなかった。

「戦闘では必要ないからね。戦うためだけに創られたのであれば、感情や生活の知恵なんて余計なものはいらない。……そうじゃなかったから、今のクレスがあるんだろうけど」

なぜクレスを創ったという女神は「人間の勇者」にすることを選んだのか。彼らには分からないが、最初から人間としての全てが揃った状態でないのは意図があるのだろう。ネーソスと初めて遭遇した際クレスが放った言葉からは、彼なりの答えらしきものが読み取れたが、それが正しいのかは女神のみぞ知ることだ。


「『私は兵器ではない』かぁ。いつも助けてもらっているから俺だって何か返したいけど、感情についてなんてどうしたらいいのか」

 フィリオンは眉間に皺を寄せて考えながら、目の前で映像を眺め続けていたライオネルに「ライならどうする?」と尋ねる。模擬戦の様子に興味があったのか、彼にしては珍しく談話室で過ごしていたが、それを聞くのは人選ミスだろうとフィリオン以外の誰もが思った。

「何もしない。次元が違う」

薄情な答えにフィリオンが納得がいかないという表情をし、それに何か感じたのかライオネルは一言付け加える。

「……何もできないなら首をつっこむな。あいつの問題だ」

それでも反論があるのか、同じ顔で睨み合ったままフィリオンが口を開きかけた。

 しかしそれは談話室の扉が開かれたことで遮られてしまった。入って来たエルヴィラとセドナは中を見るなり目を丸くする。ほぼ全員がそう広くもない談話室に集っているのだから驚くのも無理はない。

 屋敷内には書庫と呼んでも差し支えないような蔵書量の書斎や、物を広げたいのなら食堂という選択肢もある。そもそも一人一部屋あてがわれているのだから、何も談話室で過ごす必要はないのだ。だが不思議なことに窮屈だと分かっていても全員――一部はっきりと肯定しない者もいるが――談話室に集まることが好きだった。

「見ないと思ったら皆してこんな所に溜まって。何の話をしてたんだい?」

人口密度の高さを笑いながら、エルヴィラはやはり部屋を出ることなく、扉側のライオネルが座っているソファの背に寄りかかる。二人掛けで一人分空いていた所にはセドナを座らせた。

「クレスの話だよ。どうして女神様は最初からクレスに普通の人と同じ心を与えなかったのかなって」

「そういえばクレスがいませんね。彼はどこに?」

アイリスの言葉にセドナは初めてクレスだけがいないことに気づく。特に用事も無く談話室に集う筆頭である彼は、こうして仲間たちが集まっていると大抵の場合少し離れてそれを眺めていた。その行動はおそらく彼の悩みに関係しているのだろうが、なぜか楽しそうなので皆深くは尋ねないことにしている。

「クレスなら自分の部屋じゃないかな。僕たちの反省会が終わるまでは近づかないだろうし。……食堂でするべきだったね。ちょっと申し訳ないことをしたな」

 本人が傍にいては頼ってしまうだろうから、自分たちで考えられるようにと気を遣ってくれたのだ。だが談話室を気に入っているらしい彼を出入り禁止にしてしまっているので、その配慮は有難いが申し訳なくもある。

「では早く終わらせてあげてください。武術は何もできませんが、魔法の修行であればお手伝いしますから」

「やっぱり鍛錬を積むしかないって、セドナも思うか?」

「だからなかなか終わらないのでしょう? 具体的な対策が出て来なくとも良いではありませんか。『改善点:実力差』でもクレスはきっと何も言いませんよ」

「……うん、そうだね。僕がんばるよ……」

 何とかもっとマシな結論を出そうと悩んでいたにも関わらず、セドナに一刀両断された二人は遠い目をする。らしくもなく乾いた笑いを浮かべるエドウィンに、エルヴィラは同情的な眼差しを向け反省会の終わりを告げる。

「まあ頑張りな。どうせ次は同じ戦いにはならないんだ。思いつかないなら過去のことを悩むより、次でも絶対に引っかかる所を直しておく方が絶対にいいさ」

「さて、件の勇者さまは部屋で寂しがってるだろうから、酒でも持って構いに行ってあげますか」

ジャンが本を閉じて立ち上がる。昼間から酒盛りなんて、とセドナは顔を顰めたが、エルヴィラが乗り気で肴は何にするかと言い出したので溜息を吐くに留めた。


 ゴウが自分も混ざると言い出したのを皮切りに騒々しくなった談話室。外の激しい雨音すら掻き消すような騒ぎにも関わらず聞こえた、コンコンと扉を叩く音に思わず全員が振り返った。今この屋敷にいる中で、談話室にいないのはただ一人。

「……突然賑やかになったと思えば、いつの間に全員集まっていたのだ? エドたちの邪魔をしないようにと言っておいたはずだが、なぜ騒いでいる?」

 扉を開きいつになく剣呑な眼差しを向けるクレスに、皆の思いが一致する。

 完璧な勇者? 感情を知らない? ただ強いだけの兵器? どれも違う。


「ええっと、クレスは強いけど完璧じゃなくて、次元が違って、寂しがり屋だよねっていう話だよ!」

 合ってはいるがよく分からないアイリスの要約に、クレスは首を傾げるばかりであった。その姿にクレスという「人間」以外のものを見出せる者は、少なくとも彼らの中にはいなかった。


【Die fantastische Geschichte 0-17 Ende】

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