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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
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0-15:異世界の仲間に関する所感・ジャン

【0-15:異世界の仲間に関する所感・ジャン】


 ドォン、と腹に響くような爆発音と共に上がった土煙で視界を塞がれる。死角からの攻撃を警戒しあえて目を閉じれば、予想通り放たれた魔法の軌道がこちらに向かっているのを感じた。音と気配を頼りに躱し盾で防ぎながら、視界が晴れるのを待つ。すると突如として強い風が戦場に吹き荒れ、強引に土埃を浚って行った。明瞭になった視界に仲間たちと先ほどの爆発を起こした張本人の姿を捉える。

「そのまま風の詠唱を続けてくれ! クレス、セドナの護衛に! 次が来るぞ! ゴウは魔法を使うなよ。セドナの邪魔になる。お前ならあんな枯れ木は剣どころか素手で十分だろ?」

こちらに背を向けたままジャンが指示を飛ばす。こういう時真っ先に次の手を打つのは彼の役割だ。頭の回転が速いことと戦いを生業としていたがゆえに、ジャンは自然とパーティの参謀役になっていた。日々の探索の組分けも彼が中心となって考えている。


 詠唱を続けるセドナを庇う位置に立ち、油断なく敵を見据える。今の相手はマリウスだ。まだ奴との交戦経験が浅い私たちよりもジャンが主に戦った方が危険は少ないので、防御面で不安のあるセドナの護衛に回ることに異存は無い。風が吹いている間は目暗ましの土煙も大丈夫だ。ゴウに魔法を使わせないのも、ゴウの地属性魔法と今発動している風属性魔法との反発を防ぐためだろう。さりげなく挑発することも忘れていないとは、この判断の速さは本当に有難い。

「その枯れ木とはわしのことか、ジャン・クロード。本当に貴様は人の神経を逆撫でするのが上手い……!」

 マリウスは怒りを表情に滲ませながらも、隙を見せるような真似はしない。簡単に煽られてくれるような相手ならばここまで苦戦することもないだろうが。ジャンは次々と詠唱も無しに放たれる魔法を避けながらマリウスに話しかける。何をするつもりだろうか。

「あんまり怒ると血圧上がっちゃいますよー。もう深夜徘徊し始めてるみたいだし、そろそろ引退したらどう?」

「誰がそのようなことをするか。実際に見たわけでもあるまいに」

「え、一回見たんだけど見間違いかな。真夜中に町のすぐ外まで来たはいいけど、結界魔法に阻まれて意気消沈して帰ったのは……」

「それはフェルディナントの奴だ。わしはそのような威厳の無い姿など見せておらぬわ」

「なるほどね。大教主様ほどの魔術師でもあの魔法は破れなかったようで」

額に青筋を立てたマリウスは表面上冷静に――内心ジャンの暴言に腸が煮えくり返る思いだろう――返していたが、負け惜しみなのか苦々しげに眉根を寄せた。

 ジャンの言う結界魔法はシャルロッテが外敵から町を守るために張っているものだ。元の世界では並ぶ者無しと言われていたというマリウスにとって、異世界で力量の差を見せつけられるのはさぞ悔しかったのだろう。

「……あれを破れる者などおるまいよ。それこそ〈災厄〉ほどの規格外でもなければ」

「それは良いことを聞いたな。つまり現時点でお前たちにはアインの町を攻略できないと見たけど、どう?」

「…………」

「その沈黙は図星だな」

 ここに至って結局乗せられていたことに気づき、マリウスはますます表情を険しくする。実際にはジャンだけでなく誰もマリウスとフェルディナントがアインの町へ迫っていた場面など見ていない。その襲撃を知っているのは結界魔法を破ろうとした痕跡を翌朝見つけたからなのだが、その時は誰の仕業かが分からず再襲撃を警戒するしかなかった。だが原因が分かった上に、再襲撃の心配も無いと他ならぬ本人の口から裏を取れたのだ。

「貴様、謀ったか……!」

「いやこうもあっさり引っかかってくれるとは、自分でも驚きだよ。口は災いの元ですよ、大教主様」

 肩を竦めたジャンはおどけた様に言う。後ろからでは見えないが、おそらく左手の人差し指を立てて唇に当てているだろう。話させておいて「静かに」という仕草をするのは、彼にとって勝利宣言のようなものだ。表情も人の悪い笑みを浮かべているに違いない。この上更に煽るような態度を取るとは、良い性格をしている。


「ああ、あともう一つ」

 思い出したように言ったジャンはいつの間にか武器を収め、自由になった右手に別の物を握っていた。天に向けて開かれた掌には魔晶石。セドナが転移魔法を込めたものだ。

「! それは――っ」

「戦場では相手の動きをよく見ましょう、ってね」

何をしようとしているか悟ったマリウスが慌てたように攻撃魔法を放つが時既に遅し。魔晶石が光を放ち、次の瞬間には私たちの周囲は全く別の景色に変わっていた。転移魔法は無事に成功し、アインの町近くまで撤退することができたようだ。


「びっくりしたー……。おいジャン! オレまだ暴れたかったのに、なんで逃げるんだよー」

 状況を把握したゴウが不満の声を上げた。ジャンが話している間、邪魔しないように攻撃を我慢していたのだろう。

「アイリスがいるならもう少し粘っても良かったけどな。今日はここが引き際だと思ったんだけどどうよ、クレス」

「そうだな。消耗の具合からしてこれ以上は危険だ。屋敷に戻ろう」

それなりの時間戦い続けたおかげで皆無傷ではない。治癒師のいない今回、撤退は的確な判断だろう。体力が有り余っているらしいゴウは渋々といった様子だが、魔力を相当消費したセドナはほっとしている。

 ジャンは最初、参謀は専門でないし柄でもないと言っていたが、これだけ仲間の様子を見て適当な判断を下せるのならば十分だと私は思う。

「転移魔法の跡は消しておきました。追ってくることも無いでしょう」

「さすがセドナ。疲れたなら俺が抱えて帰ろうか?」

「下心が見えるので結構です」

 何やら邪念が見え隠れするジャンの言葉をセドナが一刀両断する。しばらく背後で二人は話していたが、何かを叩く音が高らかに響いたのは気のせいだろう。


 私たちは十人で強敵に立ち向かわなければならない。そのために彼のような状況判断や作戦立案を任せられる者の存在は貴重だ。……この女癖の悪ささえなければ、彼を長とすることもできただろうに。


【Die fantastische Geschichte 0-15 Ende】


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