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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
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0-13:異世界の仲間に関する所感・シルバ

時系列としては風の封印編より前。

【0-13:異世界の仲間に関する所感・シルバ】


 シルバは獣人という種族で人間には無い身体的特徴を持っている。顔の横ではなく頭の上に生えた獣の耳や、感情に合わせて揺れ動く尻尾は、彼が狼でもあることを強調するかのようだ。耳と尻尾以外は目に見える違いが無いため、絶対に真似のできない挙動や五感の鋭さを目の当たりにすると少し驚いてしまう。

 今だってそうだ。四つん這いの格好で地面に鼻を近づけ匂いを辿る様子は正に獣で、ビーストモードでなくともそこに四足の狼がいるかのように錯覚する。

「……どうだ?」

「あー……駄目だな。ここで匂いが途切れてやがる。逃げられたみてぇだ」

 地面から顔を上げ、そのまま胡坐を掻いて腰を下ろしたシルバは苦々しげな表情をしている。先刻まで戦っていたゴウと因縁のある敵、ベルゼルビュートはあまり素早く動けそうにないだけに、すぐに追いつけると思ったのだが甘かったらしい。


「チッ、転移魔法さえ無けりゃ逃がしゃしねぇのに。あのスライムのどこに魔法使うだけの知能があんだよ」

「相手を見かけで判断してはいけませんよ。……シルバ、貴方のおかげでこの子も無事ですし、お手柄ですね」

 草むらを掻き分け追い着いて来たセドナの腕には、一匹の黒ウサギが抱えられている。ベルゼルビュートに食べられそうになっていたところを、間一髪でシルバが助けたのだ。奴の匂いを捉え先行すると言い出した時は奇襲を仕掛けるつもりなのだと思っていたが、我々が追いついた際この黒ウサギを抱えて睨み合っていたあたり、助けるために急いでいたのかもしれない。優しい子だ。

「別に奇襲ついでに拾ってやっただけだ。食事中で隙だらけだったのを狙ったらアイツが取り落としただけで、そいつはあくまでおまけだからな!」

 なぜか顔を赤らめたシルバは狼狽えながら必要のない弁解をしている。時々このようなことがあり、最初は彼の言葉通りの意味で私の推測が間違っているのだと思っていたのだが、他の仲間たちによると素直ではないだけだという。普段はよく不機嫌そうだったり怒ったような口調で話すので分かりづらいが、単に好意を向けられたり示したりすることが苦手なのだろう。

「貴方がそう言うのならそうでしょうが、この子は貴方に懐いているようですよ。ほら、お行き」

 セドナの腕から飛び降りた黒ウサギは一目散にシルバの下へと駆けて行き、組んだ足に擦り寄っている。兎を始めたいていの動物は狼を怖がるものだと思うのだが、シルバは動物に好かれやすい。本能的に彼の優しさを悟っているのだろうか。擦り寄られたシルバはこれまたなぜか狼狽えているが、振り払うようなことはしない。

「この感じ、覚えがあるぞチクショウ……。どこまでノアに似てやがんだこいつは……」

右手で顔を覆って俯いてしまったシルバは何やらぶつぶつと呟いている。うぅ、と呻きながら少し震えているようだがどうしたのだろうか。尻尾は千切れんばかりに振られているので大丈夫だと思うが。

「本当に素直じゃないですね……。撫でてあげればいいではないですか。別に抱っこしても誰も何も言いませんよ」

「フン、俺はオメーみてぇに動物相手にデレデレするなんて格好悪ぃ真似はしねぇよ」

「今の貴方がそれを言っても説得力がありませんよ」

 どうにか気を取り直したらしい――だがまだ少し顔が赤い――シルバの憎まれ口に、思ったことを全て代弁してくれたセドナは勢いよく動いている尻尾を見ながら溜息をついている。

 シルバが動物を可愛がっていても歳相応で微笑ましいと思うのだが、彼の中ではそれは「格好悪い事」にあたるようだ。彼にとっての「格好悪い事」を人前ではなかなかしようとしないので、意外と恥ずかしがり屋なのかもしれない。本人に言えば確実に否定されるだろうが。


 このような時は大人が譲歩してやれとジャンが言っていたので、とりあえず素直になりやすい状況を整えることにしよう。見られるのが嫌だというのなら見ないようにすればいい。

「シルバ、周りに敵もいないようだし今日は時間もある。後ろを向いているから存分に可愛がってやるといい」

「何言ってやがんだお前は。んなことしねぇっつってんだろ! おいクレス、セドナも本当に後ろ向いてんじゃねぇよ!」

 宣言通り背を向ければシルバが何やら吠えてきたがこの際無視だ。同じように背を向けたセドナを見れば笑って頷いてくれた。やはり私の判断は間違っていなかったらしい。

『面倒な性格ですね。格好つけたい年頃なのは分かりますが』

 直接頭の中にセドナの声が響く。シルバに気を遣って送念魔法で話しかけてきたようだ。

『そういうものなのか。照れ屋なのかと思っていたが年齢のせいなのか?』

『ええ。子供っぽく見えるのが嫌なのでしょう。あの年頃の男の子は気難しいのですよ』

なるほど。それぞれたった2歳しか違わないゴウやフィリオンと比べてこれほど複雑な性格になるとは興味深いものだ。

『背伸びをしているのが見え見えではありますが、それを指摘してはいけませんよ。ますます素直になれなくなりますから』

『気を付けよう。彼のような子供が嘘をつき続けると天罰が下るらしいからな』

『? ……ああ、そういえば彼はオオカミ少年ですからね』

ふふ、とセドナが私の言いたいことを察して微笑む。

 背後のシルバは素直に黒ウサギを撫でているだろうか。それともまだ偽りの大人を演じているのだろうか。


 嘘吐きのオオカミ少年は報いを受けるが、素直になれないこちらの狼少年をそのような目には合わせたくない。ぶっきらぼうな言葉の端々に覗く優しさを拾い上げ、見守るのが大人の役目なのだろうな。


【Die fantastische Geschichte 0-13 Ende】


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