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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
13/56

0-12:異世界の仲間に関する所感・フィリオン

時系列としては風の封印編より後。ネタバレは無し。

【0-12:異世界の仲間に関する所感・フィリオン】


「――で、今しかないとその時悟ったわけだ。最終コーナーを曲がったところで一気にスパートかけて、柵を跳ぶ直前でリード、越えた時には俺の勝ち!」

 そう言って嬉しそうに笑う彼が話しかけているのは、全く反応を返さないほぼ同じ造形の顔を持つ仲間。現在我々が居るのは拠点としている屋敷の談話室で、常よりも上機嫌のフィリオンは昼に行っていた牧場での話をライにしているところだ。


 アインの町に帰って来た我々は、また以前のように探索組と待機組に分かれつつ日々を過ごしている。今日の待機組になっていたフィリオンは牧場でケイ――牧場の跡取りだと言っていたか、なかなか良い腕前の騎手だと聞いた――に再戦してくると言って出掛け、見事勝利を収めたようで帰って来てから今までずっと機嫌が良く、側から見ていて可哀そうになるほど反応してくれないライに対しても全く気分を害した素振りは無い。しかし彼の事だ、例え二度目の敗北で落ち込んでいようとも同じようにめげることなく話し続けるのだろう。フィリオンとはそういう少年だ。

 フィリオンは仲間内では口数の多い部類だ。ころころと表情を変えながら時に身振り手振りも交えて喋る。戦場での彼は一人の騎士だが、こうして歳相応に振る舞うとどこにでもいそうな普通の少年だ。平行世界の同一人物だと思われるライと比べると、二人は全く正反対の環境で育ったのだと分かる。

 実際フィリオンの世界はずっと平和で彼が騎士になったのも夢を叶えるためであり、已むに已まれぬ事情があるというわけでは無いらしい。生きるために武器を取らなくても良い世界。私の世界もネーソスを倒した後そのようになってくれるのだろうか。

「また勝負したいってケイも言ってたし、今度はライも行こうな。あ、今ちゃんと誘ったから後で聞いてないなんて言うなよ?」

フィリオンは落ち着きなく上体をあちこち移動させながら話している。おそらく視線を逸らすライに対して、意地でも目を合わせようとしているのだろう。

「はい、俺の用事は終わり。引き止めて悪かったな」

ぱっと掴んでいた腕を離してフィリオンは話を切り上げ、結局ライは一言も喋らないまま談話室を出て行った。


「……あの話しかけ方は嫌がるのではないか?」

 腕を掴んでいたのも目を合わせようとするのも、ライに話を聞かせるため。無理矢理にも思える方法を取ってまでして話す内容とも思えないので、両者の溝が深まるだけのような気がするが。

「ああでもしないとライは逃げるからな。大丈夫、最近はあまり嫌がられていないから」

「最近は?」

「最初はさすがに振り払われて睨まれたけど、そうする理由を話してからはよほど嫌じゃない限り聞いてくれるようになったぞ。今だって視線を逸らし始めたのは一緒に行こうって誘ってからだったしな」

ここまで来るのに随分苦労したと苦笑する。誰よりも近しいからか、それとも誰よりも積極的に構うからか、想像以上にライのことを理解しているらしい。

「さすがだな。私はあの反応を前にするとどうも嫌われているのではないかと思って、それ以上踏み込むのを躊躇ってしまう」

「そんなことないさ。嫌いならはっきり嫌いって言うだろうし、人の反応は前向きに捉えた方が自分の気が楽だろう?」

「自分の気は楽だろうが、それで相手の気分を害したらどうするのだ」

「その時は謝って距離を取り直せばいい。取り返しのつかない事態なんてそう起こらないから、最初は楽観的なぐらいでいいんだよ。難しく考えるのは慣れてからだ」

 フィリオンの言うことにも一理ある。全ての物事に当てはまるわけでは無いが、今回の場合はフィリオンの楽観的な態度が功を奏している。少し見習ってみようか。

「まあ俺は挫折とか後悔とかにあまり縁が無かったから、甘い考えだろうとは思うけど。……俺、苦労を知らなさすぎだよな」

「それだけ環境が恵まれていたということだろう。君の場合は生まれ持った資質もあるだろうが」

 血腥い戦争も、絶対的な脅威も無い、穏やかで明るい世界。しかしそれだけが挫折を知らぬ原因ではないだろう。所謂「天才」であるフィリオンは努力が全て実を結ぶタイプだ。初めてであろうと大抵の事はそつなくこなすが、努力を怠らないためますます磨きがかかる。何にでもなれる、とは彼の宿敵メアリアーゼの言だが正にその通りだ。

「いつも思うが、みんな俺のこと買被りすぎじゃないか? 18にしてはとか言うが、武器も魔法も小さい頃から修行していただけだし、俺より凄い奴なんてそれこそ沢山いるだろ」

 謙遜なのか本当に気づいていないのか、どれだけ褒められようともフィリオンは決して慢心することはない。このまま真っ直ぐに成長してくれればきっと歴史に名を残す立派な人物になるだろう。いずれ来る別れを惜しいと思うのは、彼のように将来が楽しみな戦士たちの行く末を見届けられないことも理由の一つだ。……これは「勇者」の使命からは外れた想いだな。やはり仲間たちを見ていると学ぶことが多い。

「ならば称えるべきは初めて君に武を教えた人か。おかげでこうして頼りになる仲間を得られた」

「ああ、いくらでも褒めていいぞ。自慢の両親だからな」

 フィリオンは自分のことを褒められた時以上に得意げな顔をしている。「グランディア」という姓に恥じぬ騎士になるのだと、目を輝かせて語る彼の目標は、両親を越えることらしい。英雄の子もまた英雄となるのだろうか。


 輝きに満ちた未来を予感させるような才覚ある少年。楽天的な性格も平和を象徴するようで、彼のように皆が笑っていられる世界のために私も戦いたいと思う。夢を語る彼の行く先に希望のあらんことを。


【Die fantastische Geschichte 0-12 Ende】


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