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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
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0-10:異世界の仲間に関する所感・エドウィン

【0-10:異世界の仲間に関する所感・エドウィン】


 エドはいつでも誰に対しても優しく穏やかな物腰の青年だ。彼が怒る姿など滅多に見ない。

「ゴウ、僕を殺す気かい!?」

「悪りー悪りー! 見えてなかった!」

「もう……今度から気を付けてくれよ」

ゴウの投げ飛ばした大岩のような敵に危うく潰されかけたというのに、エドはきっとこれ以上何かを言うことは無いだろう。仕方ないなというように苦笑する心の広さには脱帽する。

 誰が何をしようと大抵笑って許す彼は、自らの宿敵に対しても憎しみのような感情を抱いていないようだ。天王メサイスは傲岸不遜な態度でこちらの怒りを煽るような言動をしてくるが、挑発に乗せられるのはいつも周りの仲間の方で、エド自身は全くと言っていいほど普段通りだ。

「殺されかけたというのに随分と余裕な態度だな。低能な猿には怒りすら湧かないか?」

「結果として無傷なんだから怒る必要が無いじゃないか。むしろなぜそこまで人を馬鹿にできるんだい?」

こちらを見下し嘲笑するメサイスへ、エドは普段と変わらぬ穏やかな言葉を返す。糾弾ではなく純粋な疑問で以て応じるエドの態度は、仲間に対するそれと大して変わらない。そのことが逆にメサイスの苛立ちを煽っているのだが、おそらくエドは全く意図していないだろう。これがジャンならわざとだとしか思えないが、嘘や演技といったことが苦手なエドでは挑発などとは考えられない。

「全てを統べる私の前では地の民など塵芥も同然。無論、汚らわしい魔族もだ」

「……僕たちはお前の支配に下るつもりなんか無い。あと僕の友人たちを侮辱するのはやめてくれないかい。さすがに不愉快だよ」

唯一エドが厳しい態度を取る時と言えば、友を侮辱された時だ。自分の事は何を言われても平気だけど友人を馬鹿にされるのだけは耐えられないと言っていた彼は、元の世界で魔族と呼ばれる種族にも大切な友人がいるらしく、メサイスがその種族を人間以上に蔑むのを聞いては嫌そうな顔をする。

「人間も魔族もお前の支配を望んでいない。自らの民である天族ですら無碍(むげ)に扱うお前が王だなどと、僕は認めるわけにはいかないんだ」

「王にすらなれぬ若造が私に王を語るか」

「王子だからこそお前の在り方が許せないんだ。僕は王族として民を想う者であれと教えられてきたし、そうであることが僕を支えてくれる人たちへの義務だと思ってる」

 払われる敬意に対しては相応の返礼をしなければならない。多くの人に支えられてきたからこそ、その人たちを守るための盾でありたいのだと以前もエドは言っていた。戦闘時、周囲に気を配り文字通りの「盾役」を引き受ける彼は怪我をすることも多い。

 今だってそうだ。言葉を交わす間もメサイスがこちらへ向けて放つ魔法を一手に引き受け、私たちがメサイスに気を取られることなく他の敵と戦えるようにしている。無論私たちも周囲の敵を減らしつつ、エドを攻撃しようとする魔物たちも倒して彼を庇う形にはなっているが、それでも圧倒的に彼の負担の方が大きい。


「エド、下がるんだ。あとは我々に任せてくれ。……よく耐えてくれた」

 魔物を全て片づけ残るはメサイスのみ。エドが仲間の盾となるというのなら、我々は剣となり敵を討つだけだ。

「皆のおかげだよ。皆が支えてくれるから僕は立っていられるんだ」

ところどころ血を流しながらも笑顔で答えるエド。彼の仲間への信頼は本当に厚い。信じているからこそ、自らが傷つくことも厭わず盾となれるのだろう。時にその考え方を自己犠牲的で危ういと感じるが、彼に言わせればそこまでする覚悟は無いらしい。

――僕は自分の命まで捨てる気は無いよ。それでも困っている人は見捨てられないし庇ってしまうのは、そんな僕をさらに誰かが守ってくれると思っているからなのかもね。だからあまり崇高な理由でも無いんだ

 庇うのは構わないが自分の身も大切にするべきだと言った時、そう返されたことを覚えている。一人ではないからこそ、共に戦う仲間もまた助けてくれると信じているからこそ、敵の刃を恐れずに立ち向かえるということか。仲間を得る前の私では絶対に理解できなかっただろう。

「〈癒しの祈りよ、彼の者に力を〉。皆、あと少しだよ!頑張って!」

 アイリスは治癒魔法で皆の体力を回復し声援を送る。メサイスをここで倒せるとは思わないが、負けるつもりも無い。メサイスも威力の高い魔法を繰り出そうとしているのだろう、私でもはっきりと感じられるほどの魔力の集積を感じる。


 両者が睨み合い張り詰めた緊張は、しかし破られることになる。

「群れねば何もできぬ雑魚どもが私を倒そうと言うのか? 私と同等の魔力を持っていた魔王ですら破れたと言うのに愚かなことよ!」

「うるせーぞおっさん! 力を合わせた人間はすげーんだからな! 三人いれば山も砕けるんだぞ!」

反論するゴウの言葉に一瞬首を傾げ、

「えっ、そうなのかい!? 知らなかったよ……」

本気で驚いているらしいエドの反応に、思わず剣を取り落とし地に膝を着きそうになる。そうか、これが気が抜けるということかと現実逃避したくなる。

 なぜエドはそこで素直に感心しているのだ。メサイスの周囲の空気が急速に冷めていくのを感じる。気持ちは分かるが表面上は取り繕ってくれ、先ほどまでさも楽しげだったというのになぜ真顔になるんだ。知らないことが多いという点は私も同じだが、さすがにゴウの主張に無理があるのは分かっている。エドが信じているからアイリスも疑問符を浮かべながら「そう……だっけ?」などと言っている。アイリス、君の感覚は間違っていないから君だけでも納得しないでくれ。メサイスなど蔑みを通り越して最早憐みの目を向けている。敵からこのような形で憐憫の情を向けられることほど悲しいこともない。

「……興が醒めた。貴様らの茶番には付き合ってられん」

メサイスは高めていた魔力を霧散させると、こちらが何かを言う暇も無く一瞬で姿を消した。見るからにプライドの高そうな彼の事だ、しばらくは顔を見るのも嫌になってくれただろう。喜ばしいのか嘆かわしいのか。

「??? 突然どうしたんだ?」

 首を傾げているエドは本当に原因が分かっていないのだろう。先ほどのゴウの主張からおかしな方向に進んでいる年若い戦士たちの遣り取りを聞きながら、ジャンかエルヴィラ辺りを連れて来るべきだったかと後悔する。……一人とは無力だな。


 心が広く、仲間を信じ盾となることを選んだ優しき戦士。王位に就くことは無いだろうと言っていたが、彼が国を治めるとすれば果たしてどうなるのだろうか。賢君となるのか、この遣り取りを聞くと不安になるのは私だけではあるまい。


【Die fantastische Geschichte 0-10 Ende】


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