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Die fantastische Geschichte 0  作者: 黄尾
異世界の仲間達に関する所感
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0-9:異世界の仲間に関する所感・ゴウ

【0-9:異世界の仲間に関する所感・ゴウ】


 次はゴウだ。彼は我々の中でも最年少でまだ14歳だというが、年上の戦士たちにも劣らぬ実力を持っている。性格といいラルスを思い出して懐かしくなる。まだクロスヴェルトに来てからそう長くは無いというのに。

 感傷に浸るのは後にして、性格分析だ。ゴウはとにかく陽気で物怖じしない性格だ。前向きで決断が早く、思い立ったら即行動に移す実行力には時々驚かされる。

 今も町に出ているのだが、突然駆け出したかと思うと泣いている少女に話しかけていた。どうやら帽子が風に飛ばされ樹に引っかかってしまったらしい。事情を聞くやいなや取って来ると言って木登りを始めてしまった。なかなかに大きな樹の上の方に帽子はあり普通ならば少し考えるものだと思うのだが。

「おにいちゃん、大丈夫ー?」

「へーきへーき! こんぐらいの樹なら余裕だぜ、っと」

そう言って高い樹の頂上付近にいるゴウは、引っかかっていた帽子を取ると、何の躊躇いも無く飛び降りた。横の少女が悲鳴を上げたが、彼はというと綺麗に着地し、けろりとした顔で帽子を差し出している。

「ほい、もう飛ばすなよ」

「あ、ありがとうおにいちゃん」

ゴウの笑顔につられたのか、帽子を受け取った少女は満面の笑みで礼を言うとどこかへ走って行った。その後ろ姿を見送るゴウも満足そうだ。初対面の相手に躊躇い無く手を貸す辺り、最初のシャルロッテの頼みにも迷わず応じた彼らしい。だがさすがに飛び降りたのは危険すぎる。

「全く君は無茶をする。あの高さから飛び降りるなど、失敗すれば骨折は免れないだろう」

「だからあれぐらい平気だって。クレスも心配性だなー」

 幼くとも共に戦場を駆け抜ける仲間だとはいえ、一応注意しておかねば。自分なりに考えてはいるようだが、先走りすぎて危険な行動を取ることが多い彼は、誰かが見ていてやらねば危なっかしくてしょうがないのだ。過保護のような気もするが、よほどのことが無い限りは自分の判断に任せているので、年少ゆえに小言を貰いやすいゴウやアイリスが不満を言ってくることはない。今回も彼ならば大丈夫だと確信してはいたので一言だけで済ませるつもりだ。

「ジャンが言ってたぞ、セドナが母親ならクレスは父親みたいだって。オレばーちゃんしかいなかったからよく分かんねーけど」

「……私にも分からないが失礼なことを言われたのだけは分かった。後で君とジャンは私の模擬戦に付き合ってもらうとしよう」

「やめろよオマエこういう時手加減してくんねーじゃん! ただでさえ強えーのに!」

ゴウが必死の形相で訴えているが聞かなかったことにする。私に年齢などあるのかすら怪しいがこんな大きな子供がいる歳ではないはずだ。つまり今の言葉は私への侮辱ともとれる。……その性根を叩き直してくれる。


 オレ終わった……などと言ってゴウは遠い目をしているが、さすがに私も鬼ではないので一方的に叩きのめすような戦い方はしない予定だ。模擬戦である以上訓練になるようにはする。本気で怒らせるような失言をしないあたりは要領がいいのか悪いのか。悪戯などで叱られることは多いゴウだが、喧嘩や不和に発展しない程度で止められる聡い子でもある。踏み込んではいけない一線というものは大人でも見極めるのが難しいというのに、ゴウは「なんとなく」悟って躱しているようだ。以前にも家族関係が話題になった時に、気を遣って話を逸らすような行動をとったことがあった。

――フィリオンは両親のどっちに似たんだい?

――性格も外見も父親似だとはよく言われるけど……あ

――? どうした?

――いや、その、ちょっと……

――なんだ? はっきりしねぇな

――なあそろそろオレの番! オレのばーちゃん自慢させろ!

言い淀んだフィリオンは失敗したというような顔をしていた気がする。恐らくゴウが話題を変えなければ誰かが地雷を踏んでいただろう。後からなぜあのタイミングで自分の事を話そうとしたのか聞いてみると、

――だってフィリオン話すの嫌そうだったし。気になったけどなんとなく聞いたらヤバいんじゃねーかなって

だそうだ。あの短い間に適切な対応まで悟れる勘の鋭さは戦闘にも生かされていて、危なっかしくも大きな怪我無く戦えているのはこの危機回避能力のおかげだろう。経験や実力に裏打ちされた能力ではないために不安定に見えるが、時には直感が理屈に勝る結果を出すものだ。


 そういえばゴウは相手を気遣う繊細な行動を取れる反面、大雑把な部分もあるのが欠点となっている。ただでさえ力が強いというのにすぐ気を抜くため、よく物を壊している。地属性は創造という性質を持っているはずなのだが、広範囲型の魔法と相性が良いという部分だけが彼には表れているようだ。

 特に戦闘スタイルにそれがよく表れていて、大剣を振り回して薙ぎ払う豪快な戦い方をする。時に地属性の広範囲魔法と組み合わせて戦うため一対多の戦闘において絶大な強さを誇るのだが、周りが見えていないのかあまり気にしていないのか、他の仲間を巻き込みそうになることもしばしばあるので、一緒に戦う身としてはもう少し丁寧に行動してほしいものだ。いつだったかの戦闘で自身の三倍はあろうかという敵を投げ飛ばしたまでは良かったが――こんな芸当ができるのは間違いなくゴウだけだ――その先にいたエドに危うくぶつけそうになった時は、さしもの彼も殺す気かと怒っていた。

「なあクレス、オマエなんか今しつれーなこと考えてねえ?」

「いや、君の無鉄砲さは武器でもあるが直してほしいものだと思っただけだ」

「ひっでー! オレこれでも一応考えて行動してんだぜ。バカだからあんま意味無いけど」

 けらけらと笑うゴウの言葉は、自分で自分を蔑みながらも自嘲的な響きは感じられない。常に前向きな彼はありのままの自分を受け入れ、長所も短所も潔く認める。壁にぶつかろうとも変わらずに顔を上げていられる彼が落ち込む姿など想像できない。見たくないとも言える。ゴウにはいつも笑っていてほしいと思うのは私だけではあるまい。先の見えぬ戦いの中で彼のように変わらぬ明るさを保つ者は心の支えになる。ゴウがそれを意図してやっているのかは分からないが。


 陽気で活発。いつでも明るく真っ直ぐに進むその姿は眩しいぐらいだ。彼のように笑えたら私も少しは人間らしさが出るのだろうか。……いや、何とも言えぬ表情でこちらを見る仲間の姿しか想像できない。やめておこう。


【Die fantastische Geschichte 0-9 Ende】


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