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プロローグ

 地上にあるのか地下にあるのか。空中にあるのか海中にあるのか。

 場所が知られていないというのに、その噂はあった。

 牢獄・プリゾナス。

 地球のどこかにある永久牢獄。

 一部の人間しか知らない秘密の牢獄。

 入ってきた者は一生出られない――。

 

 

 

 重い目蓋まぶたを持ち上げる。寝起きのような爽快感はなく、二度寝したいという欲もなかった。目を開けたまま、呆然と足元を見遣みやる。暗い。夜中に起きてしまったのだろうか。体を起こそうとして、やっと違和感に気付いた。

「ん……? 動けない……?」

 手首をくいくいと前後に動かしてみる。だが動かせるのは手首から上の部分だけ。腕は動かない。手首と腕は繋がっているはずであるのに。足は鉛を繋がれているかのように重い。固定されてはいないようだ。腹に力を入れて踏ん張るとなんとか動かせる。

 いつものベッドでないことは明白だ。自分を寝台に縛り付けるような趣味もないし、それに自分はあぐらをかくようにして座っている。まさか誘拐された? 最悪の事態が脳裏をよぎる。そんなはずはない。普段と同じように大学から自宅に帰ってきたはずだ。鍵だってかけた。

「誰かいませんかー? なんてな」

「……誰かいるの?」

 やや疑うような声。声は足音とともにこちらに近付いてくる。

「……そう、君が私の同居人」

 眩しい光が襲ってくる。懐中電灯だろうか、丸い光がこちらを照らす。光に慣れて目を凝らすと、眼前には見慣れないものがあった。細い円柱がびっしり並んでいる。……鉄格子。思わず小さな悲鳴を上げてしまった。こんなもの僕は知らない。ここは、もしかすると――。

「ろ、うや……?」

「あら、知らなかったの?」

 鉄格子を隔てた向こう側。自分と同い年ぐらいの女が懐中電灯を手にしていた。彼女が女だとわかったのは、懐中電灯を己の顔に向けたからだ。暗闇の中顔が浮かび上がる様子は一種の恐怖だった。

「ここは、異常な人間が集められた牢獄。プリゾナスとも呼ばれているわ」

「……僕はそんな場所知らない。そもそも僕のどこが異常だっていうんだ。普通の大学生だぞ」

「誰もがいうセリフね。犯罪者ほど身の潔白を叫ぶものよ」

「わからない、お前の言葉なんて聞きたくない」

「逃げるの? 貴方が捕まっているのは現実なのに」

 現実? これのどこが現実だというのだろう。女に飛びつこうとしても体は動かず、鉄格子のせいでここらから出られない。出られない。たった五文字の現実が自分の心を締め付ける。

「現実だけど、そんな深刻になる必要はないわ。出られる方法がないわけではないし」

「出る方法があるのか!?」

「……ええ、あるわ」

 歯切れの悪い言葉。僕は唾を飲み込んでいた。

「死ねばいいのよ。死体は家族のもとに送られ、火葬されるんじゃないかしら」

 絶望しかなかった。救いなど、どこにもない。死ぬまで僕はここから出られないのだから。

 

 

 

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