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薬師になったマリーの恋愛物語

作者: 如月はじめ

あらすじがヘタでスミマセン……

 誰もいない場所で二人の男女が向かい合う。けれど二人の間には楽しい雰囲気などなく、辛そうな暗い雰囲気だった。

「ゴメンねウェル。私は彼のことが好きなの。だからあなたの想いには応えられない」

 沈黙の中、先に口を開いたのは彼女の方だった。哀しそうな顔でウェルと呼んだ男の顔を綺麗な翡翠色の瞳で真っ直ぐ見る。

「……いいんだ、分かっていたよ。君がボクの気持ちに応えられないことくらい。ずっと君を見ていたからね……」

 彼女の言葉にくしゃっと顔を歪め、瑠璃色の瞳を目蓋の下に隠す。頬を伝う一筋の涙。

「ウェル……」

「だから今世では諦めるよ(・・・・・・・・)

 小さく、けれどしっかりとした声でそう言うウェルに彼女は聞き返す。

「え? どういう意味?」

 閉じていた目を薄く開き、彼女を見つめる。ウェルの色白く整った美しいかんばせが愉しそうに微笑む。

「ふふっ、忘れたの? ボクはエルフだよ? まだまだボクの生は長いんだ。だから君の来世を待つ。……君が、生まれ変わるのを待っていても良いだろう?」

 さらりと何てことのないように告げるウェルに目を見開いて思わず固まってしまう。だってそれはあまりにも……。

 少し間を置いた後、それまでずっと哀しげな顔をしていた彼女が困った子見るような笑みを浮かべた。

「…………気の長い話ねえ。あなたの前にまた現れるかも、ましてや本当に生まれ変わるかも分からないのに」

「いいんだよ。ボクは一途なの。それに君は絶対に生まれ変わるし、必ず探し出してみせるから。だから……、ボクがずっと君を待っていても、赦してくれるかい?」

「…………バカね、本当にバカなんだから。そんなの辛いだけに決まっているのに。忘れてしまった方が楽なのに」

「ゴメン……」

 謝りながらも意志を曲げないウェルの様子に、フウッと溜め息を吐くと手を差し出した。

「なに謝ってんのよ。全く。……いいわ、来世でまた会いましょう」

 そう言って彼女はカラリと笑った。ウェルはその一番好きな笑顔で赦してくれたことに心から笑うと、彼女の手を引きギュッと愛おしげに体を抱き締めた。



「…………ありがとう、マリーシェン」



*****


 パチッと目を開くと青空の下で息を目一杯吸い込んだ。

「…………はーっ、久しぶりに見たなー。あの頃の夢」

 目をそっと閉じると思い浮かぶのはさっき見た彼、ウェルの嬉しそうな姿。

 あの時の私は(・・・・・・)後で何て残酷なことを赦してしまったのだろうと度々思い出しては苛んでいた。

 喩え再び会えてもそれはマリーシェンであった私ではなく別の私。それに記憶だって無いのだからまた一から知り合わないといけない。なのにウェルには記憶がある分必ず前の私との違いに辛い思いをする。…………そう思い至ったのに結局ウェルには何も言えず、マリーシェンは愛する人と添い遂げ老衰で死んでいった。

 ――――それが私がマリーシェンだった頃(・・・・・・・・・・)、死ぬ間際でただ唯一心に残った後悔の念。

 それは新しく生を受けた今でもはっきりと覚えている。……私は前世のことを忘れられないでいた。

「あんなに悩んだことなのに覚えているってホントにどういうこと? 私がアホみたいじゃない。まあほぼ別人なのだから残酷であることには代わり無いんだけどさ……」

 人の性格とは周りの影響によって変わってくると私は思っている。マリーシェンは貴族の娘だったためお嬢様然としたお淑やかな性格だった。多少お転婆なところもあったけれど。対して私は普通の一般家庭に生まれた合気道黒帯ってだけのフッツーの女子高生。だから性格は勿論のこと考え方や感じ方も違う、別人。

 それでも記憶はあるため思い出話くらいは出来る。また私を好きになってくれるかは別として。

「はあ。ちょっとだけウェルに会いたくなってきたな……。マリーシェンだったことは伏せて、普通に今の私と友達になってほしいなあ」

 記憶の中の彼は美しくて格好いい。性格も優しくてでも可愛らしいもところがあって是非とも親友ポジションに欲しい人だ。恋人には要らないけど。

「……なーんて言ってもウェルには絶対に会えないんだけどねっ」

 なんとなくしんみりした気持ちになってきたため無理矢理明るく自分に言い聞かせるように言った。

 夢を見て思わず色々考えてしまったけれど、私がウェルに会えることはまずない。

 だって、生まれた世界が違うから。

 これは種族の違いとか言う意味での世界ではなく、文字通り世界が異なる地球という星に私は生まれた。

 生まれた当初、物語では定番だけど異世界が本当にあるとは思わなく、赤ん坊の頃色んなモノに興味を示しては突撃していた、……とこの前両親に言われた。確かに色んなモノが目新しかったけど“突撃”まではしてないもん。せいぜいじっくりジットリ近くで“観察”していたぐらいだもん。触ってはいないよ。

 まあそんなことはどうでもいい。結論はウェルがまだ生きていてまだ『マリーシェン』のことを忘れていなくても生まれ変わりの私には絶対会えない、ということ。

「……ホントにざーんねん。さてと……」

 額から汗が流れる。悶々と別のことを考えて必死に目を閉じていたけれど、考えが結論に達してしまった今、いい加減直視しなければならない。

 そっと目を開く。そこにはさっきと変わらない青空が広がっている。うん。そよそよと風が吹いていることからここが目覚めてから変わらず外だと気付いている。

 むくりと起き上がり周りを見渡すと私は何もない草原のど真ん中で寝ていたことが分かった。

 大きく深呼吸して立ち上がる。視点が高くなっても小屋すら見えない。あるのは先に森があること。

 一呼吸、二呼吸間を置いて、私はもうムリとばかりに小さく小さく呟いた。



「………………………………ここはどこ?」



 自分の部屋のベッドで寝てたのに、とはせめてもの意地で声には出さなかった。

 ――――どうやら私は変わった迷子をしてしまったらしい。


*****


 謎の迷子をしてしまったあの日から二ヶ月。結論を先に言えば私は今かつていた(・・・・・)国の王都で薬師として元気に暮らしていた。

 そう、あれほど“世界が違うからウェルには会えなーい”なんて言っていた世界に私はいた。あの日あっさりと来てしまった。悶々と考えていた時間を返して欲しい。

 何はともあれこの二ヶ月に色々あったなあ、と思い返してみる。ひたすら歩いたり、マリーシェンの記憶をフル活動させたり、新しく知識を取り入れたり、たくさんの人に助けられたり、死にかけたり、暗躍(?)なんてしてみたり。ははは。思い出がいっぱいだね。

 で、やっと最近落ち着いてきたところ。取り敢えずこの世界に慣れなくちゃとやってきたけど、地球に帰る方法も探してはいる。あまり地球に未練はないんだけど、家族のことだけが気掛かりでね。連絡くらいはしたいなあと思ってる。因みにここに来た原因は分からない。けど、来てしまったものはしょうがないと私は特に気にしてない。

 …………えーと、そんなところかな? ……なーんて。はい、違いますよね。

 まずこの世界はマリーシェンが死んでから五十年しか経ってなかった。驚きの事実。ということは当然ウェルは生きている。初めて会ったときにはもう百三十くらいだったから、多分今は二百十くらいかな? エルフは大体八百まで生きるからまだまだ青年だね。

 それでだ。実のところウェルにはまだ会っていない。……会いたいなあとか言ったけど、実際会えるとなると怖じ気付くと言いますか。目の前にして『お前なんかがマリーシェンなわけない』とか言われたらと思うと、ねえ? ……くそー! 

ヘタレでもチキンでも好きに言うがいいさ! 怖いんだよー!

 ということで! 私は今日もウェルが元気であることを祈りながら探索に引っ掛からないようにしつつ、賑やかな毎日を暮らしたいと思います!


「マリー! お願ーい! あのバカにマリー特製のにっがい薬を飲ませたいんだけどー!」

 おっと、朝早くから店に注文が。あの声ははす向かいの奥さんかな? 懲りないなあ旦那さん。

「マリー! 起きてるー?」

「はいはーい、起きてますよー! 今行きまーす!」



*****


 とある森の奥深く、水晶を片手に湖畔の前で佇む一人の男がいた。――――ものすごく顔が調っている耳の尖った、瑠璃色の瞳の青年が。

 青年は水晶を覗き込み、それから楽しそうににっこりと笑った。


「一途でゴメンね、マリーシェン」


 水晶には黒髪の女の子が薬を売っている姿が映っていた。



 

続く(たぶん)



*茉莉/マリー(マリーシェン)

適応力抜群の女の子。使えるものは何でも使って色々していたらいつの間にか薬師としての地位を獲得。

嫌なことは後回しにするタイプ。

だからウェルに会うのを後回しにしちゃった。



因みに。

マリーシェン十歳、ウェル百三十歳で初めて会う。

それからマリーシェンが死んだのは四十歳頃。この時ウェルは約百六十歳。

よって五十年経った現在約二百十歳。


…………ロリコンじゃないよ! 情が深いだけだよ! 一途なだけだよ!

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