埋葬された胸中
コケかカビかも分からない汚れが目立つ石の上、血に塗れた首を抱え横たわる姿は、まるで天が描いた絵画のように神々しかった。
非現実的な光景だったから?
――違う。
首の浮かべる表情が、鳥肌が立つほど慈愛に満ちたものだったから?
――それもある。
しかし一番は、胎児のように身体を丸めて眠る幼さが抜けない少年の寝顔があまりに美しく、全身で母の首を護る姿が健気すぎたからだろう。
混じりけのないどこまでも透き通る黒髪は、すきま風にあおられるたび自身を慰めるように頬を撫でる。
微動だにせず流す涙は、少年を通して首が泣いているようにも見えた。二人分の涙が一人の身体から流れる。声にできないまま、心の中で枯れてしまうぞと言葉をかけるが、俺がどれだけ頑張ろうともそれを止めてやることは出来無いだろう。
場には騒音が響き、容赦なく少年を世界から切り離す作業が進んでいたが、彼が目覚めることはなかった。
そして、その異常な状態を、俺以外の誰もが目に入れないようにしている。何度か身動ぎをした気がするも、俺が母の首を奪った時でさえ少し腕の力を強めたくらいで、深い夢を見ているらしい。
二人を引き離すのは心が傷んだ。
とはいえ、そのまま腕の中で腐らせることもしたくはない。死してなお蹂躙されそうだった身体を保護し、一箇所で眠らせてやることしか俺にはできないけど、だからこそ全うする責任がある。
「城から出来るだけ離れた綺麗な場所でいいか?」
親子に問い掛けるが、答えは返ってこない。自己満足だ。それでも、遮るものがなにもない陽の下の方が良いだろう。
首と共に少年から離れると、出入りすることを前提としない檻は完成した。隔たる鉄格子は、この世で最も多くの色を宿し、天に愛されているはずの彩色士から最大限に自由を奪う。
本来ならば同胞として、それを阻止する立場に俺はある。今すぐにでも、歳の割りに小柄であろう身体を抱きかかえ、死人よりも青白い肌に光を浴びさせるべきだ。
けど、俺がそうすることはない。人を護るためにも、少年まで罪深き彩色士にしてしまわないためにも。
生きている間に陽の下で会うことのできなかった少年の母は、闇夜で輝かせていた金の髪を白へと変え、それでも彼に血を与えた者だと納得出来る美しさを残したままだった。
城から離れ街を出て、野の草花だけが広がる場所に眠ってもらう。彼女と交わした、ほとんど一方的な会話を思い出しながら祈りを捧げた。
「すまない。景色から城を消してやることは出来なかった」
馬を走らせて半日。それが限界の距離で、みすぼらしい墓で眠る女性の息子が囚われている場所が微かに見える。
掘り返されたばかりの土の隣に寝転ぶと、穏やかな風が草花を揺らした。
「せめてあなたの美しさが、大地に色付いてくれることを祈るよ」
そして俺は無防備にもそのまま眠ってしまい、朝日に叩き起こされて見た奇跡に涙する。あたり一面に広がっていた花畑は、香りを放ちすぎることなく色鮮やかに咲き誇っていた。
まるで一心不乱に何かを願うその光景は、美しい親子が笑いながら手を取り合う姿を思い浮かばせ、護ってくれと託された気がした。
「この胸を締め付ける想いが何なのか、あなたは知っているのだろうか」
月の化身のような女性の埋まる場所を見失った俺には、問い掛けることすら難しい。
代わりに脳裏では、彼女が命をかけて残したかけがえのない色の姿が浮び、少年そのものにも感じる何かがあった俺は、彼を弟子にすることを勝手に決めた。
自分勝手なことなど重々承知。それでも、どちらか一つを選ぶことなどできなかった。




