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目覚めた想い


 全13話で、すでに最終話まで毎日朝7時に予約投稿してあります。

 一番短くて約1500字、長いものは6500字とばらつきがありますが、雰囲気重視で区切ってありますので、どうかご了承下さい。

 それでは、お楽しみ頂ければ幸いです。




 愛しいと思った。

 哀れなその姿が、哀れなほどに綺麗で、世界は瞬く間に一色で染まった。

 思わず顔をしかめてしまうほどのカビ臭さは、そのままあなたを表していたのだろう。腐ってしまう、と。いや、このままでは腐りきってしまうと、愛しさの次に生まれたのは焦りだった。

 うず高く積まれた書物の隙間からのぞいた双眸から、光が消えることがあってはならない。強い想いのまま、邪魔をする鉄格子を掴んで手を伸ばす。

 初めて映すことが叶った色。比べるもののないまま、けれども誰よりも強いと確信した色は、どこまでも透明だった。濃く、透明だった。何もかもを吸い込んでしまいそう。


 欲しい。

 欲しい。

 あの色が欲しい。

 その色を宿すあなたが欲しい。

 いいえ、あれはわたくしのもの。

 わたくしだけの人。

 ――わたくしだけの、色。


 ひたすら(こいねが)う。この溢れる感情がどこからきているのかは分からないけれど。一体何なのか、それすら把握できずとも、満たされるのならそれでいい。

 食い入るように見つめた視線の片隅に映った自分の肌が、同じ血色の悪い青白さなのがとてつもなく喜ばしかった。

 なのに。わたくしの想いとは裏腹に、薄く開かれた唇は非情を零す。


「去ね」


 起伏のない、どこまでも涼やかな響きの声は深い絶望を漂わせ、わたくしへとぶつけてくる。

 手を取ってはくれなかった。ただただ、わたくしを無表情で見つめ、ひたすらに拒絶を言葉にする。

 精一杯伸ばしても、その距離はまだ腕一本分届かない。


 悲しいと思った。

 だから、自然と想いは落ちていく。わたくしの中へ、ストンと小さな音をたてながら、誰にもけして荒らされない心の深淵へと収まった。


「そして地獄を見るが良い」


 その言葉の意味は分からない。なぜ、わたくしへと向けられるのかも知らない。

 唯一として、癒着してしまった想いを従うがまま告げたなら、愚かだと笑われてしまうことだけは気付けた。

 だから必死に言葉を呑み込む。でなければ、今すぐにでも飛び出してしまって、欲して止まない色を穢してしまったことだろう。

 拳を強く握り、腕を引いて背中を向けた。


「絶望の末、色を失うがいい」


 追ってくる声は、微塵も揺らがず刃のように突き刺さる。切なさをなんとか殺す。

 なぜなのだろう。本当になぜ、わたくしはこんな想いを抱いてしまったのだろうか。理由は微塵も見当たらず、おかしいと首を傾げてしまう。なのに、捨てる気はまったく湧かない。

 哀しい愛しさだった。この出会いは、運命そのもの。

 闇が全てだったわたくしが得た光の中で浮かんでいた影。導き手でもあり導かれた先でもあったそこで、あなたは一人書物に埋もれる。とても幻想的な光景で、誰にも渡さないと強く誓う。


 そう、これは恋だ。

 けして入ってはならないと幼い頃からきつく言いつけられていた塔にて、重苦しい錠のかかった扉だけでなく、さらに鉄格子で遮断された狭い世界を生きていた美しい人に。輪廻の楔で理不尽にも多くを奪われた哀れな彩色士に、わたくしは焦がれた。


 それから数時間後の、衝撃的な出会いと別れのあった大切な夜が明け、静かに訪れた朝のこと。いつの間にか戻っていた寝台にて、夢心地ながら眩しい陽射しに目を細めたわたくしを見た侍女が悲鳴を上げる。


「姫様? ……姫様!」


 侍女は全身を震わせ蒼白となりながら、それでもたしかに唇を紡いだ。呪われている、と。

 視界でうっすら、星がまたたいた。




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