一話目
「ほぅ……。では、銀は覚醒したと?」
何も無い。
その言葉しか思いつかない真っ黒な部屋の中で、一人の男の声が響いた。
顎に手をやり、その顎に生えそろっている髭を撫でるようにしながら男はそう呟く。
「は。ですが、その力はあまりに曖昧なものでした」
男の声に応えるのは真っ黒な部屋の中でありながらも、さらに真っ黒な、濃縮された闇を被ったような外套を着た人物。
男とも女ともつかない中性的な声音で、男の言葉に答えを返す。
「曖昧……そのようなもので片付けられる被害なのか? 貴様の手持ちのものを全てやられておいて」
「いえ、あれほどのものならすぐに創れます。ですので心配は無用かと」
深々と頭を下げながら『黒』男はそう言う。
その声音はどこか楽しそうなもの。まるで、創ると言う行為に喜びを感じているかのように。
そんな『黒』を見つめながら、男は命を下す。1人の少年に、試練を与える為に。
「ならば拾い者を呼べ。捜し者があるとな」
「では、今回の出番は……」
「貴様には無い。……いや、あったとしても出さん。今の貴様では荷が勝ちすぎる。そうであろう?」
「……は」
完全に『黒』を侮った物言いで、高圧的な態度を取る男。
だが、そんな男の態度にも『黒』は何も応えない。完全なる主従が出来上がってしまっているのだ。この2人には。
それが分かっている男は、『黒』に命令した後に視線を外すようにして踵を返した。
「では……」
まるで合図にでもなっていたかのように、『黒』はもう一度頭を深く下げた後に消える。
黒の中に黒が消える異様な雰囲気だが、それを男は見向きもしない。見る必要が無いからだ。
―――誰も、闇を見たくは無い。
「さて……。今度はどうする? 銀狼……いや、ユーブメルト・レディナス。君には、王として、王を宿すものとしてこの世界を変えられるか?」
虚空へと放たれたその挑発の言葉。
それは、誰の耳にも届く事無く消えていった。
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