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メイエの姿は書いたほうがいいのかなあ
「ようこそいらっしゃいました。奥に師団長がいらっしゃいますので、さあ」
よく喋る優男に連れられ師団長のいる部屋の前にいるのだが、
「……やはり気が引ける」
そういうことだ。あのエロジジイ達は私が女と知るや否や私を異様に、視線を隠す気もなくジロジロと見ていた。
ただの被害妄想ならばいいのだが、辱めを気分だった。
今回会う師団長は私が初めて会う人達だ。あのエロジジイ達とは違うことを期待しよう。
「どうされました?」
この男まだいたのか。危く独り言を聞かれるところだった。
「いや、何もない」
「遠路はるばるよくいらっしゃった!さあ疲れたでしょう。あの席へ」
二人の師団長は商人のような笑みを浮かべながら円卓に私を促した。
「そのような鎧を着ていては疲れるでしょう。奥の部屋に服を用意させております」
「お構いなく。この後すぐに兵士達に会わなければならないので」
しかし、兜を脱がないわけにもいくまい。そもそも挨拶の時点で脱いでいないのは失礼だろう。
仕方ない。
「おお、女性とは伺っておりましたが、お美しい……」
世辞はうまいようだ。さすが師団長だ。
会食中は今回の魔獣討伐について、私が激励に周る場所等々を話した。
騎士の間では国軍の司令部は無能と言われているが、彼らは無能ではないと話の内容からわかる。
そもそも我が騎士団と国軍では役割が違う。
我々は魔獣討伐がほとんどだ。人を相手にするときは、聖戦のみである。
国軍は他の国軍を相手にすることがほとんどだ。
それがどうして国軍が今回魔獣討伐をするのかと言うと、魔獣がいる場所がこの国にとって大切な森だと言うのだから、聖女様は国軍に任せたそうだ。
「そろそろ時間です」
「そのようですな!このような美女と共に過ごせるとは。長生きしてよかった」
「また会える日を楽しみに待っていますぞ」
あまりジロジロとした視線を彼らから感じることはなかった。同じ師団長と言えど、人が変われば態度も変わるものだ。
周る場所は3か所だけでいいそうだ。
今回の討伐部隊には国軍の精鋭も含まれているそうで、彼らの剣を見ること。
一般兵士への激励。
とある部隊への激励。
とある部隊と言うのは非常に気になるが、非公式の部隊であり今回の作戦の要となるそうだ。
非公式の部隊が要となるのは違和感があるが、国軍たっての願いでこの作戦を行なっているのだ。このランマール草原の先、名誉の森と呼ばれる深い森は国に関わる重要な場所なのだろう。非公式の部隊と言うのも頷ける。
そうと考えている間に訓練場に着いた。
案内役はまたもあの優男だ。
「ロードル騎士団副長様がお見えです!」
ロングソードを扱う眼光は剣のように鋭利だ。さすがは精鋭と言われる兵士達、我が騎士団とも引けをとらないだろう。
彼らならば魔獣とて倒してくれる。
何か一言言わねばならないのだろうか。黙って剣を手入れする彼らに何と言えばいいのか……。
「副長様と手合せしたいものはいないか!」
この優男は何を言っているのだ!?手合せだと?これはただの激励であろうに。
「ちょっと待っ」
すでに精鋭の皆が私を囲んでいた。逃げ場なし……と言うわけか。冷や汗が背中を濡らした。
訓練場の中心にて、目の前の男を見やる。
「では、俺から行かせてもらう」
剣を構える彼からはまだ剣をあわせてすらないというのに圧を感じた。
彼の剣は一般的なロングソード。私が着ているプレートメイルにはあまり効果的でない武器だ。今回は練習だから、と言うわけだろう。
対して私の剣は彼のロングソードより細い剣だ。レイピア。私が振り回せる剣と言えば、これくらいだ。小手に装着するバックラーと言う小盾は私の体をギリギリで守る最後の武器だ。
「うらああああ!」
真直ぐ突っ込んでくる。あのような体重の乗って剣を受けたら容易く吹き飛ばされるだろう。
避けると言う行為や盾で受ける行為は先読みしていたとしても、行動を起こすのはその時なのだ。
最初から盾を構えれば、相手は容易に盾をすり抜けて剣を降るだろうし、最初から避けようとすれば意識的に剣先をずらされて、当てられてしまう。
つまり、タイミングを間違えてしまうと負けると言うことだ。
「あぶ……」
避けたのはよかったが、彼は状態を崩すことなくすでに2段目を構えている。私の方が部が悪いようだ。
仕方なく剣で受けたのだが、体が一瞬浮いた気がした。
否、気がしたのではなく、少し浮いている。
馬鹿力とはまさにこのことだ。
一つ気付いたことがある。彼はもっと大きな剣の使い手であるようだ。ロングソードの扱いかたではないし、盾を持っていない。
ならば、彼が手を休めた今こそ攻め時だろう。相手の出方を見るよりも、先手を取るべきだ。
5手目で勝負は決まった。私の攻撃を受けきれなくなり、参ったと言ったのだ。
「さすがはあのロードル騎士団の副長殿だ。何かアドバイスをいただきたい」
これは困った。アドバイスなどしようものなら、声で女とバレてしまうではないか。
いや、どうしてバレてはいけないのか。
ルーシュにもああ言って出て来たのだから、もう気にするまい。
「戦いは常に先手を撃つべきだ。特にあなたは先手を取らなければ、いとも容易く倒されてしまうだろう。もっと攻めるべきだ」
彼は不思議そうな目をしながら頷いた。
「ご指導ありがとうございます」
握手をした後、兜をとって振り返らずに優男のもとへ歩いて行った。
一同絶句である。私の目の前の優男も驚いて何も言わない。あーだから嫌なのだ。
私が女で何が悪いのだ。