第一章 1
「おかえりなさい、アル隊長。長旅疲れたでしょ?」
竜騎隊の約三分の一を占める女性隊員の一人、ララが、たった今地に舞い降りた浅黒い色のドラゴンを見上げながら言う。
「そうでもなかったよ、戦闘任務ではなかったしね。ちょっと皇太后のおしゃべりに付き合うのは大変だったけど」
史上最年少の18歳で大国カルタットの最大軍隊、竜騎隊の隊長を務めている、“アル”ことアルラース・ティガクリムはドラゴンから飛び降りながら笑う。
ララも笑いながらアルから手綱を受け取り、そのまま彼女は鉄で作られた囲いの中にドラゴンを誘導する。轡をドラゴンの口からはずし、代わりに鉄の鎖を首にかけて鎖の反対側を輪にし、釘で地面に打ち付けた。両前足も同じように鎖で地面と結びつける。
その間ドラゴンは嫌な顔ひとつせず、翼を開閉させながらおとなしく作業終了を待っていた。
「ティーラ、長旅お疲れ様。今晩のご飯はララがごちそうを出してくれるぞ」
アルは笑いながら、浅黒い色のドラゴンの腹を叩いた。ティーラと呼ばれたドラゴンは、嬉しそうに鼻を鳴らす。
「ちょっと、アル隊長!勝手なこと言わないでください。この子達のご飯を無断で豪華にしたら、そのぶん私の給料減るんですよ!?」
「なにを言うんだララ。竜をパートナーとする俺たち竜騎士は、誰よりも竜を大切にしなきゃならないんだぞ。それに、日頃の竜たちとのコミュニケーションが、任務時にも役立つんだ」
アルは真剣な表情でララに言う。
「それはわかってますけど…私の懐がかなり寂しいことになってしまうんですよ…」
ララは半泣きになりながらティーらへ視線を向ける。
「ティーラ、アル隊長に感謝するんだよ?今日のあなたのご飯は豪華なんだからねっ」
半ばやけくそになっているララの肩にアルは手をぽんっと置いた。
「それでこそ我が竜騎隊の女竜騎士ララだ!」
ティーラも話の内容を理解しているのかどうなのか、くるるるるる、と竜独特の鳴き声をあげる。
「そういえば、戦闘専竜の領で深刻な病気が流行っているそうです。さっき、戦闘専竜の竜師が伝えにきてくれました」
ララの言葉に、アルは首をかしげる。
竜騎隊の所持している竜は現在、約数千頭はおり、その竜たちはそれぞれ与えられている仕事がまったく異なっている。
ティーラのように、背にテントを乗せた竜は運搬専竜と呼ばれ、人や物を遠方へ運ぶ仕事を行っている。そして、竜騎隊で最も重宝されているのが、戦闘を専門とした竜たちであることはもちろん誰でも知っているだろう。
また、竜たちはその仕事ごとに城内での移動範囲が決められており、就寝場所も各領として区切られている。これは、竜同士で喧嘩をさせないためや、病気が広範囲で広がることを食い止めるためだ。
ララのような常に竜と一緒におり、竜の世話を行っている隊員を竜師という。
「戦闘専竜の竜師といえば…ベクか?」
アルは白髪で初老の男隊員を思い浮かべながら聞く。
「違う違う!ベクは頭が固くてだめですよ。ほら、最近竜師になったばかりの」
「あぁ。確か、マティだったか?」
アルの頭の中で初老の隊員の姿が揺れて消え、代わりにがっしりとした体格で、日焼けが良く似合う青年の姿が浮かんできた。
「そうです。彼、他の領にも伝え回ってるみたいで、みんな熱心な新人だって褒めてましたよ」
「そうか。で、病気っていうのはクライシスのことか?」
アルの口から出た言葉にララは首を傾げる。
「クライシス?」
「最近他国で流行ってる風邪で、竜だけが罹るものらしい」
アルの言葉を聴いて、ララは心配そうに囲いの中でくつろいでいる竜たちを見た。
「それ、酷いものなんですか?」
「いや…基本的には人が罹る風邪と症状は同じだ。発熱や頭痛、吐き気などだったか。命に関わるような病じゃない」
ララは安心したように胸をなでおろした。
「で?どうなんだ?今戦闘専竜の領で流行ってるのはクライシスに似た症状か?」
「いえ、そこまでは聞いていません。けど、かなり酷い症状だと言っていました。詳しい情報はまだ回ってきていないんですけど…噂だとすでに数頭が瀕死だと」
ララの返事を聞き、アルは顔を強張らせた。
「あ、アル隊長!?」
ろくにララに別れを告げずに、アルは戦闘専竜の領のほうへ走り出した。
*********
アルは息を切らしながらなんとか戦闘専竜の領に着いた。そのままいくつかの囲いを通り過ぎ、かなり奥のほうにある囲いに向かう。
昼でも夕方でもない今の微妙な時間は、仕事を終えた竜たちのくつろぎの時間。竜たちは囲いの中から、全力で走るアルを不思議そうに見ていた。
「おや…アル隊長じゃないですか。どうされまし」
さきほど頭に思い浮かべていた初老の竜師ベクの言葉を最後まで聞くことなく、アルはその前を通りすぎた。ベクは走り去る黒髪の青年の背中を見つめながら不思議そうに首をかしげる。
アルは目的の囲いの前に立ち、ぜぇぜぇと肩で息をしながらも大切なパートナーの名を呼んだ。
「サリファ!」
その声を聞き、銀色に輝く竜がもそっと立ち上がった。アルを見つめる瞳は、燃え盛る炎の如く真っ赤だ。きゅるる、とまるで自分の無事をアルに伝えるかのように鳴く。
「無事に決まっています。サリファはここの竜たちのなかでも特に気を使って世話している竜なんですから。アル隊長が心配していたのはクライシスのことと、マキランのことでしょう?」
急に声をかけられ、アルはさっと後ろを振り向く。そこには、新米竜師のマティがサリファを見上げながら立っていた。
「マティか…いや、すまん。お前たちがしっかりサリファを世話してくれているのは分っているんだけど」
「やっぱり自分の目で見ないと心配ですよね。それはわかります。けど、俺らのこと少しは信用してくださいよ」
マティは苦笑しながらアルに言う。アルも申し訳ないと小声でいい、同じく苦笑を返した。
「それはそうと…マキラン、と言ったか?」
「えぇ」
聞きなれない単語にアルは首をかしげる。いくら考えても記憶のなかにマキランという単語は存在しなかった。
「マキラン…とても酷いものです。人間で言うと、中毒ですね」
マティの表情がしだいに暗くなる。その様子にアルは嫌な感覚を覚えた。
「中毒…いったい何の?毒か?」
「さすが隊長、察しがいい。その通り、毒です。どうやら毒物を誤って食した竜が何頭かいるようで、すでに三頭が絶命しました。つい先ほどのことでまだ他の領には連絡を回せていません」
マティの言葉を聞き、アルは絶句した。竜はこの世で最も生命力が強い生き物だ。多少の怪我や病気はたちまち治る。酷いものでも、時間をかければ竜たちは自分の回復能力でどうにか治してしまう。
その竜が、三頭もその命を失っているのだ。マキランとは只者ではない。
「さらに悪いことに、絶命した竜の遺体から毒素を含んだ悪臭が発していて、それを吸った竜も何頭か中毒になっています。まだ直接的に食したよりかは症状は軽いようですが…彼らの命も助けることができるかどうか…」
マティの両手は強く握られ拳になり、小刻みに震えていた。
「マティ…竜を失うのは辛い。けど、今は生き残っている竜たちに更なる被害が出ないように対処しないと。絶命してしまった竜の遺体はすぐにでも火葬してやって…毒素を吸ってしまった竜とそうでない竜は遠ざけてくれ。中毒死した竜の囲いは掃除を行い、もし余裕があればその他の囲いも掃除したほうがいいかもしれないな。各領にマキランの詳しい情報を回すのも忘れないでくれ。俺は一旦家に戻る。何かあれば使いを寄越してくれ」
早口に捲し立てたアルに小さく頷き、マティは速足に去って行った。サリファが鳴きながら顔をアルの背中に摺り寄せる。
「大丈夫だ、お前は死なせない。それに、お前の仲間たちも」
アルはサリファの額を撫でながら、力強く言い放った。
*********
「満月はまだ先だな」
誰に言うわけでもなく、アルはつぶやいた。竜騎隊に所属する竜騎士たちが寝泊りする寮のような建物と少し離れた場所に、隊長専用の小さめな建物がある。その、アルいわく“質素な我が家”の寝室に置かれたベッドの上で、アルは開け放った天窓から見える欠けた月に向けて、なんとなく右腕を伸ばした。
竜騎隊の隊長のみが着ることを許されている銀の騎士服を着て、腰には愛剣である細い青の剣を差したままだ。
ベッドの横のテーブルには、乱暴に脱いで投げられた上着があり、その上着の胸には一頭の竜が2本の剣に絡み付いているデザインのエンブレムが月明かりに照らされて青白く光っていた。
これも、竜騎隊の隊長のみがつける事を許されているものだ。むしろ、強制してつけられていると、アルは感じていた。
騎士服もエンブレムも全て、ただ“隊長”という立場を強調しているにすぎない。アルという一人の人間を象徴するものは、アルは一つも持っていなかった。
「様子を見に行かないとな」
アルが呟いたとき、玄関に取り付けている呼び鈴が鳴った。起き上がり、上着を羽織る。また呼び鈴が鳴った。かすかにアルの名を呼ぶ声も聞こえてくる。アルは玄関へ急ぐ。
「待たせて悪かった」
ドアを開けてアルが言うと、訪問者は深くと頭を下げた。
「アルラース隊長、突然訪問してしまい申し訳ありません」
訪問者である金色長髪の青年は言いながらゆっくりと頭を上げた。身長は、なかなかの長身であるはずのアルよりも頭一つ分高く、ハチミツ色の瞳は月の光を反射してオレンジに光っている。
「グラーム副隊長?長期任務だったはずでは?」
アルが言うと、グラームと呼ばれた青年は後頭部をがりがりと右手で掻いた。
「緊急事態だと連絡があったもので」
グラームは困ったようにまた後頭部を掻く。
「国外の隊員にも連絡が回ったのか、早いな。それで、要件は」
「現在多くの隊員が任務で国外に派遣されており、人手が足りていないようです。各領を見て回りましたが、戦闘専竜の領で処理を行うことを最優先としているため、他の領で人手不足から餌やりが疎かになってしまい…各領で竜たちが興奮状態にあります」
「そうか…丁度隊員のほとんどが不在の時に面倒が起ったな」
考え込むアルを急かすようにグラームは言葉を続ける。
「竜師に聞いたところ、火葬と清掃は済んだそうです。隔離もほぼ済んでいるようですが竜を移動させようにも餌をねだるため扱い辛くなっているらしく…」
「そうだな、一旦隔離作業は止めて全隊員で各領の餌やりを行う。急いで連絡を回してくれ」
「了解致しました」
グラームは言うと、速足に去って行った。アルは一度だけ小さくため息をつくと腰の愛剣を確認し、戦闘專竜の領へ向かった。
*********
「アル隊長!わざわざ来ていただき申し訳ありません」
「構わない。それより竜たちの餌は?」
戦闘專竜の領に着いたアルはさっそく作業に取り掛かる。
「これはグランツの餌です。あそこに置いてあるのは右からフック、ブライアーク、ヒッポウラです」
隊員が言う竜たちの名前をしっかりと記憶に刻み、アルは荷車を引きながら領内を走り出した。
「あ、アル隊長、それはグランツの…」
「わかってる!俺に構わなくていいから少しでも多くの竜に餌を運んでやれ」
「は、はいっ」
隊員はアルの剣幕に押されて素早く敬礼し、どこかへ走り去った。アルは無言で次々と餌を運んでいく。
「よしよし…ちょっと待てよ」
やっと運ばれてきた餌に興奮した竜をなだめながらアルは餌箱に餌を投げ込む。
きゅううきゅうう、と嬉しそうな鳴き声をあげながら緑色の竜は尾を激しく振って餌にかぶりついた。
「よし、食え食え!じゃ、次は…」
アルが荷車に視線を動かしたとき、突然竜が苦しそうに喘ぎながら倒れた。
「なっ…ヴァネット!どうした!?」
アルは慌てて囲いの中に入ろうと鉄柵に足を掛ける。
「動くな!その囲いに入るんじゃない!!」
「え…」
突然うしろから響いた怒鳴り声に驚き、アルは動きを止めた。すると、数名の男がアルを羽交い絞めにする。どの男も竜騎隊の騎士たちとはまったく違うデザインの制服を着ていた。
「どういうことだ。いったいどうなってる!ヴァネットを診てやらないと!」
アルが叫ぶと、茶色が基調の軍服を纏った男がまっすぐアルに近づいてきた。
「カルタット竜騎隊隊長アルラース・ティガクリム、貴様を上級騎竜殺害及び殺害未遂並びに権力不正使用の容疑で逮捕する」
そう言った軍服の男の胸には、法律と規律を糧に罪人を裁くことを任務とする者である警察隊の隊長がつける、矛と盾のエンブレムが光っていた。
*********
「いったい何がどうなってるんだ…」
アルは後ろで両手を縛られ、横から2人に引きずられるかたちで城内の廊下を歩かされていた。
「黙れ罪人」
うしろから先ほどの茶色い軍服に身を包んだ警察隊長がアルの背中を棒でつつく。
「勝手に罪人だと決めつけるのはよくないことだろう」
「黙れと言っているのが分からないのか?もはや貴様に無実はありえない。白を切るのもいい加減にするんだな。現にさきほどの逮捕は現行犯逮捕だ」
警察隊長は棒をアルの背に叩きつけた。アルは息がつまり咳込む。
「わけがわからない。俺がいったい何をしたんだ?さっきのが現行犯?俺はただ竜に餌を…」
「貴様の罪名はさきほどの逮捕時に言ったはずだ。もうすぐ玉座の部屋に付く。黙っていろ」
警察隊長は切れ長の目でアルを見下ろした。口元にはかすかに笑みが浮かんでいる。アルはわけがわからないまま、廊下を引きずられた。
*********
「アラムダス国王様、罪人を連れて参りました」
途方もなく広い部屋の奥、段差の上に二つの玉座が置かれていた。そして、そのうちの大きいほうの玉座に、白い髭を30センチものばし、それを撫で付け続けている初老の男が座っていた。
男が身に纏っているのは、国王だけが着ることを許された服で、羽織っているマントは鮮やかな紫の装飾がされていた。まさしく彼は、大国カルタットの84代目国王、アラムダス・カルタットだ。
アラムダスは敬礼をした警察隊長に手で指示をだし、指示を受けた男はアルをアラムダスの目の前に跪かせた。
「罪人の罪名は?」
アラムダスが低く腹に響くような声で警察隊長に問う。
「上級騎竜殺害及び殺害未遂並びに権力不正使用です」
なんの感情も込めずに、警察隊長は淡々と罪名を告げる。
「俺はそんな罪を問われる心当たりがない」
アルは顔をあげ、アラムダスを見据えて訴えた。
「黙れ!」
再び警察隊長が棒を振り上げる。アルは叩かれることを覚悟して身を固くした。
「いい、好きにしゃべらせろ」
「しかし…」
「私が許可しているのだ、何も言うな」
警察隊長はしばらくアルとアラムダスを交互に見つめたが、棒を下げながら自分もアルの後ろへ数歩下がった。
「竜騎隊隊長、アルラース・ティガクリムよ、お前の主張を聞こう。今の罪名になにか不服があるなら申せ」
アラムダスは絶えず髭を撫でながら、アルをまっすぐ見つめた。
「俺はただ竜たちに餌を運んでいただけです。なぜそれだけで上級騎竜の殺害容疑がかかるのか理解できません。それに、俺は隊長という立場で物事を不正に行った記憶はない」
「ふむ…」
アラムダスは目を閉じて考え込む。
「警察隊から私に報告があった。その報告とお前の主張は完璧に合っていないな」
「ですから!俺は無実なんです」
「警察隊長、報告書をもう一度読んでくれ」
アルの言葉を無視して、アラムダスは警察隊長を見る。警察隊長はうなずくと、アルの隣りに立ちなおした。
「先刻、戦闘專竜の領で三頭の上級騎竜が絶命しました。どれも猛毒による中毒死です。その事件について詳しく検査を行ったところ、意図的に誰かが竜の餌に毒物を仕込んでいたことが明らかになりました」
アルが頬を強張らせた。隊員の中に竜を傷付ける者などいるはずがないと静かに手を握りしめる。
「絶命した竜たちの餌をここ数日連続で与えていた者を調べたところ、全ての竜に餌を与えていた者が浮かび上がりました。ここでは名を伏せさせて頂きますがその騎士はティガクリムからの指示だと証言しました。さらに、ティガクリムについて別の騎士からも告発があり、全員がティガクリムに従わねば騎士の称号を剥奪すると脅されたと証言しています。以上から我々は本日任務から帰ってきたティガクリムに監視役を付けるに至ったのです」
「なっ」
アルは驚き、目を見張った。まさか自分に監視がつけられているとは夢にも思っていなかったのだ。
「戦闘專竜の専属竜師であるマティによると、竜三頭が絶命したと聞いたティガクリムはさほど驚いた様子もなく、ただ淡々と竜たちの処置について指示を出した。まるで、いそいで証拠を消そうとしているようだったと報告されています」
口がかわいたのか警察隊長はいったん言葉を止め、一息ついた。
「不信に思った監視役が我々に連絡をし、我々警察隊は現場に行きました。ちょうど、ティガクリムが与えた餌を口にした竜が苦しんでいるところで、我々はその場で竜騎隊隊長アルラース・ティガクリムを取り押さえました。さきほどティガクリムが竜に与えた餌を検査したところ、絶命した三頭の竜の餌に入っていた毒物と同じ毒物が検証されました」
警察隊長は一礼すると、また数歩後ろに下がった。アルはなにも言えず、ただ床を見つめている。
「アルラース・ティガクリム、反論はないようだな?これほど証拠がそろっており、何よりも現行犯でお前は逮捕されているのだ」
「俺は…俺はやっていない!今、警察隊長から聞かされた報告は全て嘘だ!」
アルの叫びが部屋中に響くが、この場に居る誰もがアルに冷たい視線を向けるだけだ。
「まったく身に覚えがない話だ!もう一度調査をしてくれ!」
「もういい!!」
雷鳴が轟いたかのような大声で、アラムダスは叫んだ。アルは我に返り国王を仰ぎ見る。
アラムダスはゆっくりとした仕草で玉座から立ち上がった。その場にとどまり、跪いているアルを指さす。
カルタットでは裁判は行われない。警察隊からの報告を聞き、罪人をどうするかは王が判断する仕組みになっていた。
「竜殺しは最も重い罪だ。さらに、それと並行に権力不正使用の罪まで行うとは…救いようのない罪人である。アルラース・ティガクリム、本時をもって、貴様から竜騎隊隊長の座と竜騎士の称号を剥奪する。そして、死刑を宣告する。死刑執行は明日明朝。それまでは牢に入れておけ」
「そんな!!アラムダス国王!!もう一度考え直しを!俺の話を聞いてくれ!!」
アルの叫びは当然誰にも届かなかった。警察隊長が、アルの胸から竜と剣のエンブレムを引き剥がし、腰に差していた青い剣を抜き取る。
「罪人を地下牢へ連れて行け!騎士服は脱がし、罪人用の服を与えろ」
「国王!!俺は…俺はやってないんだ!!」
もがくアルを、騎士たちは力ずくで押さえて部屋から連れ出す。その時、部屋の隅でアルを見送りながら不気味に笑う男がいた。
その眼は窓から差し込む月明かりに照らされ、オレンジに光っていた。