塩辛とチーズにサラミ・優秀おつまみストック
「綾様っ!」
泣きそうな表情で笹女が縋りついてきた。
「笹女さん?!え、どうしたんですか?」
「ご無事で良かったです。敷地内に妖気を感じて慌てて外へ出たらっ、男たちに連れ攫われる綾様が見えて……っ」
声を震わす笹女の言葉にたらり、と背に汗が伝った。
あの場面だけ目にしたなら、相当心配をかけたんじゃなかろうか?
呑気にお話ししてる場合じゃなかったと猛反省する。
「どういうつもりだ?」
低く、凄みのある声が響いた。
足を踏みだした羅刹が見据える先の若葉たちだけでなく、その怒りを向けられたわけでもない糸織たちまで肩を跳ねさせる程の威圧感のある声だった。
はじめて見る羅刹の姿に驚きつつ、慌てて彼を止めようとするもチラリと視線を寄越され「下がってろ」と返された。
「綾ちゃん平気?」
「あなたはこっちに居なさい。……って、何よこれっ?!怪我させられたのっ?」
心配そうに見上げてくる蒼。
雪音が綾の肩を引き寄せ、手首に巻かれた包帯を見つけ鋭い声を上げた。
妖力などまるで感じない綾でも、その変貌はわかった。
ザっと立ち上がる怒りの気配を全身で感じた。
ピリピリと痛い程に肌を刺す空気を醸し出す馴染みの面々に綾は慌てる。
「待ってください皆さん!本当に平気なんでっっ」
手をわたわたとさせながら主張する綾の言葉は通じない。
吹雪のように一筋の雪が吹き荒れ、ふわふわの尻尾が膨らみ……といまや彼らの怒りは目に見える形でも明らかだ。
そしてその怒気をぶつけられた若葉たちはというと、蛇に睨まれた蛙のようにブルブルと震えていた。額から首から幾つもの汗が伝う。
満足に動かない体を不器用に動かし、声を上げたのは剛鬼だった。
「……も、申し訳、ございません。統領、彼女に怪我を負わせたのは私です。咎は私に……」
震える片腕を伸ばし、若葉を庇いながら深く深く首を垂れる。
「この命をもって、償います。……なのでどうか、姫だけでも……お許しを……」
「言い出したのはそれだろう?」
「ですがっ……!!」
顎をしゃくる羅刹が指した若葉がビクリと震え、剛鬼が弾かれたように顔をあげた。
「まぁいい」
そう切り捨てた羅刹が静かに腕をあげて…………。
「はいっ!そこまでっ!!」
綾の叫びとともにグワァーン!!と大きな音が響き渡った。
大音量に一同の視線が綾へと向く。
綿棒を思いっきり鍋に打ち付けた綾は、それらを手に持ったまま腰に手を当てて仁王立ちした。
調理用具をこのように使うなど仮にも料理人としてあるまじき行為だが、そんなことを言ってる場合ではない。
「店内での乱闘禁止!!」
ムンッと胸を張って告げれば、なんとも言えない空気が流れた。
呆れたように「綾」「小娘」と羅刹と九十九の声が被ったが、怯みもせずに腰に手を当てたまま睨みつける。
「「酔」の決まりは知ってますよね?乱闘禁止!ルール破ったら出禁ですよ!出禁!!」
「お前な……状況わかっているのか?」
「わかってますよ!ちょっと行き違いがあっただけでこうして無事ですし。でも皆さん、私のこと心配して下さったんですよね。有難うございます」
そういって深々と頭を下げる。
乱闘は御免被るが、心配してくれたことは純粋に嬉しいし。
顔をあげると鍋と綿棒をカウンターへと置き、パンっと両手をひとつ叩いた。
「ということで、この件は解決。ちょっと早いですけど開店しちゃいますね。ご迷惑をおかけしたお詫びに今日は私の奢りです」
さっ、座って座ってと席を勧めれば、納得したわけではないのだろうが仕方がないなとばかりに席につく彼ら。
呆れた様子?知りませんとも。
綾は続いて若葉たちの座敷を振り返った。
「あ、若葉さんたちも呑んでいってくださいね。そっちは自腹で!でもって剛鬼さん!迷惑かけられたのは私なんで償いは私にしてください」
「それは……どうすれば……?」
「今日一日、剛鬼さんは下働きです!!」
ビシリと指をさして綾は言った。
なにせ鬼の皆さんが沢山。
羅刹や蒼の食欲を考えれば、とても綾ひとりでは回せない。
「笹女さーん。申し訳ないんですけどお手伝いして貰ってもいいですか?あと、お味噌も持ってきて欲しくて」
「勿論ですわ」
心強い助っ人も得て、綾は大急ぎでつまみの準備をはじめた。
まずは時間がないので常備品のおつまみセット。
イカの塩辛と、チーズ数種、それからドライサラミだ。
味がしっかりしてるからお酒も進むし、長期保存も利く優秀なおつまみストックですよね。ストックものはあると便利ー。




