(只今、攫われ中)
ようやく地面へと降ろされた綾は、振動で地味にダメージを食らったお腹をあたた、と抑えながら男女と向き合った。
口布は解かれていた。
特に拘束もされていない。
場所はどこかの建物の裏のようで、目的の場所へ攫われたというよりひとまず人気のないところへ移動したという感じだった。
時間からしても屋敷からそう遠くに来てはいない。
……ただ普段外出をほとんどしない綾には帰り道はさっぱりだが。
またもジロジロと綾を見回した少女がムッと唇を結び、おもむろに手を伸ばした。
攻撃されるのかと身構え、瞳を閉じる綾。
だがしかし、予想していた衝撃はこない。
そろりと瞳を開けば、その手は殴るのではなく、綾の髪に挿してある簪をするりと抜き取った。
「やだっ!返してっ!!」
恐怖も忘れ、思わず少女へと手を伸ばす。
その手は目的のものに届くことなく男に簡単に掴まれた。
その力に手首がミシリと嫌な痛みを伝える。
「やっ!!放してっ!!」
痛みに悲鳴をあげるも男は「なにを大袈裟な」と全く取り合わない。
「放してってば……痛い」
男の指に反対の手をかけて訴えれば、男は少女を背に庇ってから指を離した。
放された手首は指の痕がつき、真っ赤に腫れあがっていた。
「なっ……」
「ちょっと!」
綾の手首を見て男女が驚きの声をあげた。
どうやら本気で綾が大袈裟に騒いでいるだけだと思ったらしい。
「わ、悪い。大丈夫か……?」
思いがけない言葉におや?と綾は内心で首を傾げる。
どうやら危害を加えようとしているのではないらしい。
そのことにひとまず安堵しつつ、痛む手首を押さえて努めて気丈に振る舞い問いかけた。
「私になにかご用ですか?」
威嚇はしないように、だけど真っすぐにそう問えば、言葉に詰まったように全員が口を結ぶ。そして男たちの視線が少女へと向いた。
どうやら先程からのやり取りといい、一番年少のこの少女が強い権力を持つようだ。
猫のような大きな瞳をした、気の強そうな美少女だった。年の頃なら十五、六ぐらいだろうか?
もっとも、幸のこともあるがあやかしの年齢は見た目と全然異なるので当てにはならないが。
そして…………。
言葉に詰まったように唇を震わせていた少女は、怯んだことを恥じるようにキッと視線を尖らせた。
「どうしてお兄様はこんな人間を側に置くのよ」
悔し気に吐き出されたその言葉に、綾は目を見開いた。
「お兄様ってっ……もしかして羅刹さんの妹さんっ?!」
驚きに思わず叫ぶ。
ぶっちゃけ、羅刹の関係者かな?とは思っていた。
最初からそう思っていた理由は彼らが角を持った鬼だからだ。
美少女には頭頂部からまっすぐ伸びた一本の角が、綾を担いだ若い男はこめかみ辺りから二本、その他の男たちにも長い角、瘤こぶのような丸みのある角、形や大きさは違えどその共通点があった。
だからたぶん羅刹の関係者……綾を攫ったことからもしかして彼に敵意を抱く者かと思っていたが、まさか身内だとは思わなかった。
吃驚仰天する綾。
そして何故か相手も驚愕を浮かべていた。
「羅刹さん、ですってっ?!」
「統領を名前でっっ……!!!」
信じられない!とばかりに驚いている皆さん。
あれ?
そんなに驚くことですか??
展開が読めなくてどう反応していいかわからない綾。
ひとしきり驚いた彼らは「おい、やばいんじゃないか?」などとこそこそと話し出している。
勝手に巻き込んで置いてけぼりにしないでほしい。
あの~?と綾がそろりと声をかけようとしたところで、男たちにゴニョゴニョ言われ、「うるさいっ!」と地団駄を踏んだ少女が綾へと向き直り、ビシリと指を突きつけてきた。
「あんた!お兄様のなんなのよ?」
「え……?なにって……居候??還る場所がなくてお世話になってる異界の迷い人、ですけど」
「……は?」




