表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

刻印魔法

ガラムさんの葬儀は、静かに執り行われた。

村人たち全員が集まり、彼の墓前で祈りを捧げた。

涙を流す者、拳を握りしめる者、ただ黙って立ち尽くす者。

それぞれの想いを胸に、村は重い沈黙に包まれていた。


日が暮れた頃。

村の集会所に、戦える年齢の男たちが集まった。

総勢三十二人ほど。大工、猟師、農民――普段は武器など持たない者たちばかりだ。

「……で、どうする」

口火を切ったのは、大工のダンだった。

「このまま黙って税を払うか? それとも――」

「払えるわけないだろ!」

若い猟師のレオが叫んだ。

「三倍の税なんて! 全部差し出しても足りないぞ!」

「だが、払わなければ奴隷行きだ」

年配の農民、エドが重い声で言った。

「家族も、土地も、全て奪われる。それに……」

エドは言葉を詰まらせた。

「ガラムさんみたいに、殺されるかもしれない」

場が静まり返った。

恐怖。

それが、この場を支配していた。

「……だったら」

俺は立ち上がった。

「戦うしかないだろ」

「アリア……」

「俺たちはもう、追い詰められてる。黙って従えば奴隷。逆らえば死。だったら――」

俺は拳を握りしめた。

「戦って、勝ち取るしかない」

「勝ち取る? 何をだ?」

「自由だよ」

俺はみんなを見渡した。

「この村の、俺たちの、自由だ」

「……無茶を言うな」

エドが首を振った。

「相手は国だぞ? 兵士も、武器も、数も違う。俺たちは所詮、村人に過ぎない」

「だったら、村人が勝てる方法を考える」

「そんな方法が――」

「ある」

俺は断言した。

「俺には、見える」


次の日。

俺は村で唯一の刻印魔法使い、老人のオルソンを訪ねた。

オルソンは小さな工房で、日用品に刻印魔法を施す仕事をしていた。

火を起こす刻印魔法、水を温める刻印魔法――生活に便利な、初級レベルの刻印魔法ばかりだ。

「アリア……か」

オルソンは疲れた顔で俺を迎えた。

「すまんな。わしの力じゃ、戦いの役には立てん」

「いえ、そんなことは――」

「初級の刻印魔法なんて、せいぜい物を温めるくらいだ。武器になど、使えん」

オルソンは自嘲するように笑った。

「中級以上の刻印魔法が使えれば、少しは役に立てたかもしれんがな」

「……オルソンさん、刻印魔法を見せてもらえませんか」

「刻印魔法を?」

「はい。俺に、見せてください」

オルソンは怪訝そうな顔をしたが、手近にあった金属板を取り出した。

表面に、複雑な文様が刻まれている。

「これが炎の刻印魔法だ。触れてみろ」

俺は金属板に手を触れた。

じんわりと、温かい。

そして――【解析】が、発動した。

〈刻印魔法:炎――温度上昇機能〉

〈構造:力の循環回路――効率32%〉

〈接続点:5箇所――配置に偏り〉

〈出力:120°C――限界値に到達〉

情報が、次々と流れ込んでくる。

「……なるほど」

俺は呟いた。

「これ、もっと強くできる」

「何?」

「この刻印魔法、力の流れが無駄になってる。接続点の位置を変えて、回路を最適化すれば――」

俺は工房にあった炭で、地面に図を描いた。

刻印魔法の文様、力の流れ、接続点の位置。

オルソンの目が、見開かれた。

「こ、これは……!」

「試してもらえますか?」


一時間後。

オルソンが新しく刻んだ金属板を、俺は手に取った。

触れた瞬間――

「熱っ!」

思わず手を離す。

さっきの倍以上の熱さだ。

「信じられん……」

オルソンが震える声で言った。

「初級の刻印魔法なのに、中級に近い出力が出ておる……! お前、どうやって……!」

「俺には、見えるんです。刻印魔法の"構造"が」

俺は【解析】で得た情報を、できる限り説明した。

力の流れ、効率化の方法、配置の最適化。

オルソンは食い入るように俺の話を聞いていた。

「……アリア」

オルソンは俺の肩を掴んだ。

「お前は、天才だ」

「いえ、俺は――」

「いいや、天才だ! こんな発想、刻印使いの誰もが欲しがる! これがあれば――」

オルソンは興奮を抑えきれない様子だった。

「これがあれば、武器が作れる!」


その日の夜。

工房に村の男たちが集まった。

ダン、レオ、エド、そして他の村人たち。

俺とオルソンは、彼らの前で改良した刻印魔法を披露した。

「すげぇ……こんなに熱くなるのか」

レオが驚きの声を上げる。

「これを武器に使う」

俺は説明を始めた。

「刀身に刻印魔法を施して、斬りつけると同時に熱で焼き切る。鎧も、盾も、この熱には耐えられない」

「だが、刀に刻印魔法を施すだけじゃ足りないだろう」

ダンが言った。

「相手は訓練された兵士だ。俺たちは戦い方も知らない」

「だから、数で押す」

俺は地面に簡単な図を描いた。

「村の入り口は狭い。そこに罠を仕掛ける。刻印を埋め込んだ石を地面に敷き詰めて、踏んだ瞬間に足を焼く」

「遠距離は?」

「投石だ。刻印魔法を施した石を投げる。当たれば火傷、当たらなくても熱で怯む」

俺は次々とアイデアを出した。

刻印を使った罠、武器、戦術。

【解析】で見えた構造と、村人たちの知恵を組み合わせて。

「……やれるかもしれない」

エドが呟いた。

「本当に、やれるかもしれないな」

「やるんだ」

俺は全員を見渡した。

「ガラムさんの仇を取る。そして、この村を守る。それが、俺たちにできることだ」

静寂。

そして――

「……やろう」

ダンが立ち上がった。

「どうせ死ぬなら、戦って死ぬ」

「俺もだ!」

「家族を守るためなら!」

次々と、村人たちが立ち上がった。

恐怖は、まだあった。

でも、それ以上に――怒りがあった。

復讐の炎が、燃え上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ