ドワーフとカトブレパス②
「さて——」
ダンが腕を組んだ。
「どうやって戦う?」
「まず、情報を整理しよう」
俺はモースからもらった地図を広げた。
「カトブレパスの特徴」
「1. 目を合わせると石化」
「2. 毒の息を吐く」
「3. 体長3メートルの巨体」
「4. 普通の人間なら、盾役3人と弓兵2人でもギリギリ負ける強さ」
「......厄介だな」
レオが呟いた。
「正面から戦ったら、絶対に勝てない」
「ああ」
俺も頷いた。
「だから——策を使う」
「策?」
「煙で視界を遮れば目を合わせずに済むはず」
「カトブレパスも俺たちが見えなくなるが逆に俺達も見えない」
バルグが前に出た。
「俺たちドワーフも、戦わせてくれ!」
「......分かりました」
俺は頷いた。
「ありがとうございます」
「それで、煙幕はどうやって?」
ダンが尋ねた。
「それが......」
俺は頭を抱えた。
「煙を大量に出す方法が、まだ分からないんです」
「煙か......」
レオが考え込んだ。
「普通に木を燃やせば、煙は出るが——」
「それじゃ足りない」
俺は首を振った。
「もっと大量に、一気に煙を出さないと」
「カトブレパスの視界を完全に奪えない」
「......難しいな」
ダンが腕を組んだ。
「ビルグさん、何か知りませんか?」
俺はビルグを見た。
「研究神ドゥルガンを信仰してるビルグさんなら——」
「何か方法を知ってるんじゃないかと」
「ふむ......」
ビルグが腕を組んだ。
「鉱山ではよく煙が出る」
「鉱山で?」
「ああ。硫黄が燃えるとすごく煙が出るんだ」
ビルグが思い出すように言った。
「目も開けられないほどの、濃い煙」
「硫黄......」
「それに、硝石を混ぜると——」
ビルグが考え込んだ。
「もっと激しく燃える」
「鉱山で事故があったとき硫黄と硝石が混ざって——」
「大爆発と、すごい煙が出た」
「硝石と硫黄......」
俺は【解析】を発動した。
〈硫黄〉
〈硝石——硝酸カリウム〉
〈木炭〉
この三つを混ぜたら——
〈化学反応予測〉
〈硝石が酸素供給〉
〈硫黄+木炭が燃焼〉
〈不完全燃焼〉
〈大量の煙発生〉
「......見えた!」
俺は立ち上がった。
「硫黄と硝石と木炭を混ぜれば——」
「大量の煙が出るはずです!」
「ほう?」
ビルグが目を輝かせた。
「どういう理屈だ?」
「【解析】で見ると——」
俺は説明した。
「硝石が酸素を供給して」
「硫黄と木炭が燃える」
「でも、完全には燃えないから——」
「大量の煙が出る」
「......面白い」
ビルグが笑った。
「俺の鉱山の知識と——」
「お前の【解析】の組み合わせか」
「ドゥルガンは言う」
「『知恵を愛す敬虔なる使徒には研究神ドゥルガンの加護が与えられん』と」
ビルグが俺の肩を叩いた。
「お前は、知恵を持っている」
「いえ、ビルグさんがいなければ思いつきませんでした」
「ハハハ!」
ビルグが笑った。
「ならば一緒に作ろうではないか!」
「はい!」
ビルグが材料を混ぜた。
硝石3、硫黄2、木炭1の割合。
「これを紙で包んで——」
俺が筒状に丸める。
「火をつける」
バルグが火打石で火をつけた。
――シュウウウウッ
筒に火がついた。
「おお......!」
白い煙が、モクモクと上がる。
どんどん濃くなる。
「すごい......」
周囲が、真っ白になった。
「成功だ!」
ビルグが笑った。
「これならカトブレパスの視界を奪える!」
煙が晴れた後——
俺は筒を手に取った。
「これを、15本作りましょう」
「おう」
ビルグが頷いて——ふと尋ねた。
「そういえば、これ、何て呼ぶ?」
「......」
俺は筒を見た。
煙を出す、筒。
「煙を出す筒——」
「発煙筒、でどうでしょう?」
「発煙筒か」
ビルグが頷いた。
「分かりやすい名前だな」
「いい名前だ」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあ発煙筒を15本作るぞ!」
「はい!」
俺とビルグが、発煙筒を作っている。
黙々と、紙を巻き、材料を詰める。
「......」
「......そういえば」
ビルグが手を動かしながら尋ねた。
「お前たち人間には、神はいないのか?」
「神?」
俺は手を止めた。
「ああ」
ビルグが頷いた。
「俺たちドワーフには、三柱の神がいる」
「グロンディール、ヴァルグリム、ドゥルガン」
「でも——」
ビルグが俺を見た。
「お前たち人間が、祈ってるのを見たことがない」
「......」
「昔はいたらしいです」
俺は答えた。
「神様」
「昔?」
「ええ。ガラムさんから聞いた話ですが——」
俺は記憶を辿った。
「昔、人間にも神様がいた」
「豊穣の神、創造の神、知恵の神——」
「でも——」
「でも?」
「国が、禁じた」
俺は呟いた。
「神への信仰を」
「......何?」
ビルグが驚いた顔をした。
「なぜだ?」
「なぜでしょうね。急に信仰を違法としたんです」
俺は続けた。
「憶測なんですが」
「国王ではなく宗教に力が集中するのを恐れたんじゃないですか?」
「......」
ビルグが黙った。
「それから、神殿は壊され——」
「神官は処刑され——」
「神への祈りは、厳しく禁じられた」
「今では——」
俺は寂しく笑った。
「神様のことを覚えてる人も、ほとんどいません」
「......」
ビルグが拳を握った。
「なんてことだ」
低い声。
「神を禁じるなど——」
「ドワーフなら、反乱が起きるぞ」
「人間も、最初は反発したらしいです」
俺は言った。
「でも——」
「国は、力で押さえつけた」
「逆らう者は、全員処刑」
「だから——」
「みんな、諦めた」
「......」
「でも——」
俺はビルグを見た。
「ビルグさんたちを見てると——」
「神様っていいな、って思います」
「祈る相手がいる」
「信じるものがある」
「それって——」
俺は笑った。
「羨ましいです」
「......アリア」
ビルグが俺の肩を叩いた。
「お前が国を変えたら——」
「人間も、また神を信じられるようになるかもな」
「......そうですね」
俺は頷いた。
「そうなったら、いいな」
二人は、再び黙々と作業を続けた。
【翌朝】
発煙筒15本が完成した。
「よし」
俺は発煙筒を袋に入れた。
「作戦を確認しましょう」
集会所に、全員が集まった。
アリア、ダン、レオ、エド、バルグ、ビルグ、ブルグ。
7人。
「まず、配置です」
俺は図を描いた。
「遠距離——俺とレオとエドさん」
「俺がレオとエドの間に立って——」
「【解析】で位置を把握して、小声で指示を出す」
「小声?」
レオが首を傾げた。
「ああ」
俺は頷いた。
「叫んだら、カトブレパスに位置がバレてしまう」
「だから木の上で小声で伝える」
「煙幕があれば、下まで声は届かない」
「......なるほど」
二人が頷いた。
「最前線——ダンさん、バルグさん、ブルグさん」
「煙幕の中に突入してカトブレパスを無力化します」
三人が頷いた。
「中距離——ビルグさん」
「俺は【解析】で位置を把握して、指示を出す」
「ビルグさんはメイスで角破壊を」
「了解だ」
ビルグが頷いた。
「作戦の流れは——」
俺は続けた。
「1. 俺とダンさんが大声で叫ぶ」
「2. カトブレパスを誘き寄せる」
「3. 近づいてきたら、発煙筒を投げる」
「4. 煙幕で視界を奪う」
「5. 俺が【解析】で位置を伝える」
「6. レオとエドが弓で弱らせる——特に喉を狙う」
「7. 動きが鈍ったら、最前線が突入」
「8. まず顔に布を被せて、石化の目を封じる」
「9. 次に口を縄で縛って、毒の息を封じる」
「10. 完全に無力化してから、止めを刺す」
「......」
みんなが、真剣な顔で聞いている。
「これなら——」
俺は拳を握った。
「勝てます」
「おう!」
全員が頷いた。




