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次元世界〜三次元を超える権能〜  作者: Blanc Noir


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第二十話 タマモの望み

 ** タマモ サイド **





 ……一カ月が経った……。




 朝日が差し込むリビング。うちはまだ寝ぼけ眼で、ソファに横になっていた。


 ステラやソフィアがよく座っていた大きなソファは、今はうたた寝の特等席だ。この特等席はアッシュがいた時は、彼の定位置だったらしい。


 用意した朝食は、ブランが好んでいた山型のトーストとサラダ。食べ終わるといつもの家事に勤しんだ。


 昼になり、リビングの掃除を終えてソファに腰を下ろすと、窓から差し込む日差しに照らされた部屋が、妙に広く感じられた。


 あの日から、ブランのいない静寂が当たり前になりつつある。


 家電の使い方も覚えた。洗濯機の使い方や掃除機のかけ方もマスターしている。炊飯器でご飯を炊いてみたり、電子レンジで料理の時短を試みたり。


 ……最初は戸惑ったけど、少しずつ出来るようになり、こっちでの一人だけでの生活も様になってきた。


 ブランが戻ってきた時のために、ご飯のメニューのレパートリーを増やしている最中だ。


 買い物にも慣れて、冷蔵庫の食材は、彼がいつ帰ってきてもいいように、定期的に補充されている。


 夕方になって、やることがなくなると……ソファの特等席でうたた寝をして、ブランに出会った時の夢を見ていた。




 うちの母さまは……うちが小さい時に亡くなった。でも里長をしている父さまがいつも優しくしてくれたから寂しくなかった。


 あの日までは……。


 オロチが山に現れた日から五日目、見張りに出ていた者から、オロチが里に下りて来ようとしているとの急報が入った。すると父さまは、うちを地下の部屋にかくまってくれた。


「タマモ、ここにいなさい。何があっても、出てきてはいけないよ」


 父さまの声は震えてた。それでも、うちを安心させようと笑顔を見せてくれた。


 ……あの時、うちを抱きしめてくれた父さまの温もりは忘れられない。


「後で迎えにくるから……」


 そう言って父さまは扉を閉めた。暗くて狭い部屋の中でひとりぼっち。


 でも、父さまの言葉を信じて待つしかなかった。きっと父さまが、どうにかしてくれると願って……。



 それから、どれくらい経ったのだろう。最初は父さまの言う通り静かにしていた。


 でも次第に外の様子が気になり始めた。何の音もしない……静かすぎる。それがかえって不気味だった。


 しばらくすると、微かに足音が聞こえてきた。父さまが戻ってきたのかもしれないと期待したけど、すぐにその期待は打ち砕かれた。


 ――ドンッ!――。


 大きな音がして、地面が揺れた。


「きゃっ!」


 思わず声が出た。それから……悲鳴と物の壊れる轟音が鳴り響いた。


 何が起きているのか分からなかったけど、里が危ないってことだけは分かった。


(父さま……助けて……)


 泣きながら震える手で耳をふさいだ。恐怖で押しつぶされそうだった。でもそのうち、悲鳴も物音も止んだ。


「……?……」


 静かになったけど、逆にそれが怖かった。どれくらい待ったか分からないけど、決心して地下から出てみた。


 外に出ると……そこには何もなかった。建物は壊され、地面はえぐられていた。瓦礫が散乱していた。


 そして……誰もいなかった。


(みんな……どこに……?)


 オロチに食べられてしまったのだろうか?


 ……オロチは一度に大量の獲物を丸呑みすると聞いていた。


 信じたくなかった。……けれど、状況からすると、そうとしか思えなかった。


「父さま! みんな!」


 大声で呼んでも返事はない。その時、自分が本当に、ひとりぼっちになったんだって理解した。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 涙が止まらなかった。悲しみと、絶望と、不安で泣き暮れた。どれだけ泣いても気が晴れることはなかった。


 ……もう誰もいない……。


 その孤独感が、鮮明に胸に刻み込まれて離れなかった。


 何日か経った気がする。食べ物や飲み物を探す気力もなかった。ただ地面に座り込んでいた。


 ……このまま死んでもいいと思った。


 その時だった……人の気配を感じた。


 ゆっくりと振り返ると、そこには見知らぬ青年が立っていた。黒髪で黒色の瞳……優しそうな雰囲気だった。


 彼はそっと、うちの前にしゃがんだ。


「……もう、一人じゃないよ。僕がいる……」


 彼の声は柔らかくて……温かかった。


 その言葉は、……ずっと……ずっと、誰かに言ってほしかった言葉だった。


 涙があふれた。……彼の胸に顔を埋めて泣いた。


 うちの中で、何かのスイッチが押された気がした。父さまたちがいなくなってから……止まっていた「心」が……また動き出した。



 彼の名前はブラン。彼と一緒にイセの都に向かうこととなり、二日ほどの旅が始まった。


 ブランは粒子操作が上手で……オロチを倒しちゃうくらい強かった。……うちをオロチの恐怖から解き放ってくれた。


 それはまるで、言い伝えにある「仲間と共に旅をする英雄」のお話しに出てくる「英雄」のようだった!


 歩いている時、――ブランと手をつないで歩く――それが、好きだった! つないだ手の温もりが、一人じゃないって実感する!


 立ち止まった時、――ブランが頭を撫でてくれる――それが、大好きだった!! うちのそばにいてくれるって思えて、心が癒される!!


 家族と里を失った悲しみは、簡単には消えないけど、ブランと一緒にいると寂しくなかった。そう……孤独から救い出してくれる特別な人だった。


 彼がいることで感じる、出会ったばかりの相手とは思えない安らぎ。それは……自分でも不思議だった。


「もう大丈夫だよ」


 ブランはうちを励ますように、よくこう言って声をかけてくれる。


(……ブラン様の役に立ちたい……)


 うちもブランのために何かしたい……無性にそう思った。


「うち……伝説の英雄の仲間みたいになりたいです!」


 そう伝えるとブランは優しく微笑んだ。


 イセの都に行くのは、ブランが元の世界に帰る方法を探すため。……そして、うちにとっては「うちの新しい旅の始まりのため」そう感じ始めていた。


 ……この人となら、新しい道が見つけられる……そんな気がした。


(父さま……見ててください。うち……頑張ります)


 そう心の中でつぶやきながら、チョーカーにつけた母さまの形見の勾玉を握りしめていた。





 ……二カ月が経った……。




 朝の光が差し込むブランのベッドで、今日は、いつもより少し寝坊して目が覚めた。


 ブランの父さまの書斎を、うちの部屋にしてくれていたのだけど、夜寝るのが寂しくて……。最近、夜は、ブランの部屋のベッドに潜り込んで寝ている……。


「今日はちょっと……さぼっちゃおっかな……」


 そう思いながら、差し込む朝日を見て、地球にやって来た頃のことを思い出していた。




 朝の光が差し込むリビングの窓際、ブランは真剣な表情で粒子操作のトレーニングをしている。うちはお茶を淹れながら、その横顔をじっと見つめていた。


 真剣な顔で粒子操作に集中するブランの姿は、いつもよりずっと大人びて見える。その横顔に見入ってしまう。


「ねえブラン、ちょっと休憩しない?」


 そっとお茶を差し出す。湯気がほのかに香るハーブティー。少しでも疲れが取れますようにって思って淹れた。


「ありがとう。タマモ」


 ブランが笑顔を向けてくる。お茶を受け取ると頭を撫でてくれた。


 ブランの隣にいると安心する。八百万から来たうちを、地球で不便が無いようにと、気を使ってくれるブラン。


 稲荷の里が壊滅して、こうして、誰かと一緒にいられることの幸せをかみしめる。


 でも、この頃のブランは、次元統制院のことで頭がいっぱいみたいだった。


 次元統制院に、審判の中止を頼みに行くって言ってたけど、うちもちゃんと役目を果たせるようにしなけらばいけない。


 だからブランが家にいなくて、そばにいられないときは、九尾に変化できる時間の限り、エスカレーションの粒子操作トレーニングに専念していた。


 そして、地球の生活で、ブランに迷惑をかけないことも心掛けた。


 地球の科学はとても発達していて、こっちの世界は何もかもが新鮮で刺激的だ。食べ物や衣服はもちろん、建物の構造や移動手段まで八百万とは全く異なる。


 戸惑うことも多かったけど、その度にブランやみんなが丁寧に教えてくれた。


 ステラとソフィアとルナのみんなとも仲良くなった。最初は緊張したけど、みんな親しみやすくて、すぐに打ち解けられた。


 ルナは可愛らしくて、「一緒に遊ぼう!」とよく誘ってくれる、知らない遊びばかりで面白かった。


 ソフィアは優しくて、周りのことによく気がつく。作ってくれたクッキーというお菓子はとても美味しかった。


 ステラはいつも明るくて、元気いっぱいだ。よく、うちのことを気にかけてくれる。……だけど、ちょっとだけ、気になることがあった。


 それは、ステラが時々、ブランの隣でくっついたり、引っ張って連れて行ったりすること。


 ……八百万にいた時は、ブランの隣はずっと「うちの場所」だったから。……見る度になんだか胸がキュッとした。



 ルナもソフィアも、そしてステラも、ブランのことをとても大切に思っているのを感じる。


 それをわかっていたのに、……つい、ステラに意地悪な態度をとってしまった。


 ……タマ……と呼ばれて「猫じゃない」と知らんぷりをしてしまった……。


 ……「子供扱いしすぎよ。年下なのに」……と言って、逆に、ステラを子供扱いしてしまった……。


 ステラのことは好きだから「タマ」と呼ばれたっていい。


 子供扱いされるのも、この容姿なので、慣れっこで気にしていない。


 ……本当はそんなこと、どうでもよかったのに……。


 自分の場所が取られちゃうみたいで、ちょっとだけ、悔しかったのかもしれない。


 でも、次元統制院へ行く打ち合わせでの様子、ステラもソフィアも伝説に出てくる英雄の仲間みたいだった。


 ……あの打ち合わせの時、うちは圧倒されて、何もしゃべれなかったのに……。


 うちも決めたはず、「ブランの仲間になる!」と、「ずっと一緒にいるんだ!」と、……うちは反省して決意を新たにした。


 そして、……今度ステラに会ったら、あの時やっちゃった分の「倍」ステラに優しくしよう。……そう思いながら、布団の中で丸まった。





 ……もうすぐ、三カ月が経つ……。




 最近、少し気が抜けていたので、今日は気を取り直して頑張った。……そうしたら、張り切り過ぎて、夕食の料理を作りすぎてしまった。


 ブランに教えてもらった「トマトソースの鶏肉のソテー」……半分は明日食べよう……二皿に取り分けた。


 ふと、一皿冷蔵庫に入れる前に、二皿ともテーブルに並べてみる。……向かいの椅子に、ブランが座っている姿を想像しながら。


 そして、向かいにあるお皿と椅子を見ながら……またブランのことを考えていた……。




 あの日、ケルビムには、八百万に帰るって言ったけど、あれは嘘だった。ブランの記憶を失くすわけにはいかなかった。


「うちだけは、ブランのことを、覚えていないといけない。……だって、それができるのは、うちだけだ!」


 無意識に声が出ていた。


 うちが味わった、寂しくて、悲しくて、胸がキリキリする思い。……ブランにはあんな思いはさせない。それは絶対だ! そう強く心に決めていたから。


 でも、地球へ次元転移する時にセラフィが、うちを見て微笑んでいた。セラフィの顔を見た時、うちは「嘘を見抜かれた!」と思った。多分間違いない。こっちで言う……女の直感……みたいなもの?


 でも、そうなら、なぜ、何も言わなかったのだろう……?


 ……ブランが次元統制院へ戻った時に、何か迷惑をかけてないだろうか。


 ……噓をついたと、責められたりしてないだろうか。


 ……もしかしたら、それで戻って来られないんだろうか。


 ……ついつい、色んなことを考えてしまう。


(ううん。きっとブランなら大丈夫! だって……うちの英雄……うちの特別な人……なんだから)


 心の中でつぶやきながら、目を閉じると、ブランの微笑みかける顔が浮かんだ……。


「英雄ブラン様の仲間になるって決めたのに。……やっぱり……寂しいです……ブラン」


 思わず声が漏れた。……涙が込み上げてきて、テーブルに突っ伏してしまう。


 しばらく、そのまま動けずにいた……。高ぶった気持ちが落ち着くと……テーブルに顔を伏せたままウトウトしてしまった。




 とても幸せな夢だった。


 ……遠くから、あの人の声が聞こえてくる「――ただいま!――」と。そう、うちが待ちわびていた言葉。


 ……そして、うちのそばに来て、そっと頭を撫でてくれる……。


 ……そう、この感じ。うちの好きな、この……感……じ……。


(――あれっ!――)


 感触があった! あの優しい感触! そして、目を開けた瞬間。


「……ただいま……」


 あの人の声が聞こえた! ずっと待ち続けていた声! 鼓動が高鳴り、顔を上げる!


 彼が立っていた。……記憶通りの彼、変わらない優しい銀色の瞳。……彼の手が私の頭に添えられている。


「ごめん。……待たせちゃった」


 彼が無事に帰って来てくれた! 今まで生きてきた中で、一番幸せな目覚めだった!


 ……そして……。


「……タマモ……」


 彼が優しく微笑んで、うちの名を呼んだ。


「……おかえり……ブラン」


 ブランが帰って来た。しかも、タマモって呼んでくれた!


 ……うちのこと覚えてる……記憶から消えてない。


 声がかすれる。体が震える。涙が溢れてくる。


 うちのことを覚えてなくてもいい、いつか帰って来てくれれば、――それだけでいい――。


 それだけを望んでいたはずだった。……だけど……だけど……思わず尻尾を揺らしている。


「……ああ……そっか」


 ブランは静かにうなずきながら、うちを抱きしめてくれた。


 温かい腕の中で安心感が広がる。そして……。


「ただいま……タマモ。……大丈夫だよ……タマモ」


 ブランが、うちの名を、今度は、二度呼んだ!



 「――――おかえり! ブラン!!――――」



 うちも、もう一度、今度は、大きな声で答えた!


 うちは力いっぱい「ぎゅ」っと、ブランを強く抱きしめ返していた。





 **  **





 僕はついに帰ってきた。


 腕の中には、タマモの温もりがそっと伝わってくる。その暖かさに、思わず腕に力が入った。


 月明かりが差し込むリビングを見ると、何年も経ったかと思えるほど、我が家の景色が懐かしい。


 しかし、……これから、この家でずっと穏やかに過ごす……そんな事はできないだろう。


 僕は記憶を失わなかった。すべてを覚えている。すべてを背負ったまま。……そして。



 ――――何があっても抗う、そのための力を手に入れる――――。



 そう決めたのだから。逃げず、屈せず、抗ってみせる。……どんな未来が待っていようとも。




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