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次元世界〜三次元を超える権能〜  作者: Blanc Noir


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第一話 出会い

 今より五年前。宇宙の真理を求める研究者が、人には不可能と言われた、三次元以降の四次元から十一次元の認識を、次元粒子の可視化により実現した。


 この発見により、宇宙の果ては宇宙の異なる場所へ、次元転移にてつながっていると理解された。


 同じく謎に包まれていたブラックホールも、吸収された先は次元転移にて、異なる場所へとつながるワームホールであると判明した。


 十一次元認識の実現以降、次元科学解明の国であるルミナリアには、研究機関として次元科学大学が設立され、研究が進められていた。






 二〇五〇年四月、入学式の翌日。ルミナリア国立次元科学大学、次元粒子研究科。研究棟の奥まった一角にある研究室の自動ドアが静かに開く音が響いた。


「よし、ついに来たぞ……」


 僕は隣に立つアッシュを見た。ダークグレーの髪をかき上げる彼は、いつも通りの仏頂面だけど、微かに肩の力が入っているように見える。


「まあな。まさか俺までここに入れるとか思わなかったぜ」


 アッシュは首をコキッと鳴らしながら言った。


「ブラン、お前みたいな頭いいヤツはともかくよ」


「いや、でも僕だってびっくりしてるんだ」


 彼のダークグレーの瞳を見つめて苦笑した。


「まさか、アッシュと二人そろってこの研究室なんて……まあ、なんであれ一緒で嬉しいよ」


 そう言いながら、部屋に入ると目の前に広がる近未来的な空間に圧倒された。


 透明パネルには三次元グラフがリアルタイムで投影され、中央の円卓には幾何学模様が刻まれた金属製のブレスレットのような機器がずらりと並んでいた。



「これは……すごい!」


 思わず歩を速め、円卓に近づこうとした。その時だった。


「あの……ブラン・ノワールさんでしょうか……?」


 小声とまでは言わないが控えめの音量で、ふわりとした上品な声が背中越しに聞こえる。


「はい、そうですけど……」


 返事をしながら振り返った。


 そこに立っていた彼女は、青い瞳をこちらに向けた。


 金色のセミロングの髪には緩いウェーブがかかっていて、家柄の良さそうな身なりだったが、なんだか少しオドオドした雰囲気が感じられる。


「……申し遅れました」


 彼女は一歩下がり、順番を間違えましたと言わんばかりにかしこまった。


「わたくし、ソフィア・リーベルと申します。この度、あなた方と同じく、この研究室のメンバーに選ばれました。どうぞよろしくお願いいたします」


「ソフィア……さん」


 慌てて自己紹介を返す。


「ブランです。よろしくね。君もこの研究室なんだ」


「ええ。……実はわたしたち二人とも筆記試験では満点でしたの」


 ソフィアはモジモジしながら、少し頬を赤らめて微笑む。


「だから、同じ研究室になれるかもと思っていましたけれど……まさか本当に一緒になれるなんて……」


「マジかよ」


 横で聞いていたアッシュが目を丸くした。


「おいおい、そろって優等生か? なんで俺まで同じ選抜メンバーの研究室に入ってんだ……」


「あ、いえ、試験の点数のお話しがしたいのではなくて……」


 ソフィアは少し慌てて、前置きをしてから切り出す。


「もし……よかったらお話を聞かせて欲しいのです」


「何の話をですか?」


「お父さまはアルバン・ノワール博士。次元粒子の可視化を用いて、世界で初めて十一次元まで認識された方でいらっしゃいますよね」


 ソフィアは僕の顔色を見てか否か、確認するような眼差しで続ける。


「わたくし、次元粒子技術が大好きなのです。博士の考え方は、次元粒子の機器製作をする時にとても参考にしています」


 僕は少しうつむいた。確かに父さんは偉大な研究を行った。僕にとっても尊敬すべき父が称えられるのは嬉しいはずなのに……。


 けれど、ふと、あの日の記憶が蘇ってくる。……父さんと母さんが消えていく瞬間が。


「あの、すみません……何か気に障ったでしょうか……?」


 気づけばソフィアの不安げな声が耳に入る。


「ううん、違うんだ。……ただ、ちょっと昔のことを思い出しちゃってさ……」


 急いで笑顔を作って、続けようとした時だった。


「わりぃな、ソフィア。……こいつ色々あったから。父親のことは大事にしてるけど、それだけじゃないモンがあってよ」


 アッシュが僕の肩をポンと叩く。


 その口調はいつものぶっきらぼうだけど、どこか温かくて安心させてくれる。


 ソフィアは、アッシュの言葉を聞いて「しまった!」という顔をして、申し訳なさそうにしている。


「すみません。……数年前、ニュースで、お父さまがお亡くなりになっているのを知っていたのに、次元粒子技術のことになると……つい夢中になってしまって……」


 ソフィアが少しオドオドしながら謝罪をしてくる。


「気にしないで……」


 気を遣わさないように穏やかに答えた。


(いつまでもこんなんじゃ、真相にたどり着けない……)


 心の中でつぶやきながら前を向いた。



「それにしても、研究室のメンバーは、俺ら三人以外に誰も来ねぇけど。……ほかに人はいないのか?」


 アッシュがそう言いながら、辺りを見回していた時、自動ドアが開いた。


「ごきげんよう。皆さん」


 物静かな美しい声とともに、長いサラサラの髪を揺らしながら女性が入って来た。


 白くて透き通るような肌に、整った顔立ち、切れ長の目に銀色の瞳で、僕たち三人が息を呑むほど神秘的なオーラを感じた。


 そして、その落ち着いた雰囲気は、同じ研究生ではなさそうだった。


 ……しかし、教授にしてはやけに若い。


「えっと……あなたは……?」


 声をかけると、彼女はわずかに微笑みながら丁寧にお辞儀をした。


「私はリュミエール。この研究室の教授のお手伝いしている助手です。気軽にリュミと呼んでください」


「その若さで助手?……なるほど……ってことは……こっちも天才かよ」


 固まっていたアッシュが口を開いて驚く。


 一方、ソフィアは興味津々といった様子で前のめりになった。


「すごいですね! やはり、次元粒子技術を専攻されていらっしゃるのでしょうか?」


「もちろんです。もう博士課程も終えて、今は助手として研究をしていますが」


 そう言いながらリュミエールは僕の方を見る。それはどこか懐かしむような目つきだった。


「これから一年間、共に学べると思うと楽しみですわ」


 リュミエールの眼差しに見とれている自分に気づき、慌てて視線をそらす。なんだか不思議な感覚だ。


「あの……リュミ先生。今日は、研究室の選抜メンバーへのオリエンテーションだと伺っていますが、三人だけですか?」


 僕は最初の緊張から徐々に慣れ始め、もう少しこの人の話を聞きたいと思いながら尋ねた。


「はい」


 リュミエールはうなずいて書類を取り出す。


「適性数値が基準値を上回ったのは、皆さん三人だけでしたので。……あと、ただの助手ですので『先生』はつけないで結構ですよ」


 にっこりと微笑まれてしまい、一瞬言葉に詰まってしまったが、気を取り戻して続けた。


「あの、リュミ……さん。適性の基準値ってなんですか?」


「次元粒子を操作するために、身体検査の際の脳波データが、必要なレベルを満たしているか。……です」



「おほん……さて」


 リュミエールは、改まったように一度咳払いをして、話を本題に移した。


「皆さんには、これからこの研究室で、試験運用を行っていただきます」


「試験運用……?」


 怪訝そうな顔をしているアッシュ。


 何か思い当たる節でもあるかのように、目を輝かせているソフィア。


 一体どういうことだろう?


「はい。最近になってようやく、次元粒子操作の実用段階に入った『デバイス』の試験運用です」


「『デバイス』って……これのことかい?」


 アッシュが中央の円卓に並んだ腕輪型の器具を指差す。


(そうか、……これが「次元粒子認識装置」なんだ)


 今度はこの金属の輝きに、僕は目を奪れていた……。





 研究室でのオリエンテーションを終えて、帰り道をアッシュと並んで歩く。


 夕暮れの寂しい空気が漂っていたけれど、僕の胸には「これから始まるんだ」そんな高揚感があった。


「デバイスか……次元粒子を三次元に事象顕現させるなんて、まるで……魔法……みたいだな」


 アッシュがぽつりと言った。彼の目は少し輝いているように見えた。


「そうだね。でも、リュミさんの話だと、扱いが難しいって言ってたよ」


「ブランは大丈夫だろ? 粒子認識適性が特に高いって言われてたし」


「さあ……どうかな。正直よくわからないよ。適性とか言われても実感湧かないし」

 

「ま、お前ならなんとかなるだろ」


 アッシュは僕の肩を軽く叩いた。


 彼の励ますような言葉に、僕は胸が温かくなる。両親を亡くしてから、アッシュはいつもそうだった。




 アッシュと二人で住む、二階建ての家が見えてきた。


 父さんと母さんが亡くなってから三年。


 両親のいなくなったこの家で、僕らは助け合って生きてきた。幸い両親が残してくれたお金で、生活に困窮することはなかった。


 アッシュは生まれてすぐに母親を亡くし、この家に来る前まで父親と二人暮らしだったが、十二歳の時に父親も事故で亡くなった。


 身寄りのなかったアッシュは、彼の父親と研究仲間だった僕の父さんに引取られ、共に育った。


 僕の無二の親友「アッシュ・グレイ」、彼はもう家族同然の存在だった。




 あれ? 家の前まで来ると、知らない女の子が、玄関の前でうずくまっているのが見えた。


 オレンジの髪を高い位置でポニーテールにまとめて、両側に垂らした髪の間からセピア色の瞳が覗いている。


「えっと……?」


 思わず足を止めると、彼女は十字のネックレスを揺らしながら、こっちを向いて立ち上がった。


「突然すみません! あたし、ステラ・アークライトっていいます! お願いがあります!」


 ステラと名乗る少女は、深々と頭を下げた。


「どうか、今日一日だけでも、泊めてもらえませんか?」


「……はぁ? 何言ってんだお前……」


 アッシュが眉をひそめた。


 僕も困惑した。なんで、こんな知らない人の家に、泊めてくれなんて言ってるんだろう?


「理由は……えっと……実は家が大変で……帰れなくなっちゃったんです! 本当です!」


 ステラは目を潤ませて訴える。でも、アッシュの反応は冷たい。


「家出か? なら警察行け。それとも、何かヤバいことでもしてんのか?」


「ち、違います! 本当に困ってるんです!」


 ステラは必死だった。何か深い事情がありそうだ。僕は昔から困ってる人を放っておけない性格だった。


「アッシュ、……困ってるのは本当みたいだし、事情を聞いてみても……いいんじゃないか?」


 少し迷いながらも口を開いた。


「お前なぁ……すぐ情に流されるんだから。こんなの胡散臭すぎだろ」


 アッシュが僕の横で更に眉をひそめた。


「お願いです! 今夜だけ! このままじゃ夜を過ごす場所がないんです!」


 ステラが突然、僕の服の袖を掴んだ。その必死さに胸が痛んだ。彼女のセピア色の瞳が必死で訴えている。


「アッシュ……本当に困ってるみたいだし……」


「ったく……しょうがねぇな。ただし、何か盗もうとしたら、すぐに警察に突き出すからな」


 アッシュは、渋々といった顔で溜息をつく。


「ほんとですか! ありがとうございます!」


 ステラがぱぁっと顔を輝かせた。その表情に少しだけ安心する。悪い人には思えなかった……。


「僕はブラン。こっちはアッシュ。……とりあえず中で話そう」


 そう言って、玄関の鍵を開けた。




「それで……どうしてこんなことに?」


 僕はリビングのソファに座りながら尋ねる。


「実は……あたしの故郷が危険になって……避難してきたんです。でも、道に迷っちゃって……ええっと……」


 ステラは言い淀んだ。


「故郷が危険?」

 

 アッシュが強い口調で問い詰める。


「ええと……えっと……」

 

 ステラの言葉が曖昧になっていく。


「嘘くせぇな。もっとちゃんとした理由言えよ」

 

 アッシュが舌打ちした。


「う……」


 ステラはうつむいてしまった。


「まあまあ、アッシュ……疲れてるんだよ、きっと」


 かなり威圧的なアッシュを見て、慌ててフォローする。


「とりあえず、ご飯を食べようか」


 そう言って、僕はキッチンに向かった。


「えっと……ステラちゃんは何か苦手なものある?」


「え? あ……特にないです! それと……気軽に『ステラ』って呼んでください!」


 ステラは笑顔で答えた。さっきまでの泣きそうな顔とは別人みたいだ。


「なら大丈夫だね。アッシュは何食べたい?」


「肉。肉ならなんでもいい」


「……はいはい」



 僕は鶏肉を焼いてトマト缶で作ったソースをかけ、テーブルに並べた。


 すると、リビングに置いてある昔の家族写真を、まじまじと見ていたステラが、駆け寄って来た。


「わぁ……! すごく美味しそう!」


 ステラは目を輝かせた。


「そう? ありがとう」


「いただきます!」


 ステラは勢いよく食べ始めた。その姿を見ていると、なんだか可愛らしい。


「あの……ブランくんは料理が上手なんですね! リビングの写真に写ってるの、お母さんですよね。お母さんに習ったんですか?」


 彼女が不意に尋ねてきて、ドキッとした。母さんのことを聞かれるとは思わなかった。


「ああ……母さんが作っていたレシピなんだ。美味しいって言ってくれる人がいると嬉しいよ」



 食事が終わると、ステラが食器を洗うのを手伝いながら、再び尋ねてきた。


「ご飯美味しかったです!……ええと、あの……お母さんは……?」


「え……」


 一瞬返事に詰まってしまった。


「あっ! すみません……立ち入ったこと聞いちゃって」


 ステラは慌てて首を振る。


「ううん。大丈夫だよ……母さんは……三年前に亡くなったんだ」


「えっ? ……ごめんなさい」


 ステラは申し訳なさそうにうつむいた。


「いいんだ。気にしないで」


「……美味しいレシピでしたね。……素敵なお母さんだったんですね」


 ステラは少ししんみりした様子で言った。


 もしかして、彼女も家族を失ったことがあるのだろうか……そんなことをふと思った。


 片付けが終わると、ステラはリビングのソファーでうとうとしはじめていた。疲れが限界だったのだろう。


 僕はタオルケットを彼女に掛け、二階の自分の部屋へ向かった。




 翌朝。いつものように朝食の準備をしていると、リビングで寝ていたステラが起きてきた。


「ふあぁ。……おはようございます」


 まだ少し眠そうな目をこすりながら挨拶をしてくる。


「おはよう、ステラ」


 僕が返事をすると、歯磨きを終えたアッシュもやって来る。


「おはよ。ってかお前、そこ占領すんな。邪魔だ」


 ソファの、アッシュがいつも座る定位置を陣取っているステラに、不機嫌そうに言い放つ。


「えー、いいじゃないですか、アッシュさん。昨夜はお世話になったんですから!」


「誰が世話したってんだ。飯食わせて寝床貸しただけだろ」


 アッシュの言い分はもっともだ。僕が苦笑していると、ステラがふと真面目な顔になった。


「あの……ブランくん。昨日お風呂入ってなかったから……ちょっと気になって」


「お風呂? ああ、そうだね。使っていいよ。タオルとかは脱衣所にあるから」


「やった!……でも、男の人がいるのに、ちょっと恥ずかしいな……」


 ステラが照れながらうつむく。


「何が恥ずかしいだ。子供は一日くらい風呂入んなくても平気だろ」


 アッシュがまた棘のある言い方をする。


「こっ、子供じゃないです! もう十五歳で、もうすぐ一六ですもん! そんなに歳変わんないですよね!」


 ぷくっと頬を膨らませて反論するステラ。その仕草はまるっきり子供なのに。


「はいはい。早く行けよ」


 アッシュは面倒くさそうに手を振る。


「もう! アッシュさんは意地悪です!」


 そう言いながらも、ステラは嬉しそうに浴室へ向かった。


 コロコロと表情がよく変わり、見ていて飽きない。……彼女は本当に不思議な子だ。あんな風に誰かとすぐに打ち解けられるなんて。



 朝食が出来上がった頃合いを見計らって、リビングに戻ってきたステラは、なんだかすっきりした様子で上機嫌だった。


「お待たせしましたー。えへへ、シャワー使わせてもらいました。ありがとうございました!」


 濡れた髪を拭きながら言うステラ。


「気にしないで。さて、朝ご飯食べようか」


 三人でテーブルを囲んで朝食を取る。ステラは昨日の疲れからか食欲旺盛で、次々と料理を平らげていく。


「うまいか?」


 アッシュがぶっきらぼうに聞く。


「はい! とっても美味しいです! アッシュさんも料理するんですか?」


「たまにだ。基本ブラン任せだけどな」


「ブランくんってすごいですね! こんなに美味しいご飯が作れるなんて!」


「そんなことないよ。母さんのレシピ通りに作ってるだけだから」


「そうなんですね。……でも、それをちゃんと再現できてるってことは、やっぱりすごいと思いますよ」


 ステラの言葉は素直で裏表がない。


「ありがと。そう言ってもらえると嬉しいよ」



 食事が終わり、僕とアッシュが大学に行く準備をしていると、ステラが尋ねてくる。


「あの……帰ってきたら、今日も美味しい晩ご飯ありますか?」


「え? ああ……多分ね」


「よかった! あたし、今日の晩ご飯は何かなって、楽しみにしながら、お留守番してますね!」


 さっきまでの「子供じゃない」という主張はどこへやら……。まるで子犬みたいに目を輝かせるステラに、アッシュは呆れたようにため息をついた。


「晩飯なんか考えてないで、とっとと出て行く先でも考えとけよ」


「もう! アッシュさんは冷たいです!」


 また不毛なやり取りが始まった。僕はそれを苦笑しながら眺める。


(まったく……ステラの屈託のなさと、アッシュのぶっきらぼうさ、一見正反対に見えるけど、二人とも言いたいことは遠慮しない。……実は似た者同士なのかもしれないな)


 ステラが家に来てからのわずかな時間で、家が少し賑やかになった。


 それは煩わしいというより、久しぶりに感じる、どこか温かいものだった。




「じゃあ、行ってくるよ」


「行ってらっしゃい! 気をつけてね!」


 ステラの明るい声に見送られ、僕とアッシュは家を出た。


「……あいつ、怪しいことに、変わりはないからな」


 隣を歩くアッシュがぽつりと言う。


「そうだね。……女の子が一人で、どんな事情があるのか、ちゃんと聞かせてもらわないとね」


「お前はすぐ、そうやって人を信用するからな。……まあ、悪いやつではなさそうだが」


 そう言って、アッシュはそっぽを向いた。


 素直じゃない親友の優しさに、僕は小さく笑いながら、大学への道を急いだ。




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