7話 賑やかな食卓
エルマーはアヤナやロルフたちと共に、料理台から好きなものを盆に乗せ、空いているテーブルへ着いた。
取ってきた料理を見ると、各々の好みが分かって面白いと、エルマーは思った。
ロルフは盆に積み上げた焼き物や揚げ物などの肉料理を旨そうに食べているが、ヨーンは肉や野菜、スープなどを均等に並べ、飲み物は牛乳を選んでいる。
「僕、もう少し背丈を伸ばしたいんだ。牛乳を飲むと背が伸びるって聞いてさ」
照れ臭そうに、ヨーンが説明した。
「そうか、私も、もっと牛乳を飲もうかな」
そう言ったパウラの盆には、申し訳程度の主菜と共に、甘いパンや果物がひしめいている。
「君は牛乳以前に、偏りのない食事を心がけるべきじゃないかなぁ」
「だって、目の前に甘いものがあったら食べたくなるじゃない?」
ヨーンの言葉に、パウラは軽く唇を尖らせたものの、目は笑っている。
「この国の料理は、複雑な味ですね。見たことのない調味料が沢山ありますが、みんな美味しいです」
アヤナが、上品な手つきで鶏肉のクリーム煮をつつきながら、エルマーに微笑みかけた。
「その料理は、この国ではよく食べられているものだよ。俺の好物さ」
自分の皿にも盛ったクリーム煮を、エルマーも一口食べた。味は申し分ないが、父が作ったものとは違う――彼は、懐かしくも少し寂しい気持ちを覚えた。
「ルーク王国は、裕福な国なんでしょ? 王族にもなれば、すごい贅沢をしてるかと思ったけど、そうでもないのかな」
エルマーが言うと、アヤナは頷いた。
「近年になり『魔結晶』の鉱山が発見される以前、ルーク王国は辺境の小国に過ぎませんでした。ですから、王族だからといって過剰に贅沢をするということはありません。『魔結晶』で得られた富は、皆が豊かになれるよう使います」
「そうか……そういえば、君も『標準寮』に住んでいるんだったね」
「はい。ほぼ毎年、我が国から何名かずつ、この学院に留学生を送っています。たとえ王族でも、皆『標準寮』で生活しています。資源は、いつか枯渇しますから、それに備えて、国民の教育に力を入れているのです」
「アヤナは、将来ルーク王国にも、ここみたいな魔法学院を作りたいんだって。偉いよね」
パウラが、無邪気に口を挟んだ。
「将来かぁ……僕は次男だから家を継ぐとか考えなくていいけど、自由にしろと言われると、却って迷うね」
ロルフの言葉に、エルマーも、はっとした。魔法学院に入学はしたが、将来どうしたいかなどという具体的なことは、未だ考えられずにいた。
「俺、最近まで父の食堂を継ぐつもりだったから、そこまで考えてなかったよ」
「まぁ、それでは、エルマーは、お料理ができるんですか?」
アヤナが、興味津々という様子でエルマーを見た。
「父に習ったものなら、多少できるよ。父は亡くなったから、あとはレシピを見るしかないけど」
「ああ……そうなのですね。悲しいことを思い出させてしまいましたね」
「いや、気にしないで」
しまったという顔をしているアヤナを安心させようと、エルマーは彼女に微笑みかけた。
「エルマーは、卒業まで成績を維持すれば、進路は選び放題だろ? 魔法管理省の官僚とか、国防を司る魔法兵団とか、市民の安全を守る魔法警察というのもあるし、魔法関連企業の研究者なんかも面白そうだよね。収入と安全面を考えれば、僕は官僚を目指したいかな」
顎に手を当て、ヨーンは自分の言葉に頷いている。
「そうか、アヤナやヨーンは、もう色々と考えているんだな」
同級生たちと、このような話をするのは初めてだ――エルマーは胸の中で焦りと高揚感が綯交ぜになっているような気がした。
「そうよ、私たちと違って、みんなは魔法が使えるんだから、それを生かさないとね」
「君たちと違って……って、どういう意味?」
パウラの言葉に、エルマーは首を傾げた。
「ああ、まだ言ってなかったっけ。私は『魔法理論学科』だから、『魔法科』の人のような『魔法の素質』はないの」
「説明しよう、『魔法理論学科』というのは、魔法の研究や魔導具開発に携わりたい人が入る学科さ。魔法を発動できなくても、理論の構築や魔導具の設計はできるからね。技術の向上には、彼らのような人たちが不可欠なんだ」
ヨーンがパウラの言葉を受けて、得意げに説明した。
「私、小さい頃は魔術師になりたかったけど、適性検査で素質なしって言われちゃって。でも、魔法が発動できなくても魔法に関係する仕事はできるって聞いたから、ここに入る為に一生懸命勉強したのよ」
目を輝かせながら言うパウラを見て、エルマーは彼女の情熱に感心した。
「そういえば、さっき出てきた金髪の人、イザークって呼ばれてたよね」
何かを思い出したように、ヨーンが言った。
「今年の首席二人のうち、一人はエルマー、もう一人は貴族出身でイザーク・ディートリヒって名だと思ったんだけど、彼がそうなのかな」
「うん、父上に連れられて行った、貴族院議員のパーティーで顔を見たことがあるよ。そうか、彼が、もう一人の首席か。ディートリヒ家は王家とも親戚関係がある名家と言われてるね」
ロルフが、ヨーンの言葉に頷いた。
「あの人、貴族だったのね。だから、グレゴールとかいう人も大人しくなったのね。『ロスラー商会』って、けっこう大きな企業みたいだけど、貴族には敵わないのね」
パウラも、納得したという顔を見せている。
「そうだなぁ、魔導具業界最大手の『ライヒマン商会』くらいになれば、貴族とも対等にやれるかもしれないけど。民間企業に就職するなら、『ライヒマン商会』くらいのところを狙いたいね」
言って、ヨーンが片方の口角を上げた。
エルマーも、「ライヒマン商会」の名は知っていた。主に取り扱うのは魔導具だが、あらゆる分野で名前を聞く商会だ。
「よく考えれば、ロルフが、自分は貴族だって言ったら、グレゴールは大人しくなったんじゃないか?」
ヨーンに言われて、ロルフは、きょとんとした。
「いや、僕は向こうが殴りかかってきたら応戦するつもりだったし、そんなこと思いつかなかったよ」
「きみ、割と血の気が多いんだね……」
からからと笑うロルフを見て、ヨーンが呆れたように肩を竦めた。
――俺がグレゴールを止めようとした時、ロルフとヨーンは何も言わなくても加勢しようとしてくれた……故郷の学校とは何もかも違う。ここに来て、本当に、よかったかもしれない。
和気藹々とした空気の中に、いつしかエルマーも溶け込んでいた。
「明日の入学式のあと、組の発表だそうですね。私、皆さんと同じならいいと思っています」
言って、アヤナは頬を染めた。
エルマーも彼女に同意だったが、何とはなしに恥ずかしいような気がして、曖昧に笑ってみせた。




