表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

2話 才能は輝く

 学校の講堂は、集められた子供たちの(ざわ)めく声に満ちている。

 整列している彼らの前には、集会で校長が話をする時のように高座が設けられていた。

 エルマーは、落ち着きのない同級生たちの姿を眺めながら、次に図書室で借りたい本を思い浮かべた。


「皆さん、静かに。魔法管理省の方たちがいらっしゃいましたよ」


 やや緊張した面持ちの女性教師が、ぱんぱんと手を叩いて言った。

 ほぼ同時に、講堂の入り口から、何かが入っていると思しき箱を抱えた数人の男女が現れた。

 全員が、青や緑など様々な色をした魔術師のようなローブを身に着けている。

 彼らは、教師が言う「魔法管理省」の役人たちだった。ローブの色の違いは、役職や階級によるものらしい。


「皆さん、こんにちは。我々は、魔法管理省から来ました」


 役人たちの中で最も年嵩(としかさ)に見える男が、高座から挨拶した。

 ここに来ている役人の中で、彼が一番偉い人なのだろうと、エルマーは思った。


「皆さんは、『魔法管理省』がどういうものか知っていますか? 分かる人は手を挙げて」


 男が言うと、何人もの子供たちが、授業中の如く、はいと言いながら手を挙げる。


「じゃあ、そこの元気な君、魔法管理省について知っていることを答えてください」


 指名されたのは、ひときわ大きな声で目立っていたギュンターだった。


「『まほうかんりしょう』は、『魔法』が安全に使われるように管理する『こっかきかん』です!」

「そうですね。よく難しい言葉を知っていましたね」


 褒められたギュンターは、周りの同級生たちを見回しながら得意そうな顔をしている。


「今日は、十歳になった皆さんの『魔法の適性』を調べます。現在、我が国では魔法を利用した技術が多く使われています。その為、常に魔法を使える人が必要とされています。魔法を使う才能のある子を見つけるのが、我々の役目です。怖いことはありませんから、係の者の指示に従ってくださいね」


 年嵩(としかさ)の役人が話している間に、彼の部下たちは慣れた様子で「魔法適性検査」の準備をしていた。

 幾つか並べられた机の上に、平べったい箱状の装置が一つずつ載せられていく。


「では、見本を見せますから、私がしたのと同じように、皆さんも検査を受けてください」


 年嵩(としかさ)の役人は、そう言って高座から降りると、箱状の装置の一つに自分の手を載せた。


「これは、個々人の『魔素の(うつわ)』の大きさを測る『魔素計(まそけい)』という『魔導具』です。表面に幾つも(はま)っている、異なる色の石は『魔結晶』で、どの石が光るかで呪文の適性が分かります。皆さんも、『魔結晶』については聞いたことがあるでしょう」


 ――「魔結晶」……「魔導具」を作るのに欠かせない材料って、本に書いてあったな。たしか、「魔素の(うつわ)」は、その人が呪文を唱えた時に動かせる「魔素」の量のことで、大きければ呪文の効果が上がるんだっけ。「魔素」は目に見えないけど、どこにでも存在する、魔法の源になる物質……


 役人の説明に、エルマーは図書室で読んだ本の内容を思い出した。

 

「始めに言っておくと、『魔素計』に反応があるのは、全ての人間のうち半分以下です。更に、呪文を唱えて魔法を発動させるほどの『魔素の(うつわ)』を持つ人は、もっと少なくなります。したがって、反応が無くても恥ずかしいことではありませんから、安心してくださいね」


 年嵩(としかさ)の役人は説明を終えると、「魔素計」に向かって「輝け(ミコ)」と唱えた。

 次の瞬間、「魔素計」に(はま)っている石が光りだした。


「この大きな白い石の光り方で、『魔素の(うつわ)』の大きさが分かります。それと、私の場合は、赤と青、黄色の石が光っているので、火と水属性、あと支援魔法が使えるということになります。では、皆さんも、やってみましょう」


 役人の説明で興味を引かれたのか、子供たちは、いそいそと「魔素計」を載せた机の前に列を作った。


 ――魔法の素質か。俺は父さんの後を継いで料理人になるから、あまり関係ないや。魔法を自動で代行してくれる「魔導具」を使うだけなら、魔法が使えるかどうかなんて関係ないし。


 そんなことを考えつつ、エルマーも列に並んだ。


「ええっ? 何も起きないよ?」


 列の先で大きな声をあげたのは、先刻、役人に褒められて得意顔をしていたギュンターだった。

 どうやら、「魔素計」に手を置いて呪文を唱えても反応が無かったらしい。

 彼にとっては不本意な結果だったのか、信じられないという顔で地団太を踏んでいる。


「大丈夫、さっきも聞いたように、普通のことですよ。反応のあるほうが珍しいんだから」


 測定係に(なだ)められても、ギュンターは不満そうに頬を膨らませていた。

 他の子供たちを見ても、今のところは、大きな白い石がぼんやりと光る程度の者しかいない様子だ。


「……とはいえ、ちょっと不作かも」

「こればかりは、生まれつきの運ですからねぇ」

 

 測定係たちが(ささや)き合う声を、エルマーは耳にした。

 やがて自分の番がやってきたエルマーは、皆と同じように「魔素計」へ手を載せた。


輝け(ミコ)


 エルマーが呪文を唱えると、「魔素計」が眩い光に包まれた。

「魔素の(うつわ)」の大きさを示すという白い大きな石は直視できない程の光を放ち、周囲に()め込まれた色とりどりの石も、一つを除いて鮮やかに輝いている。


「こ、これは……!」


 魔法管理省の役人たちが、エルマーが手を載せている「魔素計」を見て、驚きの声をあげた。


「『魔素の(うつわ)』は特大、呪文の適性も、無反応の『治癒系』以外は全て最大級です……!」


 エルマーの正面に座っている測定係の男が、眩しそうに目を細めながら言った。

 大人たちが落ち着きを失くす姿を見て、エルマーは、何故か自分が悪いことをしてしまったかのような気持ちになった。


「あ、あの、なんか、すみません」

「ああ、こちらこそ、すまなかったね。久々に凄い反応が出たから、みんな驚いただけなんだ。君は何も悪くないよ」


 年嵩(としかさ)の役人が、狼狽するエルマーの頭を撫でて言った。


「君は、間違いなく『ヴァールハイト魔法学院』の受験資格がある。正式な通知は二週間後くらいに学校へ届くから、親御さんと相談しておいてくださいね」

「まほう、がくいん……?」


 自分にとっては降って湧いたような話に、エルマーは驚いた。


「君には高い魔法の素質があるから、魔法を勉強すれば、凄い魔術師になれる可能性があるということさ」


 測定係の男が、エルマーを見ながら微笑んだ。


 全員の検査が済んだところで、エルマーたちは教師の指示で教室へと戻ることになった。


「おい、なんで、お前なんかが『魔法の素質がある』とか言われるんだよ。()()したんだろう!」


 皆と教室へ向かうべく廊下を歩いていたエルマーは、ギュンターに肩を小突かれた。


「何を言ってるんだ? 俺に魔法の素質があるのと、君にないということには何の関係もないだろう?」


 エルマーは、ギュンターの理不尽な言い草に半ば呆れた。


「ギュンター、乱暴はいけないよ。八つ当たりは、やめなさい」


 いつもは見て見ぬふりをするはずの担任教師が、ギュンターを(いさ)めた。


「だって、だって……」


 普段とは異なる教師の態度に驚いたのか、ギュンターは不服そうに頬を膨らませたまま押し黙った。


「エルマー、さっき『魔法管理省』の方も仰っていたけど、君には後で『魔法学院』の受験資格があるという通知が来るでしょう。少し早いと思うかもしれないが、お父さんと話し合っておいたほうがいい」


 いつになく機嫌の良さそうな教師の言葉に、エルマーは少し混乱した。

 翌日から、彼の学校生活には小さな変化が訪れた。

 教師たちのエルマーに対する態度が優しくなった――というよりは、彼を丁重に扱うようになったと言うほうが正確だろう。

 対して、ギュンターは学校に来なくなった。どうやら、「魔法適性検査」で思ったような結果が得られなかった為、へそを曲げているらしい。

 それに伴い、余所余所(よそよそ)しかったり、ギュンターの尻馬に乗って嫌がらせをしていた級友たちも、まるで、そんなことはなかったかの如く、エルマーに対して普通に接するようになった。

 周囲の空気が変わり、居心地が良くなったはずではあるが、慣れない状況にエルマーは戸惑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ