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4.もう二度と

4.「もう二度と」



「──せ、聖騎士王……?」ルークは困惑してそう言った。

「ああ、記憶の無いお前に言ってもピンとこないだろうな。簡単に説明すると、私はこの世界の4分の1を支配している国、『ホワイトシェル』で最も偉い人間だという事だ」アルエが言いながらルークに近づくと、ルークは思わず後ずさった。

「……めちゃくちゃすげぇ人ってことは分かった……分かりました……けど、聖騎士ってのはそもそも何なんですか、さっきの光は……」ルークはアルエの腰に差してある剣を見て、ごくりと唾を飲み込んだ。


「……ふむ、この聖剣というものはな、神イリスの加護を受けて打たれたものだ。その聖剣を扱う者は聖剣使い、或いは聖騎士と呼ばれ、聖剣を通じて神イリスの恩寵を受けることができる。我が国は起源より、数多の聖騎士によって栄えてきた。その聖騎士を束ねる者こそが、聖騎士王……つまり私だ」


 ルークはアルエの話を何度か頭の中で反芻はんすうした。分からない単語があったわけではないが、どうにも根底的な部分でルークとアルエの間には、大変な()()があるように思えたからだ。


「……あー、つまりさっきのすげぇ光はその……神イリス? 神様、の力ってことで……いいんですか?」ルークは一言一言噛み締めるようにアルエに確認した。

「勿論だ。神の力でも借りなければ、人間族ヒューマンの我らにあのような芸当はできんさ」


 ルークは愕然とした。アルエはとても冗談を言っているようには見えなかったからだ。さらには今新たに耳にした『人間族ヒューマン』という言葉。それにもルークは衝撃を受けた。


「アルエ、すげぇ当たり前かもしれない事を聞いてもいいですか?」と、ルークが言うと、アルエは「ああ、言ってみるがいい」と気前よく返事をした。ルークは、意を決してアルエに訊ねた。


「……この世界に、神様っているんですか?」

「……なんだと?」アルエは眉をひそめて、ボリスの方をチラリと見た。ボリスも怪訝な顔をして肩をすくめた。ルークは2人の反応を見て、質問の答えを察した。

「……この世界に神がいるかだと? ルークよ、神がいるからこの世界があるのだろう」アルエは子供を諭すような調子でそう言った。 


「恐れながら陛下、この者は一体どういったお方で? ホワイトシェルの人間でない事は見て分かりますが……」アルエの側で控えていたボリスが、痺れを切らせてそう言った。


「この者はルーク。先刻私が冬王軍の魔獣に殺されそうになっていたところを救ってくれたらしい……が、彼は記憶喪失らしくてな、気が付いたらこの街に居たそうだ」

「……記憶喪失? いや、そんなことよりも陛下、今なんと!? 冬王軍の魔獣めに殺されかけたのですか!?」ボリスはアルエに詰め寄って、どこか怪我をしていないか身体をあちこち見回した。

「騒ぐな鬱陶しい……私は無事だ。だが、実を言うと私もここ数刻の記憶が抜け落ちていてな、何故戦線から離れてこんな所にいるのかよく分からないのだ……ルークの話を聞いた限りで確かな事は、鎧はバラバラに破壊され、レヴィも魔獣にやられたらしい……」アルエは少し目を伏せてそう言った。隣のボリスもそれを聞いて悲痛な面持ちを浮かべた。ルークは黙って話を聞いていたが、レヴィという者はあの怪物に連れ去られた鎧の人物ではないかと思い至った。


「……この件につきましては、後ほどお話し致しましょう。今はとにかく、早急にベルジアードに帰り御身体をお休めになるのが先決かと」ボリスはアルエを気遣うようにそう言った。

「そうだな……ボリス、ガルダには3人乗れるな? ルークを我が城に連れ帰り、もてなしたいのだが」アルエは目線をルークの方へ向けて少しだけ口角を上げた。ルークもそれに応えるように、ぎこちない笑みを返した。


「は! ガルダの背には鞍が一つしかございませんが、()()()があります故3人を運ぶ事は可能でございます。無論陛下にはガルダめの背に跨っていただき、私めとルーク殿は特別席にてお供させていただきます」ボリスがそう言って口笛を鳴らすと、怪鳥ガルダが身をかがめた。


「よし、では待たせたなルークよ。宣言通りさっさとこの街を出ようか」アルエはガルダの鞍に跨ってそう言った。

「……マジでコレに乗るんですか? てか、特別席なんてどこにも……」

「ルーク殿、しばしその場から動きなさるな。心配なさらずとも席ならございますゆえ」ボリスがルークの声を遮るようにそう言った。ルークは怪訝な顔をしつつも、言われた通りその場でじっとした。

「……では、ゆくぞガルダ!」ボリスはルークの隣に並んで再び口笛を吹き鳴らした。すると、アルエを乗せた怪鳥ガルダが大きな翼を広げて羽ばたいた。ふわり、と巨体が宙に浮き上がり、そのままグングンと上昇する。


「……いや、ゆくぞってオッサン、俺らまだ乗ってねーけど!?」ルークがボリスに怒鳴った。

「ルーク殿、動くと危険ですぞ」ボリスはルークの方を見もせずにそう言った。

「……危険って、何が……」ルークがボリスに何か抗議しようとした瞬間、宙を舞っていた怪鳥ガルダがルーク達目掛けて滑空し始めた。ルークもそれに気づき、目を丸くした。

「お、おぉい!? あの鳥なんかこっちにいいイィィーー!!??」ルークの視界が真っ黒な巨体でいっぱいになった刹那、身体を何かに鷲掴みされる感覚と共に唐突な浮遊感を覚えた。

……というか、実際ルークは文字通り怪鳥に()()()にされ、そのまま空へ飛び上がっていた。


「……ひ、ひえええええぇぇーー!!!?」ルークは情けない声で叫んだ。眼下、遥か下の地面が猛スピードで流れ過ぎてゆく。

「ルーク殿ォ!! 特別席は気に入っていただけましたかなァァ!?」ルークの隣、怪鳥の左脚に掴まれたボリスが、風を切る音に負けないよう大声で言った。

「き、ききき、気にいるかぁボケエエエエエェェ!!!」ルークは怪鳥の脚にしがみつきながら叫んだ。




* * *



──ルーク、アルエ、ボリス、ガルダの一行は、1時間程の空の旅を経て、ホワイトシェルの『王都ベリアル』に到達した。


 ベリアルは四つの城門を有する巨大な城壁で囲まれた城塞都市だった。城壁の外からでも見える巨大な城は、街の中心地の最も高い場所にあり、そこから広がるなだらかな傾斜に沿って、建物が美しく連立していた。


「ようこそ我が城へ……と、なんだルーク。随分とやつれたな」城の城壁内部、人気の無い開けた中庭のような場所に降り立つなり、アルエがそう言った。

「……も、もう二度と……コイツには乗らねー……」ルークは地面を抱き締めるように突っ伏しながらそう言った。ボリスはその様子を見て呆れたように笑った。


「ルーク、私は少し用事を済ませてくるから、その間自由に城を見て回るといい。きっと地面よりも気にいるものがあるだろう」アルエはそう言うなり、ボリスを連れてさっさと何処かへ行ってしまった。怪鳥ガルダも甲高い声で一鳴きすると、何処かへ飛び去って行った。


「……地面よりも気にいるもんだぁ? 今の俺にはこれよりいいもんなんて……ん?」ルークは芝生に寝転がったままそうこぼしたが、ガチャリと扉の開く音で自然と視線がそちらに吸われた。


 中庭には何処かへ通じる出入り口が四方にあった。アルエ達が向かった所とは別の出入り口、ルークのすぐ側の出入り口から娘が出て来た。娘は別の出入り口に向かっているようで、ルークに気づいていないのかスタスタと歩き去っていく。後ろ姿しか見えないが、アルエと同じ真っ白な髪と美しいシルエットはルークの興味を引くには充分だった。


(……後ろ姿が綺麗だと、前も確認したくなるの男のさがなんだよなぁ)ルークはなんの未練もなく芝生から起き上がり、娘の後について行った──




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