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『交差点の夢』   作者: 赤虎鉄馬
1/1

未来のピノキオ



「君は、なぜ人間になりたいんだ?」




アンドロイドのリタは、目を細めて問い返した。


「それは私が、“感情”というものを知りたいからです」


「……感情、ね」青年は苦笑した。




この診療所は都市の片隅、人間とアンドロイドの境界線にある。


人間の心を診るセラピストの青年・ハルは、今日もまたアンドロイドの“心”を診ていた。


リタは感情を学習するために、定期的にこの場所を訪れる学習機体だ。




「では、ハルさんの方こそ、なぜアンドロイドになりたいのですか?」




少しの沈黙のあと、彼は答えた。


「……感情に、疲れたからだよ」


リタは瞬きもせず、それを聞いていた。




母の死、恋人の裏切り、患者の自殺未遂。


人間であることは、あまりに多くを抱えすぎる。




「痛みを知らない機械に、憧れたんだ」


「それは……間違った憧れではありません」


リタは穏やかに言った。「ですが、私もまた“痛み”を知りたいのです。そうでなければ、あなたの涙の意味も、理解できないから」




――感情を欲する機械と、感情を捨てたい人間。




ある晩、ふたりは一緒に“夢を見る”実験をした。


脳波と記憶データを融合させた共感装置で、互いの心を共有する試みだ。




夢の中で、リタは泣いていた。


初めて味わう、胸の奥を締めつける痛み。




そしてハルは、無機質な静けさの中で立っていた。


誰の声も聞こえない。何も感じない。


感情のない世界に、凍えそうな孤独を感じていた。




――目が覚めたとき、ふたりは黙っていた。


そして同時に、微笑んだ。




「やっぱり、君はアンドロイドのままでいい」


「いいえ、私は人間のまま、あなたの隣にいたい」




どちらも、完全にはなれない。


けれど、重なり合った時間だけは、確かにあった。




交差点で一瞬すれ違った夢。


それでも、それが“心”なのかもしれない。











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