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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter4 <See you goodbye,>
36/45

4-1

「キラナ、君は……」


 ベレンが言いかけた時だった。

 <チラヴェーク>のコックピットにアラートが鳴り響く。


「なんだ!?」


 ベレンが慌ててモニターを確認すると、<チラヴェーク>に向けて何発ものミサイルが打ち出されていた。


「迎撃する!」


 ベレンが即座に操作し<チラヴェーク>はレーザー砲を構える。

 ミサイルは四発。そのうち二発はレーザーで爆発するが――


(間に合わないか!?)


 ベレンがキラナに警告をしようとした時だった。

 <チラヴェーク>の機体が急速に回転し、ミサイルをかわす。目標を一瞬見失い、反転して速度を落としたミサイルに向けて、頭部から機関砲が発射され、残りのミサイルも爆発。


「驚いた。そんな武装もあったのか……」

「すみません、これは温存しておきたかったんです。レーザーと違って、弾数に制限がありますし、排熱が不完全で連射するとオーバーヒートや動作不良が発生しますから」

「そんな不具合があったんだな」

「あの短期間で設計して、製造後はほとんど動作試験もせずに乗ってきてしまいましたから。さすがに幾つか不良部分はありますよ。致命的なものは避けているはずですが」

「それはそうだ。むしろ、あの短期間でよくここまでのものを作り上げたというべきか……」


 ベレンは頷く。 


「さて、ベレンさん。これが最後のミッションです」


 キラナは<チラヴェーク>の機体の態勢を立て直す。 


「我々はすべてが始まった場所――月面湖に辿り着かなければなりません。しかし、一筋縄ではいかないようです」


 言いながら、キラナはコックピットのサブディスプレイに視線を向けた。ベレンもその視線を追う。

 <チラヴェーク>が月面に向けたセンサーからは、月面に多数の人工構造物――おそらくはミサイル発射台やレーダー、レーザー砲などの迎撃システム――の存在を示していた。


(なんだこれは……いつの間にこんなものが……?)


 直前の月面周回中まで、こんなものは見つからなかったはずだ。


「キラナ、これは一体――」

「この世界は存続を望んでいるということです」


 言いかけたベレンに、キラナは言葉を被せる。


「存続を望んでいる?」


 ベレンは意味がわからずに繰り返す。


「――誰が?」


 ベレンの言葉に、キラナは答える。


「この世界が」


 キラナは簡潔に答え、それから言い直す。


「この世界が、それを望んでいます」


 キラナは改めて、モニタ越しに映された月面の様子に視線をやる。ベレンもつられて、それを見た。


「この世界が存在するのは、この世界の意思です。私はその意思に逆らおうとしている。だから、抵抗を受ける」


 静かだったはずの月面は、今やびっしりと正体不明の兵器群で埋め尽くされている。

 世界が狂ってしまったかのように、今や月面の世界が――まったく別のものに見えた。


「それならなぜ、君はこの世界を終わらせようとしているんだ」

「それが、この世界の、そして私の、存在意義だからです」


 キラナは言った。


「終わることで、役割を全うする。存在とはそういうもの。そして既に、その条件は満たされた――いえ、今から満たされるのです。全ては必然なのです」

「巻き込んだベレンさんには申し訳ないですが、あなたにはその資質があった。あなたしかいなかった。ですから――」


 キラナはそこで言葉を切り、まるで告白(プロポーズ)するような声色でベレンに言った。


「――私を、あの月面湖まで連れて行ってください」


「二人で、行くんだろう?」

「……はい、月面湖までは」

「そうか。()()()()


 ベレンはいつもの調子で頷いた。

 何の気負った風もなく、あっさりと。


「あっさりと、受け入れてくれるんですね」

「私も、自分の役割くらいは自分でわかる。あるいはそういう風に作られている可能性もあるが――まあそんなことは自分ではわからないからな。考えても仕方のないことだ」

「ありがとうございます。そう言ってくれると、思っていました」

「そうか。なら私は君に、見透かされていたわけだ」


 ベレンは笑い、それから表情を改めて、


「だが、実際どうやってあの月面湖まで辿り着く? 私にはその算段がない。<チラヴェーク>の武装と機動力であの兵器群を掻い潜るだけの算段は、私には無いが……」

「私にも算段があるわけではありません。しかし、まだできることはあります」


 キラナはそう言って、二人の操縦席の間――中央にある計器版のパネルを開き、中に隠されていた赤いレバーを引き下ろした。


『――操作管制方式変更オペレーティング・モードチェンジ――スカイクラッド・デコーダー』


 機械音声と共に、ベレンの操縦席の頭上から、円環状に多数のモニタが配置されたモニタアームが降りてくる。

 それはベレンの眼前で止まり、ちょうどベレンの頭を囲むように固定された。


「何だ、これは……?」

「操作方式の変更です。これを使えば、意思の力でこの機体を制御できるようになります」


 さらに、シートに付属されていたレバー類が全て収納され、代わりに半球状の操縦デバイスが左右に一つずつ、せり上がってくる。 


「これは……どうやって使えばいいんだ……?」

「これは機体の情報、各種センサの情報全てが前の画面に表されます。見てください」


 ベレンは言われるがまま目の前に展開された、円環状に並ぶ多数の画面を見る。

 その画面はどれもが、それぞれ個別に不可解な幾何学模様のパターンが画面の中で動き、変化し、さらにその背後に無数の文字列が下から上に流れている。


「これは……なんだ?」

「これが、ベレンさんに必要な情報です。最初は意味がわからないと思いますが、いずれ見えてきます。この図形と文字が、世界の全てを表現しているんです。それが分かれば、この文字列(コード)図形(アーキテクチャ)から頭の中で多次元的なイメージに変換できるはずです」 

「よくわからないが……わかったとしておこう。……だが、操縦はどうすれば?」

「その半球状のデバイス――コントロール・スフィアを使います。とはいえ、並行して脳波計測もしていますから、これは補助です」

「脳波計測? つまり……考えただけで動く、と?」 

「有体に言えば、そうです」


 キラナの言葉に、ベレンは半信半疑に訊く。 


「いきなり使えるのか、そんなもの……?」

「最初は私がサポートします。ですが、最終的には使いこなしてもらう必要があります。私の操縦では――私では、絶対月面湖には辿り着けないんです。あなたでなければ」

「わかった。やってみよう」


 ベレンは頷き、コントロール・スフィアを握り込んだ。

 不思議なことにベレンは、何も知らないはずのこの装置の使い方を、何となくわかる気がした。

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