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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter3 <Fly to the Moon>
34/45

3-12

 最初の一撃は、非常に呆気なく一機目の汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)を撃破した。

 もちろん攻撃を受けた汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)はその瞬間に機体を回転させ、射線に対して垂直に移動することで、全力でレーザーの射線から逃れようとした。

 しかし<チラヴェーク>のレーザーはまるでその動きが完全に分かっていたかのように期待の動きに追従し、最終的にレーザーは機ンジンと重要な部品を破壊した。

 それはキラナが驚愕するほどの手際の良さだった。


「さすがの手際ですね」

「相手を知っていただけのことさ」


 ベレンにとって、その動きは予測がついていたものだった。

 汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)は自分自身にも操縦経験があるし、戦闘のセオリーも知っている。


「だが、ここからはそうもいかない」 


 だが、残された二機は状況に狼狽えることなく、メインエンジンに点火し、加速する。


「来るぞ……!」


 ベレンの警告と同意に、残り二機が散開しながらこちらへと近づいてくる。


「機体本体の制御は私が持ちます。ベレンさんは引き続き照準を」


 キラナは言うな否や、一気に<チラヴェーク>を加速させた。

 ここからはお互いが複雑に動くため、より照準が難しくなる。最初のようにはいかないだろう。


「他に武器はないのか?!」

「もう一丁火器があります。ただ、こちらは試作の粒子収束砲なので消費電力が高すぎて――」

「それでもいい」

「わかりました。キャパシタ残量には気を付けてください」


 ウィングバインダーのもう一本、レーザーガンの逆側が切り離され、<チラヴェーク>は逆の手に装備する。


 コックピットに警報音が鳴る。

 接近する汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)二機がこちらに向けてミサイルを撃ち出したのだ。


「ミサイル回避はぎりぎりまで待て。私が合図する」

「わかりました」


 ミサイルが接近する間にも、<チラヴェーク>と敵の汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)はお互いの距離が近づいてく。


「到達まで6……5……4……3……今だ躱せ!」

「はい!」


 瞬間、<チラヴェーク>は推進器から炎を吹き出し急激に進行方向を変える。

 重力制御装置だけでは出せない推進器による急激な加速。ミサイルは虚しく<チラヴェーク>を通り過ぎ――反転して方向を変える――その瞬間<チラヴェーク>のレーザーが2発ミサイルを貫き、爆発する。


「よし、次はアルファ1だ。反転して上へ」

「はい」


 『上』というのは上下のない宇宙空間において便宜的に使われる表現だ。

 地球の周囲を回る軌道上においては、地球側を『下』といい、その逆を「上」という。


 上方に加速する<チラヴェーク>に追随して二機の汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)が距離を詰めてくる。

 敵の照準を回避しようとして複雑な機動を行う<チラヴェーク>とそれに追随する敵機。

 単純な機動性、運動性については二機の汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)も<チラヴェーク>に劣っていない。


「最大推力で引き離しますか?」

「このままでいい。それより攻撃だ」

「――はい」


 ベレンの意思をくみ取って、キラナは機体を反転させる。

 ベレンはレーザーでなく粒子収束砲を敵に向け、発砲。眩い光線のようなものが敵に飛んでいくが、外れる。

 さらに二発発砲し、ようやく一機の汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)を掠めるように着弾。被弾した敵の機体は推進系に致命的な損傷を負ったようで<チラヴェーク>の動きについてこれなくなる。


 その間にも、残った一機と<チラヴェーク>は複雑な機動を行い、ドッグファイトにようにお互いの背後を取ろうとする。

 そうしている間に、さらにベレンはもう一発粒子収束砲を撃つが、外れる。


(やはりこう複雑に動いていると確実な照準などできない)


 その時、アラームが鳴り、照準スコープの中にメッセージが表示される。

 ――Low Capacitor


「エネルギー切れです。もうキャパシタの容量はありません」


 キラナが告げる。

 レーザーならまだ撃てるだろうが、こんなシビアな戦闘で照射時間を確保することは無理だ。

 ベレンはそう判断し、


「キラナ――最大推力で接近し、敵に取り付いてくれ」

「そんなこと――」


 キラナは一瞬迷うが、


「わかりました。やってみましょう」


 そう言うや否や<チラヴェーク>は機体を反転させ急速に接近する。

 汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)は機体搭載のレールガンで反撃するが、<チラヴェーク>は回避し、一気に距離を詰める。


「――行きます」


 <チラヴェーク>は汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)に取り付くと、両手に持った武器をウィングバインダーに戻し、汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)の八本あるアームのうち二本を両手で強引に掴み、その動きを封じる。


「よし、後は機体制御を私に」

「はい」


 制御を切り替え、ベレンは<チラヴェーク>を操作する。

 <チラヴェーク>がアームに力を加えていくと、突如汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)の正面が開き、脱出ポットが中から飛び出した。

 ベレンはそれを捕まえることもできたが、あえて見送る。


「捕まえないんですか?」

「それに意味はないし、放置したほうがいい。敵に救助の義務が発生するからな」


 対人地雷と一緒だ。

 対人地雷は確実に死ぬよりも大怪我で済むような威力に設定されている。それは人道的な配慮ではなく、救助を強要する方が相手にコストを強いることができるからである。

 宇宙空間に究明ポッドを放置するのもそれと同じだ。

 まともな組織なら、宇宙空間に放り出された人間に対しては必ず救命の義務がある。その信用がなければ組織は成り立たないからだ。


「それより、今の戦闘で当初の軌道からズレたはずだ。補正計算と修正を頼む」

「はい、計算します」


 キラナは軌道計算モニタを開き、計算を開始する。

 こうしたことはほとんどプログラム任せだが、それでも人間の目でチェックするのは昔から変わっていない。


「計算終了しました。軌道復帰プログラムを作成、オートクルーズで推進します」


 <チラヴェーク>に若干加速度かかかる。重力制御装置がはたらいたのだ。


「推進剤を節約するため、時間をかけての加速です。それでも充分、月遷移軌道には乗れるでしょう」

「了解した。後は待つだけか」

「はい、そうです。追手が来なければ、ですが」

「おそらく、追手はこれで最後だろう。<チラヴェーク>の性能は相手にとって想定外だったはずだ」

「どうしてそう思うのですか?」

「もし想定出来ていたら、あそこまで簡単にやられたりはしない。それに、汎用多脚宇宙戦闘機(オクトパス)も結構高価な戦闘機械だ。おいそれと三機も失って、またすぐに補充できるものでもないだろう」


「そうですね。ベレンさんの手際は……さすがでした」

「私はあれの戦法も弱点も知っているからな。だが向こうはこちらを知らなかった。その差だ。もちろん<チラヴェーク>の性能あってのことだよ」


 ベレンはゆるやかな加速がかかり続ける<チラヴェーク>の中でシートに身体を預けた。


「後は、待つだけか……」

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