3-11
「もうすぐ地球への最近接地点です」
<チラヴェーク>のコックピットの中で、軌道計算ディスプレイを見ながらキラナが告げた。
ベレンたちがシャリダンⅣから離脱して六日後。
ベレン達の乗る<チラヴェーク>は軌道を遷移させるため、ゆっくり加速しながら地球から月に向けての楕円軌道を回った。
一旦軌道の頂点――地球から最も離れた場所まで行った後、再び地球まで戻ってくる。そこで地球の重力と公転を利用してスイングバイしながらさらに加速しようというわけだ。
「予定通りなら、ここから加速を開始するところですが……」
その時、<チラヴェーク>のセンサーが反応した。
キラナは軌道計算ディスプレイから光学センサディスプレイの方に視線を移す。
「宇宙船と思われる熱源体が三つ……こちらに接近していますね。しかし小型のようです。それに……妙に速い……?」
「いや……キラナ、これはただの宇宙船じゃない」
キラナの言葉い、ベレンは答える。
「これは汎用多脚宇宙戦闘機だ。手ごわいぞ」
ベレンは<チラヴェーク>の光学センサが捉えた画像を拡大する。
まだ距離が遠いため不鮮明ではあるが、かろうじて球形の胴体と、その前後に四本ずつついている「脚」が見える。
「汎用多脚宇宙戦闘機……それは、何ですか?」
「小型宇宙戦闘機の一種だ。だが、宇宙戦闘機でありながら『脚』を持つことで、AMBAC能力を持ち、なおかつアポジモーターの動作効率も上げている。機動性はもちろん、運動性でもこの<チラヴェーク>で対抗できるかは怪しい」
「あれは、やはり私たちを狙っているのでしょうか?」
「十中八九そうだろう。宇宙犯罪捜査局のものと見て間違いない。汎用多脚宇宙戦闘機を採用している国や組織は少ないからな」
「では、どう対処すべきでしょうか」
キラナの問いに、べr年は少し考えてから、
「……理想を言えば先制攻撃で撃破することだ。乱戦になると、加速タイミングを逃してしまう。下手に動き回っているうちに軌道自体が乱れてしまうかもしれない。相手の狙いも、そこにある。だが……」
ベレンはそう言ってみたものの、すぐに前提の話を思い出した。
「そもそも、この<チラヴェーク>に武装は積まれているのか?」
「――はい」
ベレンの問いに対し、キラナは頷く。
「遠距離から先制撃破ですね。やってみましょう」
キラナは頷くと<チラヴェーク>を操作した。
<チラヴェーク>の背中にある翼状に広がっている細長いユニット――キラナはウィングバインダーと呼んでいる――そのうちの一本が背中から分離される。
脇の下を通ってゆっくりと前に移動したそれは、ひとりでにライフルのような銃の形へと変形した。<チラヴェーク>はそれを掴み、遠くの敵に向けて構える。
「まさかそんなギミックが存在していたとはな」
「武装を隠すための措置です。あからさまに武装させて目を付けられるのが嫌だったので」
「その判断は確かに正しい。だが驚いたよ……そこまで考えていたとは」
キラナは<チラヴェーク>を操作し、遠くにいる汎用多脚宇宙戦闘機に向けて照準をつけた。
自動照準装置が示すレティクルをキラナはしばらく見つめていたが、やがて溜息を吐いた。
「ベレンさん、お願いがあるのですが」
キラナの言葉にベレンは意外そうな表情を浮かべる。
「射撃の照準、ベレンさんにお願いしてもいいですか? もちろん、自動照準装置はあるのですが、最後は人間の手で補正した方が良いようです。自動照準ではどうにも外しそうな気がして」
ベレンは一瞬躊躇するような気配を見せたが、すぐに答えた。
「そうだな……わかった。こっちで受け持とう。やり方を教えてもらえるか?」
ベレンは一瞬自分でいいのだろうか思ったが頷いた。
確かに、荒事の経験はベレンの方がある。
<チラヴェーク>のような人形航宙機の操縦経験は無かったが、汎用多脚宇宙戦闘機での戦闘経験ならあった。
「手動照準モードに切り替えます」
キラナが言うと、頭上から四角いスコープが降りてる。
「それを覗き込んで、照準の修正をしてください。照準の主導補正は手元のスティックでできます」
「なるほど……理解した」
ベレンは頷き、
「それで、この火器の種類はなんだ? レールガンか? それとも……」
「レーザーです」
キラナは言った。
「射程はそこそこありますが、0.5秒程度は照射時間を稼がないと威力が出ません。そこは注意してください」
「狙撃で0.5秒、か……。やるしかないな」
ベレンはスコープを覗き込み、三機変態でこちらに向かってきている――あるいは向こうが待ち伏せておりこちらから接近しているとも言えるが――汎用多脚宇宙戦闘機の一機に照準をつける。
スコープの中には照準に必要な各種パラメータが表示され、対象の予測位置などが表示されている。
(レーザーなら最初当てるのは簡単だ。だが相手はすぐに回避行動を取る。それに対してどう追従できるかだが……)
ベレンは頭の中である程度の予測を立てたから、引き金を引いた。
<チラヴェーク>のレーザーが宇宙の漆黒を静かに貫いた。




