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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter3 <Fly to the Moon>
32/45

3-10

 宇宙空間は孤独だ。

 上も下も無い真っ暗な空間の中、寄る辺ない広大な空間の中に自分たちだけが放り出されている――そんな感覚になる。

 自分は何処にいるのか、何処に行けば良いのか――直感的に判断できる材料はあまりにも少ない。遠くに見える地球と月、そして太陽。それだけだ。


「諸元入力完了しました」


 <チラヴェーク>のコックピットの中、キラナは静かに言うと手元の機器を操作していた手を離し、ゆっくりと伸びをした。


「軌道計算も完了。段階的に加速しながら楕円軌道で二回周回した後、月周回軌道へ。何もなければオートパイロットで到達できます」

「そうか……予想所要時間は?」

「20日で月周回軌道に入れるかと」

「そうか……わかった」


 一瞬長いなと思ったが、無理もないことだ。

 元々シャリダンⅣに乗って加速した分は、あくまでシャクティ宇宙基地――すなわち地球静止軌道までの加速だ。

 そこから月周回軌道まで遷移するには<チラヴェーク>自身の推力で加速する必要がある。

 <チラヴェーク>自身の加速力や燃料消費量のコストパフォーマンスを計算してのことだろう。


「もちろん最大推力で加速すれば、一回で月周回軌道に遷移できるのですが」


 ベレンの考えを読んだかのように、キラナは言う。


「ただ、今は推進剤の消費を最小限に抑えておきたいんです。そうすると二段回の軌道遷移の方が、色々効率が良いので」

「ああそうだな……それは理解できる。キラナに任せるよ」


 それにしても――いくらシステムの補助があるとはいえ――よく一人でここまで考えるものだ、とベレンは感心する。

 宇宙空間での軌道計算と航行計画策定は、本来専門の人間が集まって入念に準備するものだ。

 宇宙船のパイロットだって、基本的には予め決められた航行ルートに沿って船を動かしているに過ぎないのだ。


 それをキラナは、全て一人で軌道計算から計画策定までやってしまった。

 いつから準備していたのかはわからないが……子供どころか常人にできることではない。

 ある程度専門知識のあるベレンでさえ、同じことをしても自信は持てないだろう。(できない、というわけではなかったが)


「しかし、あと20日か……」

「すみません、こんな狭い場所で」

「いや、それは大丈夫だ。私も慣れてはいるからな。しかし……水と食料は大丈夫か?」

「もちろん、それは大丈夫です。味気ないものになってはしまいますが、二人で二ヶ月分のストックはありますから」

「それはありがたいな」


 よく見ると、シートの後ろ側にコンテナにようなものがいくつも並べられていた。

 その一つ一つに必要な物資が入っているらしい。


「スペースに余裕はないので、しばらくはアポロ計画時代のレベルに後戻りしたような生活環境になってしまいますが」

「いや、あの時代よりはよっぽど贅沢さ。コックピットスペースにも、余裕はあるしな」


 ベレンは言って伸びをした。


「さて、道中何事もなければ良いが……」


 そこでベレンは、自分たちがシャリダンⅣから出てきた経緯を思い出した。


「いや――あるな」


 断言したベレンの言葉に、キラナも頷く。


「でしょうね。しかし、今のところ、追っ手の気配はありません」

「それはそうだろう。今から追いかけるのは非効率だ」


 ベレンは言う。


「彼らが仕掛けてくるタイミングはわかっている。おそらくは楕円繊維軌道……その二週目に入る際の、地球への再近接地点だ。つまり……」

「――モータースイングバイをかける直前ですね」


 キラナは頷いた。


「そこまでわかっているなら、対処はできるでしょう」

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