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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter3 <Fly to the Moon>
28/45

3-6

 シャリダンⅣのキャビンは機体前方にあった。さらにその前にはコックピットがある。

 そのコックピットの中、パイロットのマークは伸びをした。


 パイロットといっても、彼がやることは実は少ない。

 発射から軌道投入、目的地到達まで、ほとんどは自動プログラムと遠隔操作でことがすむ。

 彼が居るのは法的な規制の問題や顧客に対するイメージ、そしていざという時の問題解決のためにいるのだ。


管制塔(コントロールタワー)よりオペレーターへ。発射前確認異常なしか』

「オペレーターより管制塔(コントロールタワー)へ。異常なし。チェックリスト・オールグリーン」

『了解した。マスドライバー、発射前最終シークエンス開始』


 いつもの儀式だ。発射前の手順はほとんど全てが自動化されているし、何か異常が生じれば自動的にアラートが異常を知らせるようになっている。

 それでもなお人間が介在するのは、もはや建前の部分が大きい。


 キャビンにアナウンスが流れ、乗客全員が正しくシートに着いていることを監視カメラで確認しながら(もっともこれも監視カメラを見るまでもなく各種センサーでチェックされていることだが)シークエンスの進捗を待つ。


『――カウントダウン開始。乗員は強い加速に備えてください』


 自動アナウンスが流れ、マークは改めて自分のシートベルトを確認する。

 もちろん異常はない。キャビンの映像にも異常はない。


『――12、11、10――発射直後が一番リスクが高い。

『――3、2、1……発射(launch)


 ――瞬間、猛烈な荷重が身体にかかる。

 人間と大型機材を乗せたシャリダンⅣはマスドライバーのレールを急激に加速し、加速方向が真横から斜め上に変化し――マークは椅子に押し付けられるような強い荷重を感じ――射出。


 あっという間にマスドライバーのレールから解き放たれたシャリダンⅣは慣性のまま空へ上昇し――それを追いかけるように、<モノケロス>射場から固体燃料ロケット(サブモーター)が二本、発射される。


『――ドッキングシークェンス開始』


 自動音声が流れ、シャリダンⅣの本体と固体燃料ロケットは徐々にその距離を近づけていく。


『レーザー回線終端誘導システム、アクティベート。サブモーター、ドッキングまであと7秒』


 自動音声が読み上げる。縮まる相対距離。

 シャリダンⅣ本体の姿勢制御用動翼が動き、小型ロケットモーターが小刻みに噴射する。


『――3、2、1……接続(Contact)


 ゆっくりと近付いた2本の固体燃料ロケットは、シャリダンⅣを挟むように接近し、左右の側面に接続された。


『――サブモーター制御回線接続完了』

『――機構部分全接続確認』


 接続に伴い、インフォーメーション・ディスプレイに次々とウィンドウが浮き上がっては消え、固体燃料ロケット(サブモーター)の各種情報が表示される。全て規定値以内だ。


『――固体燃料ロケット(サブモーター)一段――切り離し』


 二段目が本体と接続されたまま、一段目の固体燃料ロケットだけが切り離される。

 マークはこの瞬間が最も緊張する。実は、ここが一番危険なプロセスだからだ。


 切り離された二つの一番目固体燃料ロケットは回転しながら落ちていく。

 お互いがぶつかるのを防ぐため、切り離しのタイミングは左右で0.3秒ずらされている。

 そこで生じた姿勢の傾きを、機体を回転させることで帳尻を合わせる。 


『――サブモーター二段――点火』


 再び強い加速度。

 ロケットの点火に伴い、上昇速度が上がる。さらに、


『――推進剤供給流路接続確認』

『――推進剤供給開始』

『――本体熱核ロケットエンジン――点火』


 さらに、機体の加速度が強くなる。

 シャリダンⅣは本体の熱核ロケットエンジンと固体燃料ロケットモーターの二種類の推力でどんどん高度を上げていく。


「シーケンスに異常なし。いつも通りだな」


 シャリダンⅣは現行で運用されているスペース・シャトル・ペイローダーの中でも特に複雑な構成を持っている。

 それゆえに打ち上げシーケンスもまた複雑だ。

 自動化されているとはいえ、常に異常が起こらないように気をつけておく必要はある。


 シャリダンⅣはマスドライバーで本体を射出し、その後に固体燃料ロケット(サブモーター)を後から発射してドッキングさせるという方式だ。

 しかも、この固体燃料ロケットは二段式になっている上、本体の熱核ロケットエンジンの推進剤タンクも兼ね備えているという複雑さだ。


 どうしてここまで複雑な構成になってしまったのか。

 それは、マスドライバーである<モノケロス>の最大ペイロードが当初の計画値よりもかなり低くなってしまったからだ。

 それはマスドライバーの構造強度の問題であり、レールの加速力の問題でもあった。設計の見通しが甘かったと言ってもいい。


 それを補うための、後付けの固体燃料ロケットだった。

 マスドライバーの限られた射出能力でペイロードを増やすため、固体燃料ロケットを後で射出し、空中でドッキングするという方式を取った。

 これによって、マスドライバーを活用しつつ、積載容量(ペイロード)を増やすことができたのだ。


「さて、サブモーターの切り離しまであと5分か」


 マークは高度計と速度計、打ち上げシークエンスを確認する。

 それまでは、自分の身体を押しつぶすようなこの加速度に耐えなければならない。

 技術が進歩しても、重力を制御でもしない限り、乗員乗客にかかる加速度――加重(G)だけはどうしようもない。


(そういえば乗客に一人、幼い子供が居たな。同行人は「大丈夫」だと言っていたが……)


 マークはふと思い出し、キャビンの監視カメラに目を向けた。

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