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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter3 <Fly to the Moon>
26/45

3-4

「我々の便が決まった」


 インド洋の暖かい潮風が、ベレンとキラナの二人を間を吹き抜けていく。


「シャクティ宇宙基地行き。<シャリダンⅣ>シャトル・ペイローダーの2番ペイロードだ」 

 <チラヴェーク>を駐機に預けた二人は、巨大な人工島の端で海を見ていた。

 既に打ち上げの手続きは終わっている。次のロケットの打ち上げ予定は三日後の午前10時~12時。

 それまで二人は、ただ待つしかない。


「<シャリダンⅣ>ですか……新型のシャトルですね。実験的な機構を取り入れた大型シャトルだと聞きましたが」

「ああ、そうだ。ポストドッキング・サブモーターの実用導入を初めて行ったシャトルだな」

「どんなものなのですか?」

「それは見た方が早い。あとで説明するよ」


 ベレンは肩を竦め、手元にある携帯端末を懐にしまって、水平線の向こうを眺めた。 


「しかし……ようやくここまで来たな」

「はい」 

「すごいものだ。メガフロートの構想は昔からあったとはいえ、この規模で作って、上にマスドライバーまで載せてしまうとは」


「本当にそうですね。メガフロートは大きいほど安定はしますが、同時に構造物への負荷が大きくなります。こんな外洋で、しかもこんな、サイクロンが通る可能性のある場所に作って、風や波の負荷に耐え続けることができる」

「……エンジニアは相当の苦労を強いられただろうな。しかし興味深いのはメガフロートの構造だ。一枚の大きな板ではなく、六角形の構造物を何枚も連結して大きなメガフロートを作っている。連結部に柔軟性を持たせることで波の力を受け流す構造のようだが……」

「問題はその上にマスドライバーという長大な構造物が載っていることですね」


 キラナが言葉を続けた。


「普通ならそのような巨大でデリケートな構造物の下が()()()()なんてあってはならないはずですが……」

「<モノケロス>ではマスドライバー本体の橋脚にまで柔軟性を持たせることでそれを解決している。全てが柔軟性を前提に設計されているんだ。そしてそれぞれの許容値が厳密に計算され、滑走面の影響を最小限に抑えているようだ」

「とんでもない発想だな。欧州では構想はあっても認可が下りないだろう。新興国ならではの大胆さというべきか……」


 ベレンは足元、メガフロートの人工の岸壁を見た。波が岸壁に打ち付けては白い波を立てている。


「この波も、発電に使われているんだったな」

「はい。いわゆる通常の波力発電ではなくて、メガフロート底部に張り巡らされた水菅……そこに波の力で海水が流動することで内部のタービンを回して発電するようです」

「管内部にはテスラバルブがあるから、常に一方通行で海水が流れ続ける、か。よく考えられたものだ」


「中心部には核融合炉もあるようですが、波力発電が何割か担っていることで余力があるようですね。常に余剰電力を生み出して蓄積することで、マスドライバーの射出時に使用するらしいです」

「あれだけの大電力を蓄電するのか……」

「もちろん補助的だとは思いますが。蓄電は化学電池ではなく、超電導フライホイールを使用しているようですね。余剰電力をフライホイールの運動エネルギーに変換して蓄積しているようです」

「なるほど……あまりにも大きな電力ならそちらの方が効率が良いか……それに、質量体を回転させることで、ジャイロ効果によってこのメガフロート自体の安定性も増す」


 それからしばらく、ベレンとキラナは二人で海を見る。

 広大なインド洋は、ただ水平線がどこまでも続いている。

 その波が、足元の下にある岸壁に打ち付けられ、ただひたすらに白い波を立て続ける。


 地上――ここは正確には海面上だが――にいる限り、地球という惑星は広大無辺で果てがないように見える。

 ところが、一度宇宙に出れば小さな球体に見えるのだ。まったく当たり前のことをだが――不思議なことだ。


 まだ考えるべきことは沢山ある。この先の展望は、ベレンにはまるで見えていない。

 だが、今この瞬間の時間はとても穏やかなものだった。


「……そろそろ行きましょうか」

「ああ、そうだな。ずっと風を浴びていては、さすがに身体がべとべとになりそうだ」


 久しぶりにシャワーが浴びたい、とベレンは思った。

 シャワーは宇宙に出てからは厳しいだろう。今のうちに不自由なく使える水を堪能するのも悪くない。

 先に岸壁を離れたキラナを追って、ベレンは踵を返した。

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