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「こうやってレバーを同時に倒すと、歩行します。歩行のスピードは概ね倒す角度に連動します」
「なるほど……想像以上にシンプルだ」
<チラヴェーク>は誰もいない平原をゆっくりと歩いていた。
その操縦を行っているのはもちろんキラナ――ではなくベレンだ。
<チラヴェーク>の操縦系統には二種類ある。単一操縦モードと複列操縦モードだ。
単一操縦モードが、二つある操縦席のどちらか一方のみの操作を受け付けるのに対し、複列操縦モードは両方の操作を同時に受け付ける。
操縦が混乱する可能性があるが、うまく連携できれば便利だ。
今は念の為複列操縦モードにした上で、ベレンが動かしている。
<チラヴェーク>はゆっくりと大地を踏みしめながら、まっすぐ歩いていく。
「止まるときはレバーを戻せばいいのか?」
「はい」
ベレンがレバーを中立の位置に戻すと<チラヴェーク>はゆっくりと停止する。
「それから、レバーをこのように前後逆方向に倒すと……」
「身体を捻る、か。では、片方だけ倒すと?」
「やってみてください」
言われた通り、ベレンが右側のレバーだけ前に倒すと、右脚だけ一歩踏み出し、身体の向きが変わる。
さらにレバーを倒すと、左足を軸に機体が回転を続ける。
「ふむ……レバーの動きに連動して移動方向を決める、か? しかしこれは……」
「厳密にはこれは、移動方向をしていしているわけではないんです」
キラナは言った。
「レバーによって動かしているのは、機体の重心です。レバーを前に倒せば機体の重心が前に倒れる――そしてオートバランサーがはたらき、自動的に足を前に踏み出す、というプロセスです」
「重心が崩れることでそれを補正するよう、自動的に歩行を行う、ということか」
「はい。逐一四肢の動きを入力するよりも効率的だと思いまして。実際この操作方法は実績もありますから」
「なるほどな……言われてみると、確かに簡単に操縦できる」
ベレンは頷いた。
「では次に重力制御装置の操作について教えてもらおうか」
「はい。こちらは左側の出力調整スライダーとベクター・ホイールを使います。出力調整スライダーは名前の通り発生させる重力――正確には機体にかける斥力――の強さを調整します。一方でベクター・ホイールは斥力の作用方向を操作するための――」
キラナの説明はしばらく続く。
「……なるほどな。重力下の操作は一通り理解できた。ありがとう」
しばらくしてキラナから一通りレクチャーを受けたベレンはそう言った。
「いえ、こちらこそ。私の負担を減らそうとしてくれてるんですよね」
「ああ。自動操縦装置があるみたいだが、二人とも操縦できるにこしたことはない。何があるかわからないしな」
「はい。正直に言うと助かります」
キラナは息を吐いて、コックピットシートに背中を預けた。
「では操縦を預けても?」
「ああ、任せてもらおう」
ベレンは操縦系統を単一操縦モードに切り替え、重力制御装置のスライダーをゆっくりと動かした。
<チラヴェーク>はふわりと浮き上がり、そのままゆっくりと高度を上げていく。
「さて、現在の位置は……」
ベレンはナビゲーションシステムを確認する。
「このままイランを横断してインドを目指す、でいいな?」
「はい、インドに到達したら、西の海岸沿いに南端まで行きましょう。補給の問題もあるので、あまり遠い洋上飛行はなるべく避ける形で」
キラナは頷いた。
「インド南端からは、洋上を飛んでまっすぐに目指します。――<モノケロス>を」




