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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter2 <Running out from home>
17/45

2-5

 久々のベッドでぐっすり眠るキラナの横顔をちらりと見て、ベレンは手元のPCに目線を落とした。

 薄暗い照明の中で、PCの画面が少し眩しい。

 だが、今夜はキラナと一緒に呑気に眠るわけにはいかない。


 ベレンが調べた限り、各地の警察にも捜査局もベレンを追うような動きは見られなかった。

 しかし、ベレンのハッキング技術をもってしても現状でベレンが調べられる情報には限りがある。

 ベレンは自分の情報収集が絶対だとは思っていなかった。


 一方で、キラナの「泳がされている」という発言もまた、根拠のあるものではなかった。

 今のところ、キラナの発言の真偽を確かめる術はない。

 今まではキラナの言葉に従って何も起きなかったが、それはキラナの言葉が正しかったからか、それとも元々何の懸念も無かったのか、その判別はつかないからだ。


 なのでベレンは、情報収集を行いつつ、キラナだけは寝かせて自分は万一に備えて起きていることにした。


「ふぅ……」


 ベレンは成果の出ない情報収集を止め、一旦PCの画面を閉じる。

 そして上を向いて目を閉じ、改めて思考を巡らせた。


(仮に私が追う立場なら……どうする? ターゲットの宿泊先が特定できたとして――いつ仕掛ける?)

(できれば相手が寝ている時間を狙いたい。なら仕掛けるのは深夜……いや早朝だ。朝に近すぎると今度は起きているかもしれないから、午前三時から四時くらいの時間帯)

(だがそれは一般的なセオリーだ。全ての状況に当てはまるわけではない。私なら相手の特性を加味して考える。もちろん……向こうもそうだ。相手は私を知っている)

(私がセオリーを知っていると知っているならば、あえてセオリーを外すかもしれない。であれば、深夜の襲撃を警戒して疲れが出た早朝? それとも逆に、襲撃を見込んで私が仮眠を取ると考え、あえて早めの時間を狙うか?)


 ベレンは時計を見る。時計の針は一時を回ったところだ。


(仕掛けるなら案外、今か……?)


 その時、微かに廊下から足音が聞こえた。

 この時間だと、深夜に部屋へ戻ってきた客かもしれない。だが……


「(……キラナ)」


 ベレンはキラナの寝ているベッドにそっと近づくと、キラナの耳元でそっと声をかけた。


「(キラナ、起きているか? 声を出さずに返事をしてくれ)」


 直後、キラナは閉じていた目をパッと開く。特に眠たげな風でもない。

 眠れなかったのか、あるいは一旦寝てから目が覚めていたのか。とにかく幸運だ。


「(……追手が来たかもしれない。移動する準備を。静かにな)」


 キラナは無言で頷くと、音を立てずにベッドを抜け出す。元々服装はいつでも外に出られるようにしている。

 キラナは自分のリュックサックをそっと掴むと、中身を確かめて音を立てずに近く椅子に座った。


 その間にベレンも耳を澄ましながら荷物を纏め、拳銃をそっとシャツの下にねじ込む。そして扉に近づき、覗き穴から外を覗く。

 足音は微かに、しかし確実に部屋に近づいてくる。しかも複数人の足音だ。

 話し声は聞こえない。深夜とはいえ、やはり――不自然だ。


 そして彼らは――ベレンの居る部屋の、扉の前で立ち止まった。


(……!)


 ベレンは、彼らの顔を見た瞬間、すぐに扉から離れた。その直後、扉が蹴破られる。

 予めしておいた施錠やチェーンは何の意味もなさなかった。

 当然だ。彼らは()()()()()()を持っている。


「ベレン・バーゼン。月面研究施設における違法研究の幇助……捜査局からの機密情報漏洩の罪により、お前を拘束する」


 ベレンに拳銃を向けているのは、ベレンも良く知っている捜査局のエース――


「ルーク……」


 ベレンもまた、ルークに拳銃を向けている。


「投稿しろ、ベレン。この状況になった時点で、お前は終わりだ」


 ルークの挙動には隙が無い。

 またルークの後ろにはもう一人、彼の部下らしき人物が同じくベレンに向けて拳銃を構えている。


(手心を加える気は、無さそうだな……)


 ――我々は明日から全力でお前を捕まえに行く。

 ルークはその言葉通りのことを実行しようとしている。

 彼はそういう男だ。仕事にあたっては、いかなる内容でも私情を挟まずに対応する。

 しかしその一方で組織とは独立した自分自身の正義感があり、二つの矛盾した信念をまるで別人かのように同居させている――


「……確かにな。このフォーメーションであれば二人だけということもないだろう。その扉の外にもバックアップはあるだろうし、既にこのホテルは包囲されているだろう」


 ベレンは頷いた。


「――しかし、我々は(But, we)まだ終われない(must go on)

「……?」


 ルークが眉を顰めた、次の瞬間、


 ――部屋全体が停電した。

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