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ブダペストに着いてからはしばらく順調だった。
ベレンは密かに情報収集しながら電車やバス、タケシーなどを乗り継ぎ、東へと移動する。
なるべく足のつかない移動にはこだわったものの、ヒッチハイクにはこだわらなかった。
最初にうまくいったのはベレンが長距離トラックのルートを知っていたことに加え、幸運が重なったからだ。
ベレンは次の幸運を待つよりも、確実に東へ移動することを選んだ。
最初に足跡を断ってしまえば、後は速さが重要になると思ったからだ。
とはいえ海路と空路は使わなかった。その二つは陸路に比べ、やはり管理が厳しい。
ベレンの持つ偽造IDではリスクが高すぎたのだ。
移動ルートは主にベレンが決め、手配していたが、たまにキラナが不思議な口出しをすることもあった。
「ポーランド回りはやめましょう」
キラナの最初の提案はプダペストからのルートを考えていたベレンに対してのものだった。
「なぜだ? 少なくとも最短ルートを通るならポーランドを経由するルートになるが」
「はい。だから……避けた方がいいと思うんです。明確な根拠があるわけではありません。ただ……合理的な選択は探す方にとってもそうです」
「それはそうだが……そもそも相手は我々の目的地を知らないはずだ」
「ええ、でも……」
キラナは何かを言いかけて、しかし言葉が出てこなかったようで首を振り、
「わかりません。明確な根拠はないです」
キラナは繰り返した。
「でも、私は避けた方が良いと思って……」
キラナはそこで言葉を切り、
「いえ……やはりルートはベレンさんにお任せします」
「そうか……」
ベレンは一瞬考え、
「そうだな、ポーランドは避けよう。ルーマニアを通ってオデッサまで移動し、そこから北上する」
その決断が正しかったのか、キアラの助言が本当に役に立ったのか、ベレンには確かめる術はなかった。
しかし結果として、オデッサまでは捜査局に見つからずに移動することができたのだ。
だが……
「ようやく一息ついたな」
ベレンはホテルの一室でキラナと話す。
「むろんまだ油断はできないが、ひとまず今日はここで宿泊だ。しっかり休息して体力を温存しよう」
「……はい」
キラナは頷いたが、どこか上の空という雰囲気だった。
「何か気になることがあるのか?」
ベレンの問いに、キラナは一瞬躊躇ってから答える。
「……私たちは泳がされている可能性もあります」