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Come back to the moon water  作者: 白古賀
Chapter1 <Days at home with ***>
12/45

1-11

「さて……」


 食事を終えキラナが自室に戻った後、ベレンは預かったPCを自室で改めて起動する。

 すぐに言われた通り発注データをアントノフ設計局に送る――ことはしない。

 やるべきことはまず、中身のデータの確認だ。


 ベレンはエンジニアではないが、工学系カレッジの出身だ。

 専攻分野でAIを用いた設計業務の最適化を研究していたこともあり、本職に劣るとはいえ基礎的な知識はある。

 このPCにセットアップしたソフトも、全て()()()()使()()()()()を選んだ。

 それはデータをチェックするためだ。


 彼女には中のデータを確認するとは言っていない。

 しかし、彼女から中のデータを見ないで欲しいとも言われていない。

 どちらにせよ――ベレンは最初からそのつもりだった。


 これまでも色々彼女の依頼を承諾はしたが、何も考えずに動いていたわけではない。

 彼女のことをある程度信頼できる人間だとは考えていたが、それはそれとして危機管理の都合上、あくまで彼女の動きはベレンのコントロール下に置かなければならない。

 その原則をベレンは守っていた。


 デスクトップにはセットアップ時に追加されたショートカットの他に一つだけ「発注内容」と書かれたフォルダが存在している。

 フォルダを開くと、さらに「設計・製造注文書」と「設計データ」のフォルダがある。


 「設計・製造注文書」は依頼内容と各種仕様を纏めたドキュメントだった。

 ざっと見ただけでも、企業の提出書類のようにしっかりと作り込まれている。

 一個人が――しかも子供がこのわずかな期間で作ったものとは到底思えない。


 「設計・製造注文書」の内容はベレンにとっても高度かつ専門的な話でわからない部分も多かったが、大筋だけ要約すると「作って欲しいものの概略設計を行ったので、その設計データを基に詳細設計を行い、製品を作って欲しいという内容だ。また添付した概略設計データはあくまで参考であり、ドキュメントに示した仕様を守ることを優先して欲しいこと、細かい設計については概略設計から変更しより最適な設計に修正しても良いという旨が書かれていた。


「なるほど……」


 ベレンは唸った。


(とすると、これはもしかすると、私が想像していたものより大がかりなものかもしらないな……)


 ベレンは思いつつ「設計データ」の方のフォルダを開く。

 その中身を見た瞬間、ベレンは驚愕し、眩暈がした。


(馬鹿な……この量の設計を一週間で……?)


 「あくまで概略設計」――とキラナは言っていたし、ドキュメントにも概略設計と明記され、詳細設計はメーカーの方で行うように書かれていた。

 しかし、ベレンが見たその設計データは、十分に「詳細」と言うに足るデータ量だった。


 設計データには「機械部品組立図メカニカル・アッセンブリ」と「制御モジュール・システム系統図」「電気動力系統図」「電磁流体制御機構系統図」「制御モジュールプログラム・サンプル」――そして「重力制御モジュール概略設計図」と細かく分けられている。

 さらにソフトウェアの操作ログを見てみると、機械部品組立図は3Dデータを使って動作シミュレーションから応力計算、流体抵抗計算、熱伝導計算まで細かく行われた形跡がある。

 それらのシミュレーションは、AIの活用で昔に比べればかなりの部分が自動化されているとはいえ、一朝一夕でできるものではない。


 そもそも――概略設計と言っている時点で部品点数がやたら多い。

 ベレンは大量のファイルから親子関係を洗い出し、最も上位に来る統合組立図を改めて確認する。

 そのファイル名――いや、この機械そのものの名前は――


 ――<челове́к(チラヴェーク)


 そして、その名前が示す通り、その組立図全体のシルエットは、まるで――……


 ――prrrrrrrrr


 ふいに、携帯から着信音が鳴り、ベレンの思考は中断された。

 着信の相手先は職場の同僚。一瞬仕事の連絡か、と思い、すぐに気づく。

 着信音を鳴らしていたのは仕事用ではなく私用端末だ。


(なぜわざわざ――私用端末に?)


 ――ぞわり、と。ベレンは本能的に、その着信に不穏なものを感じながらも、端末を手に取った。

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