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真夜の唄を知る  作者: 春信 彦
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ただ、歩み寄る。

彼女は、器用にフキの葉で尻を拭い、服の土ぼこりを払い、髪を少し整えたあと、こちらを向いた。

前述したように、決して綺麗とはお世辞にも言えないものの、不思議な魅力のある女性だった。

その日の、月明かりは、あの夜と同じで眩しいくらいだった。

彼女のそばかすも、ふくよかな曲線美もしっかり見えた。

とても美しいと単純に思ったのだ。

彼女を抱きしめた。

彼女は、何も言わず頬にキスをした。

そして、土と落ち葉の上で寝た。

もしも、縄文時代ならこんなセックスが主流なんだろうと思えるほど、焦燥的で動物的なセックスだった。

彼女との開放感にあふれるセックスは本当に素敵だった。

そして、私の胸に優しく彼女がキスしてくれた。

『こんなところでどうしたの』と彼女は、白濁した股をフキの葉で拭いながら言う。

『君にとても合いたかったんだ。本当に。』

本当は、自殺しようとしたが彼女に会うためだったのだと本気でその時は思ったのだ。

月明かりと、春はじめの涼しい風が心地よかった。

体の曲線にピタリと風が密着して母性と主の存在を感じるような気持ちになれた。

こんなことを思ったのは、久しぶりだったのだ。

私が、小学生の時に山の中に家出をした時に見た光景以来だ。

あらゆる、影と自然が人間の作る光を拒み、自然が受け入れる星の光のみが闇の中を照らすのだ。

その感動以来の、いわゆる。

生きててよかった。とそう思えたのだ。

意外と、人間が生きてて良かったとそう思えることは、至極単純なのだ。

しかし、この世の中は人のおぞましいエゴやおぞましい人間が作った飼育し搾取するためのメカニズムを古い人間がノリを敷き納めダラダラとそれを引きずっているのだ

そういう連中ほど、人生を謳歌する

まるで、人を不幸にし合い抑制し合ってるようなクソな社会だ。

生きててよかったと思えたとしても死んでしまおうという気持ちはきっと変わらないのだ。

『なんだか、死んでしまいたいって顔だね』

『まぁね、君みたいに親のお金を払ってもらってノリノリで大学に通っているわけじゃないんだよ、自分は。』

と言えば、大抵は、お前の甘えだろだとか自分を正当化しようとするだろう

と私は考えていた。

『どこにいても、地獄なのは変わらないよ、きっとあらゆる欲望を貪っても乾いたままだし、満たされなくてもしんどいだけだし、生きているだけで地獄なんだよ』

随分と、彼女は世の心理を知っているなと思った。

大抵は、大学生なんて社会を知らず、自己成長だとか、キャリアアップだとか横文字を使い始める年頃だと思っていた。

実際、それでうまくいってしまっている人間がいるのが問題なのだ。

運と能力は反比例する。

能力が高いものは、運に恵まれず、パートやアルバイトになっているものも多い。

能力が備わっていないものは、頭の悪いから、経営者やコンサルなんていう馬鹿げた人間の作ったメカニズムの中に入っていき、一生贅沢をして過ごすのだ。

人間という社会は、失敗を認めようとしない

一度転べば、もう終わりなのだ。

2度転べば、もう立ち上がれない。

そんなクソな世の中をまともな感性で生きる方がおかしい。

生きてて何かメリットがあるのだろうかとずっとそれは感じていた。

『それで、こんなところで何をしているんだ』と私は手前のランタンのてっぺんをいじりながら言った。

『私、大学辞めたの、それで、ここで食べ物がなくなるまで過ごそうかなって』

乾いた笑いをしながら辛い表情を浮かべていた。

辛さ度合いとか、何に比べたら全然なんてことはない、

大小問わず人間の辛さは等しく苦痛なのだ。

同じくらいにと私は思う。

僕ら、人それぞれどんな結末を迎えるのか、何のために、どうして、

今までの苦しみに何か意味があるのか、

私は22年間生きていてもただ、それだけがわからず、生き地獄を繰り返していた。

ただ、私達は、その夜抱き合った。

涙を浮かべながら。

不思議と二人でいる時の月明かりは、眩しくなかった。

彼女が現実に私を繋ぎ止めていてくれる、そんな気がしたのだ。

『どこにも行かないでおくれよ』

ただ、そう耳元に言っただけだった。

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