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道化師

「巡る♪その身の内に♪命の色が♪流れている♪涙を呑んで♪赦して♪乾いて♪忘れて♪」


 あの後、自殺の妖精に轢かれた生徒達の傷口に呪いの痕跡が見つかった為、ミラが保健室へ呼ばれ、回復と解呪の歌を歌った。


「青と赤の線♪交ざるその先に♪命は息づいている♪血は流れて♪乾いて♪剥がれて♪忘れて♪」


「さすが"歌姫"だ」


「ミラ様〜♡」


 傷の癒えた生徒達から尊敬の視線を浴びながら、歌い終えたミラは一息つく。


「アルタイルが無事で良かったわ、いつもすぐ一人で前に出ていっちゃうんですもの」


「でもいつもケガはしてない」


 怪我人達を見に来たアルタイルは安心した様子でそう返した。


「そうですわね、でも無理は禁物ですことよ?」


「無理もしてない」


「なら良いんですの。でも、自殺の妖精は結局他の方が倒したのでしょう?」


「ああ、そうだな……」


 その頃、教室では……。


「いやいやいやアマハラお前!アレで奴隷って嘘だべ!?」


「誤表示とかだったんじゃないの?」


「いきなり最上級クラスの炎魔法使えるようになるとかどんなチート運命よ?」


 タイヨウの席の周りにクラスメイト達がたむろしていた。


「いや、僕にも何がなんだか……」


「それについては私が説明するよ!」


 オリヒメが、たむろするクラスメイト達の背後からそう声を上げた。

 そして、クラスメイト達がオリヒメの方へ向いた時……。


「"ニルヴァーナ"」


 オリヒメはパチリと指を鳴らした。


 ボゥッ!


 たちまち教室が白い炎に包まれる。

 クラスメイト達から悲鳴が上がる。


「うおああああ!?……あれ、熱くない……?」


 炎には熱がなく、燃え移る様子も無かった。

 炎が消え、オリヒメが説明を始める。


「"道化師"はね、星の数ほど能力を持ってる代わりに、戦闘用魔法は戦闘に使えないし、回復用魔法は回復に使えないの!デバフもバフも全部そう!なんか出てくるだけだし光るだけ!」


「セタさん……まさか僕……」


「で、タイヨウはね、私がご主人様になったから、私の能力を普通に使えるようになってるんだよ!」


「は……!?」 


 クラスメイト達が困惑の声を上げた。


「皆は運命図鑑とかそういう本、しっかり読んでみた事ある?」


 と、オリヒメは自分の席に向かい、『よく分かる!運命図鑑』というタイトルの分厚い本を取り出して持ってきた。


「"奴隷"のページに……ほら!主人となった者の能力が受け継がれるって書いてあるでしょ?」


「……つまりそれって、何人もご主人様を作ればそいつら全員の能力をコピーするって事か?」


「そういう事!」


 シン、と教室に静けさが過った。


「っチートじゃねぇか!おいアマハラ!一旦B組のカサンドラをご主人様にしてから戻ってこい!あいつ時間停止と洗脳持ってるから!その後俺をご主人様にしてくれ!5万デン!5万デン払うから!」


「私は10万出すよ!アマハラくん!私をご主人様にしてみない!?」


「わ、私!11万出す!」


「俺は12万出すぞ!」


「せ……セタさぁん……」


 オリヒメに助けを求めるタイヨウだったが、オリヒメは面白そうに笑いながらその光景を見ているだけだった。

 仕方なく群がるクラスメイトに向き直り、タイヨウは宣言する。


「あの、変な命令する人はご主人様にしたくないからね?先にどんな命令するか言ってくれればしなくもないけど……」


「ぐっ……」


「……」


 ほとんどの者が黙った。


 そんな中、一人の女子、リタ・ハーパーが手を挙げる。


「あの、私、弟が珍しい病気持ってて、その治療薬出してって言ったら、出来る?」


「出来そう?」


 タイヨウがオリヒメに尋ねる。


「出来るよ!」


「マジか……」


「道化師やべぇ……」


「それじゃあ、ハーパーさん、君をご主人様にするよ、命令してみて」


「ありがとう、アマハラくん……」


 リタは一度深呼吸をしてから、こう言った。


「ギーを殺して」


「は?」


 そう言った時には、すでに自分の体が勝手に動き始めている事に、タイヨウは愕然としていた。

 足が勝手に歩き出し、ギーへ迫っていく。


「へ?は?おい……!」


 ギーは後ずさりながら防御魔法を展開した。


「"テレポート"」


 ぱちん、とタイヨウが指を鳴らすと、ギーの頭部が右肩の上に瞬間移動した

 もちろん首は繋がっていない。


 血を吹き出しながらバタンと倒れるギーの体とボトンと床に落ちるギーの頭。


 悲鳴を上げるクラスメイト達。


「な、なんで……」


 リタの方を見て半泣きになるタイヨウ。


「なんでって、そいつが最低クソ野郎なの、知ってるでしょ?」


 鼻で笑いながら言うリタ。


「せ、セタさ、セタさん!」


 震えながらタイヨウはオリヒメの名を呼ぶ。

 オリヒメも、ギーの死体を見て唖然としていた。


「もう一度セタさんをご主人様にする!回復魔法を使わせてくれ!」


 ハッとしたオリヒメは、即座に指示を出す。


「タイヨウ!ギーを蘇生して!」


 タイヨウはギーの頭を拾い、断たれた首をくっつけ、切れ目に手を当てる。


「"蘇生"」


 手からほとばしる緑色の光が切れ目を包み込み、首が繋がっていく。

 しばらくすると、ギーの顔に血色が戻り、呼吸と心音も確認出来た。


「証拠隠滅!」


 オリヒメが、吹き出した血の跡に駆け寄り、手をかざすと、血の跡が瞬く間に消えていった。


「え……」


「ギー!起きて!」


 それからオリヒメはギーを激しく揺さぶり、起こそうとする。


「ちょっ……セタさん!?」


「う……ん……?」


 ギーはゆっくりと目を開ける。


「良かった……」


 と、タイヨウは安堵の声を漏らす。


「は?何が起きたんだ?」


 ギーは混乱していた。


「ギー、いきなり倒れたんだよ?」


「倒れた……?なんで……」


「分かんない。貧血かな?顔色悪かったし、なんかうなされてたよ。変な夢見てたの?」


「夢……」


 ギーは、辺りを見回して、少し考え込んだ。


「俺も……保健室行ってくる……呪われてるかもしんねぇ」


 そう言ってギーは教室を去った。


「ねぇ皆、ギーはいきなり倒れたよね?」


 そんな事を言い出すオリヒメに、クラスメイト達はどよめいた。


「何言って……」


「タイヨウ!皆にニルヴァーナを、撃たないで!」


「ーっ!」


「……ね?ギーはいきなり倒れたでしょ?」


 それは、明確な脅しだった。

 クラスメイト達は、自分達が何をされるか分からない恐怖に震え出した。


「ね?」


「う、うん……」


 クラスメイト達もタイヨウも、その圧に押されるようにうなずく。


 その時、タイヨウの目には、オリヒメの姿がいつもより鮮明に見えた。

 絹糸のように艶やかな茶色がかった黒髪、どこか狂気的な眼光の宿るくりくりした大きな瞳、にっこりと弧を描く桃色の唇、色白ながら健康的な色をしたきめの細かい肌……。

 それら全てが、自分の方を向いた瞬間、タイヨウは少したじろいだ。


「タイヨウ!次の授業の準備しよ?」


「え、あ……」


「もう先生来ちゃうよ!」


 そうして、彼らは何事も無かったかのように午前を過ごす事になり、リタは何も言わずに早退していった。


 昼休み。

 タイヨウは屋上で一人弁当をつついていた。

 その目はボーッと遠くを見つめていた。


「……」


 まず人を殺しかけた事、それと……。

 いきなりセタさんが美少女に見えるようになった。

 その事態について、タイヨウは悶々と考えていたのだ。

 いや、今までだって美少女だったはずだ。

 タイヨウは首をかしげる。

 それが今更なんで……?

 いや、そんな事よりも……。


『証拠隠滅!』


『ねぇ皆、ギーはいきなり倒れたよね?』


『タイヨウ!皆にニルヴァーナを、撃たないで!』


「あれが……セタさんの本性……」


 その時ふと、自分の口元が吊り上がっている事に、タイヨウは気付き、ため息をついた。


「やっぱり僕は、本性ってものが好きなんだなぁ……」


 と、自分自身に呆れるタイヨウ。


「タイヨウは」


「ーっ!?」


「人間が好きなんだね!」


 いつの間にか隣に座っていたオリヒメに、タイヨウは飛び上がりそうになりながら後ずさる。


「びっくりした……」


「あんな事が起きちゃったから、元気かなって思って」


「ああ、さっきはありがとう、僕を庇ってくれたんだよね?でも僕は別に人間が好きな訳じゃないよ」


「自分ではそう思ってるんだね」


「だから好きじゃないって……」


「じゃあ、人間を好きになる方法って知ってる?」


「それは……分からないよ」


 オリヒメは空を見上げた。

 その横顔に、タイヨウはしばし見とれていた。


「私が教えてあげるよ!」


 オリヒメが立ち上がり、指をぱちりと鳴らすと、どこからか音楽が鳴り始めた。


「校内放送……?」


 オリヒメは地魔法でガラスのスイカを造り出すと、朗々と歌い出した。


「一皮剥けば色の違うスイカみたいに♪誰でも内側と外側の二つを持ってる♪」


 オリヒメがガラスのスイカを落として割ると、内側の赤いガラスがそこら中へ飛び散った。


「緑が嫌いな人でも♪赤色は好きかもしれないよね♪だけど♪スイカ割りはいつでも目隠し手探り千鳥足♪」


 今度は散らばったガラスのスイカが、時間を巻き戻したように集合し、元の丸い形になり、再びオリヒメの手の中に収まった。


「外側の縞々(しましま)が好きならそれでも良いけど♪内側の赤色じゃないと好きになれないなら♪輪ゴムで締め上げてでも割っちゃおうよ♪」


 ガラスのスイカが縮んでいく。

 縮みきって、真っ赤なガラスのリンゴになった。


「リンゴみたいに♪赤色が外側なのもアリだよって思い切って言ってみるのも良いかもね♪」


 リンゴの皮が四方に剥けて、中の黄色いガラスが露わになる。


「リンゴが剥けてしまっても赤い皮は赤いままで変わらない♪」


 今度はリンゴが桃の形と色に変わった。


「赤色が好きなら♪桃の実もきっと好きになれるね♪赤色が好きなら♪オレンジもきっと好きになれるね♪」


 桃がオレンジになり、ブドウになり、イチゴになった。


「赤が混じる色全てに♪赤の面影が残ってる♪」


 オリヒメが歌い終わると、穏やかに曲が終わった。


「これで好きな人たくさん出来るね、タイヨウ!」


「ダメなんだ」


「え?」


本性(なかみ)じゃないと……ダメなんだ、僕は」


それに、普通の人の本性(なかみ)なんかに興味は無い。

タイヨウは、オリヒメをじっと見つめた。


「うーん、花より団子なんだね!じゃあ仲良くなってみれば?」


「そ……」


 それが出来ないから今まで誰とでも友達になれるセタさんくらいしか友達らしい友達がいなかったんだけど……。

 そう言いかけて飲み込むタイヨウ。


「そう……だね。せっかくこの運命だし、ご主人様にしてみる事から始めていこうかな」


 なんでも言う事を聞く相手となれば本性も出やすいだろうし……。

 タイヨウがそんな事を考えていると、チャイムが鳴った。

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