8 戦いは甘くない
俺は勝負に出た。
レーザーを撃つ。何発も何発も。
手数で勝負。距離が近いなら光が早い。炎なんかより早い。
もし、これが避けられたなら…俺の負けだ。
無数のレーザーが相手を撃ち抜かんと突き進む!
相手は防御しようとしない!
「勝った!」
しかし、その瞬間。相手の前に炎の壁が現れる。
「そんなもの!」
そんな炎の壁など貫通できる!
そう思った俺の予想とは違う光景が広がる。
レーザーが…曲がった。相手の直前で、だ…。
「何だよ…それ…」
全く当たらなかったわけではないが、あれはかすった程度でしかない。
「…温度だ」
やっと声を出せたかのようにシエロが話し出す。
「蜃気楼と同じだ。光は温度によって…屈折する。つまり…アイツは炎の壁で温度を上げレーザーを曲げて防いだんだ…」
「じゃあ…相手に光は届かないってことかよ…」
呆けていた一瞬であった。
俺は背後に熱さを感じた。そしてそのまま…俺は炎に包まれた。
「うぎゃぁぁぁぁあぁぁ!」
熱い!熱い熱い熱い熱い!
痛い!痛い痛い痛い痛い!
(お前のような奴は…燃えてしまえ!)
戦いの始めに聞こえたあの声だ。誰だよ!相手の声は聞こえないって言ってただろ!?
それどころか熱すぎる!!痛みで気が狂いそうだ!!
「おい!空!ウソだろ!空!空!」
シエロの声が遠くで話しているようだ…。
ヤバイ…。死ぬ…。
「うわぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあ!」
荒ぶる呼吸、季節に似合わない汗。辺りは暗く…ここはあの世…か?
ふと下ろした手に固いものが当たる。この触り心地、覚えがある。
それを握り締めるとそれは光を放った。
「スマ…ホ?」
時間と日付が浮かび上がる。そこには「4:00 5/20 THU」と表示されていた。
あ、あれ?まだ戦うまで八時間も…ある?
辺りをスマホのライトで照らして見る。
俺は…自分の部屋のベッドの上にいるようだ。
「あれは…夢…だったの…か?」
すぐに起き上がり部屋の明かりのスイッチを押す。
確認した俺の腕は…至って普通の見覚えのある傷ひとつない腕であった。
「やはり…あれは…夢…だったのか。そうだよな。ど、どこにも火傷が無いもんな」
でも…実際ああなったら…いや、ああなるのだろうな。今の俺には戦闘経験もないわけだしさ。
ただ…自分の肌が焦げた…吐き気のしそうな臭いが今もまだ…鼻の奥にこびりついているような…。
いや、気のせいだろう。
どうすればいいんだ?何か…方法は無いのか?
「随分早起きだな。緊張してるのか?」
俺の寝ていたベッドの下で嫌味ったらしくシエロが言う。
どうやらシエロも特に変化はないようだ。
もし夢でないのならシエロも何か言ってくるはずだ。
「なあ、俺って今日勝てるかな?」
「さあな。まあ、お前は弱そうだがスピリットスキルの潜在能力は高い。それさえ使いこなせれば勝てるとは思うけどな」
俺の…潜在能力か。
夢の中ではレーザーを曲げられて負けていた。
光は温度次第で曲がる…つまり攻撃以外ももっと何かを用意しないとダメってことなのか?
でも夢…だからなぁ。
ただ、攻撃を全て防がれたら勝てないよな。
何かもっと相手の不意を突けるような方法は必要か。
と思うものの…どうしたらいいのか…全く分からない。
時間が早いので明かりを消した。
そしてベッドに横たわると光を色んな形の変えて浮かべてみる。
星型、棒型、ブーメラン型、盾型…色んな形にしてみるもののアイデアは浮かばない。
どうしよう…。
俺は…こんな状態でもいつの間にか寝てしまったのであった…。
気が重い目覚めを終え、登校する。
俺…今日負けるのかな。
重い足取り。いつも慣れている道がいばらの道に見える。
「よお、悩める陰気な少年!」
背後からバンと背中を叩かれる。振り返ると笑顔の焦馬がいた。
「何?今日はイヤな授業でもあるのか?」
笑顔の焦馬に対して俺の表情は固まってしまった。
これは…夢で見たまんまじゃないか!?
嫌な汗が頬を一筋流れているのを感じた。
「おーおーどうした?それとも恋の悩みか?」
「そ…それなら…どんなに嬉しい事…か」
これは偶然…だよな?
こ、こんなこともあるだろうさ。
「真面目な…悩みか?俺で良ければ話くらいは聞くぞ?」
話せば話すほど嫌な汗が止まらない。
夢は夢であって現実ではないはずだ。
なのに…なのに…どうしてここまで同じなんだ!?
どうして同じ言葉で焦馬は話しかけてくるんだ!?
「そっか。まあ、話聞くくらいしかできないかもしれないけど、気にせず言えよ」
俺が黙っていると言いにくい事だと判断したのだろう。勝手に話を進める焦馬。
ここまで同じだと気のせいでは済まない。
いや、大事なのはそこじゃない。
同じ言葉くらい気にする必要はない。
全て同じなら、俺の未来が夢と同じってことになって…俺は焼かれて…死ぬ!
「おい…今度は顔色悪いぞ…。空、お前大丈夫か?」
どうやら顔に出ていたらしい。
相変わらず分かりやすい俺の顔である。
「大丈夫…。ちょっと体調が悪い…だけさ」
「おい…悪いって…本当に大丈夫か?」
さすが長年の付き合いだ。よく見てるよ。
「無理をするなよ。体調悪いなら今から帰って寝ててもイイと俺は思うけどさ」
本気で心配してくれる焦馬。本当に俺は良い友を持ったと思う。
だが残念なことに、それは俺の不安を根本から解消できるものではなかった…。
十一時五十九分まで…夢と同じだった。
俺は悪あがきとして朝からずっとアマテラスを少しでもうまく扱えるように机の中に手を入れて光で色んな形を作っていた。
これじゃあ自ら夢と同じにしようとしているみたいじゃないか…。
そして、正午。
俺は息を呑む。
時計をじっと見ているが長針は止まったまま。
俺は窓の外を見る。夢と同じならば…来る頃だ。
「くるぞ!」
俺の机の上にシエロが飛び乗って来た。
「いいか、冷静な時にできる最後のアドバイスをしておく」
何の前振りもなしにシエロは話を始める。
だが、その言葉よりはもう俺の耳に入ってこない。
どこまで…同じなんだよ…。
「常識に縛られるな。お前は光を自由にコントロールできる。アマテラスは決して弱いスピリットスキルではないことを忘れるな」
言葉の意味は分かる。なんせ夢で見たのと同じなんだからな。
俺は廊下に目をやる。これもまた見覚えのある人の形をした炎が歩いていた。
「相手は」
「炎…を操るの…か?」
シエロは驚きを沈黙の間で返す。
「…見た目からの直感か?合っているが一応説明する」
ここまで来ると夢ではなく予知夢か…一度体験している、の方が説明としてしっくりくるかもしれないな。
そんな俺の悩みを気にすることなくシエロは説明を続ける。
「対戦相手はそれぞれ自分の使えるスピリットスキルが分かりやすくなっているんだ。だから、あれも本来の姿じゃない。お前もきっと相手には光のコントロールができることが分かるように見えているはずだ」
もう説明などより俺の夢の内容が気になって仕方が無かった。
「一つだけ教えてやる」
次の言葉は分かるが、何も言わず俺はシエロの話を聞く。
「俺たちの会話は相手には聞こえない。まあ、相手の会話も俺たちには聞こえないがな。相手も俺のようなサポーターがいるはずだ。何らかの会話はしているだろう。相手のサポーターの実力次第では…厳しいかもしれないけどな」
そう言えば…夢の中では相手の声?らしきものが聞こえていたのだが…どういうことだ?今回も聞こえるのか?
椅子から立ち上がらない俺を、シエロが怪訝そうに見た。
「いいか、ちゃんと向き合ってセロが戦いの合図をしてスタートだ。相手の所に行くぞ」
俺は深呼吸を一つして教室の引き戸を開けて廊下に出る。俺と対峙した炎の人型が一瞬怯むがこれも見覚えが…夢通りである。
炎の人型の後ろに茶色の毛の柴犬がおり、何かを炎の人型に話すかのように口を動かしている。ここまで同じなんだな…。
「待たせたな、魂の騎士たちよ」
夢と同じ声だ。
美しい少し高めの男性の声。
跪きそうになる圧がある。
この声の主が…セロ…だったよな。
「これより最初の試合を始める」
声と共に俺はいつの間にだだっ広い荒地に立っていた。
知っていても移動した瞬間は分からなかった。
それは炎の人型も同じようで、辺りを見渡し柴犬に何かを話しかけている。
「焦るな。まずは地形をチェックしろ。ここは障害物がほとんどない。隠れて狙撃は無理だな」
ここまで同じならばもうただの夢とは言えない。
あの未来は…現実ということなのか!?
「では、始めてくれ」
いきなりの始めの合図に俺も、炎の人型も戸惑っている。
クソ!知っていてもこんなドジするのかよ!
俺は慌てて指先からレーザーを出そうと構えた。
だが、それを阻むかのように巨大な炎の壁が出現し、俺に向かってきた。
(お前のような恵まれたヤツは…俺が潰してやる!)
聞こえた!これって絶対相手の声…だろ?
あの時と同じ不気味な声。
分かっていたのに…また気を取られた俺は行動が遅れてしまった。
「俺はバカか!同じことをしてるじゃないか!」
迫る炎に背を向けて情けなく走って逃げる。
でも、あれは距離さえとれば大丈夫だったはずだ。
予測通り炎の壁は少しずつ小さくなり、消えていった。
相手から二十メートルってところだろうか?完全に炎の壁は消えた。
「やはり…射程距離…があるんだな」
俺のつぶやきにシエロが「ほぉ」と声を漏らした。
「今日のお前は理解が早いな。威力がある広範囲攻撃は離れると威力が落ちるんだ」
シエロの言葉を聞き終えると試しに俺はレーザーを炎の人型に向けて放ってみた。
すると、レーザーは…炎の人型の肩をかすめ、遥か彼方へと消えていった。
「いい攻撃だ。細い分、距離があっても威力をあまり損なうことがないようだ」
珍しくシエロに褒められた。てっきり褒めるって言葉を知らないのかと思ったけどさ。
俺は相手に向き直る。
すると俺とは違い、相手は威力と範囲の関係を理解してないみたいで、柴犬に何かを聞いているように見える。
聞き終えた相手は柴犬に何度か頷くと俺に向き直る。
そして、ゆっくりと両手を俺に向け仁王立ちとなった。
その直後、足元が熱くなってきた。
「ヤバい!」
俺はシエロをかかえ身をよじりその場を離れた。すると、足元から円柱状の炎の柱が天に向かって立ち上った!
「いい反応だな」
シエロの言葉を無視して体勢を立て直す。
先程いた所の炎の柱を見ていると、今度は自分のいるところが熱くなってきた。
「マジかよ!」
再び転がりその場から逃げ出す。
またもや自分のいたところに炎の柱が天に向かい立ち上る。
「このパターンは…ヤバイな…」
小脇にシエロを抱えてひたすら炎の人型から距離を取る。
だが、ヤツもこっちに向かって走ってくる!どうやらアイツも理解したみたいだな!
「クソ!」
走りながら振り向きつつレーザーを放つが全く当たらない。威嚇にさえならないほど明後日の方向に光が飛んでいく。
「上だ!よけろ!」
シエロの声に上を向く。
すると、数十個くらいの炎の塊がこちらに向かって落ちてきている!
軌道が分かっていても、簡単に避けられるものではない。
俺は必死に炎の塊の無い方へと走る。
「反撃しろ!完全に相手ペースになってるぞ!」
「なんとかしたいが…なかなかの無理ゲーだろ!これ!」
俺の言葉にシエロはため息をつく。
「バカはお前だ。いいか、常識的な思考でこの戦いに勝てると思うな。今は一回戦だ。勝ち上がればスピリットスキルに慣れてきた奴らと戦うわけだ。基本は大事だが、基本に縛られてると戦えないぞ!」
この言葉…そう言えばこの言葉の後に相手の攻撃が来るはずだ!
「来るぞ!右によけろ!」
言葉と同時に横っ飛びする。
すると、俺の横をバスケットボールくらいの炎の球が通り抜けて行った。
「気を付けろ!相手がスピリットスキルに慣れてきているぞ!」
切迫したシエロの声を俺は冷静に受け止める。
なんせ分かってることなんだからな…。
「よく聞け、空!お前は頭が固くなっているんだ!幼い子供のような発想でいい!何か頭にイメージしてみろ!」
イメージか。その前に…。
「また来るぞ!今度は左だ!」
俺は地面を蹴り左へと飛ぶ。その横を炎の球が再び通り過ぎて行く。
「いい判断だ!スピリットスキルが覚醒したから反応速度が上がって来たんじゃないのか?」
少し嬉しそうなシエロ。まあ、反応速度ではなく知っているだけなんだけどな。シエロを騙しているようで少し気が引ける。
「そんなことはどうでもいい。何よりまずは距離を取る方法を光を使って考えろ!」
確か俺は足元から光の板状の、サーフボードのようなものを出して失敗したはずだ。
だが、何としても距離を取らないと…夢と同じ結末になってしまう。
そうこう考えていると相手はいつの間にか距離を詰めてきていた。
「おい!ヤバいぞ!相手との距離が縮まったから降ってくる炎の数を増やされてるぞ!何とかしろよ!」
シエロの言葉に上を見上げる。
炎の球が降り注ぐのが見える。知っていても避けられない!
「クソ!こんなの反則だろ!」
これに対抗するには…。
「ボラデルーズ!」
夢と同じように炎の球を光の球で迎撃する。見事に迎撃成功!
「ちょ、ちょっと待て!炎の球に当たってるが…細かくなってるだけで消えてないぞ!」
破片が飛び散るのも知っている。だからこそ!
「エスクードルーズ!」
光の盾で炎の破片を防ぐ。
「上手く対処できたな。少し慣れてきたんじゃないか?」
知っていれば対処もできる。だが、このまま戦えば…
「おい!第二段の炎、降ってくる数がさらに増えてるぞ!」
炎の雨。そう表現するにふさわしい数の火の玉が俺に襲い掛かってくる!
「このままじゃあ…」
結局俺は相手の作戦に引っ掛かったわけか。相手は距離を詰めてきていた。
「右に避けろ!」
今回の戦いでシエロの言葉を聞き体を翻す。
すると、自分がさっきいた所が真っ黒に焦げている!
「このままだと…」
慌てて体勢を立て直し相手の方を見る。
相手は炎の形をした竜を飛ばしてきたが、横っ飛びで回避する。
このままでは相手の策にはまってしまう!何とかしなくては…。
「ボーっとするな!早く距離を取れ!」
相手と逆方向に駆け出すシエロ。俺も慌ててシエロの後を追う。
だが、その時である!
俺の前に複数の炎の柱が立ち上った!
しかし、数メートル先なので何もダメージは無い。
熱さも大したことはない。
「しまった…これじゃあ…」
今度は炎の柱が無い右に逃げる。
だが、遅かった。
炎の柱が俺の周りに…立ち上っていた。
「まさか…こんな技を使うとは…」
シエロの声に焦りの色が見えた。
このままでは…負けてしまう…。
俺は試しにレーザーを炎の柱の一つに撃つ。
夢と同じで…全く効いていない!
「やはりダメ…か」
思わず後ずさりする。
これは非常にマズイ。
どんどん夢の結末に向かっている。
何とか別の行動をしたいのに導かれるようにここまで来てしまった…。
「お、おい!この炎の柱、少しずつ寄ってきているぞ!」
シエロの言葉に最悪の事態が現実になったと思った。
どうする!?どうする!?どうする、俺!?
炎は少しずつ迫ってきている。このままだと結末は…。
「せめて隠れる場所でもあればいいんだがな」
悔しそうに吐き捨てるように言うシエロ。
そう言えば…俺はシエロのこの言葉から隠れるのは無理と判断してレーザーを乱射して攻撃したんだよな。
隠れる場所…か。その言葉で俺に妙案が一つ浮かんだ。
まあ、賭け、ではあるんだが。
「シエロ、俺、運がいいと思うか?」
思わず夢と同じ言葉が出てしまった。
「は?」
怪訝そうに片眉を上げ俺を見るシエロ。ここまでは全く同じだ。
だが、ここから先は違う結果になるはずだ。
もし…敗北しても、だ。
「俺は運がいいと思うかって聞いてるんだよ!」
「運ってお前…」
何かを言いかけて押し黙るシエロ。何かを察したのかシエロは口を少し広げる。
「あぁ。何せ俺がサポーターになってるんだからな」
なぜだろうか?シエロに肯定されると…少し安心できるな。
夢でも聞いたはずなんだけどな。
「じゃあ…危ない火遊びを終わらせようか!」
俺は覚悟を決め、深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、頭の中にイメージを作る。
この炎の柱から脱出するために…相手の裏を突くために。
夢と違う結末にするために。
流れる汗を裾で拭くと拳にギュッと力を込めた。
夢と同じ結末なんかに…するもんか!




