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7 初めての戦い

重い足取りで学校へ行く。


決意もした。覚悟も決めた。


だが、気分がいいものではない。


ゲームで対戦をするとき、あんなにテンションが上がるのに…現実はそうではない。


頭の片隅にあるのは、敗北すれば消される、ということ。


ゲームのように「今回はダメだった!」と悔しがって次への教訓とする、なんてできない。


一方的な蹂躙展開もあるかもしれない。


過去に格闘ゲームで手も足も出ず一方的にやられたことがあった。


あれは途中で勝てない…と思わされた。


今日、戦っている間にそんな感覚になったら…どうしよう…。


「よお、悩める陰気な少年!」


背後からバンと背中を叩かれる。振り返ると笑顔の焦馬がいた。


「何?今日はイヤな授業でもあるのか?」


いいよな、何も知らない焦馬は…。


焦馬はきっと今日もいつもと同じように授業を受け、昼には俺とたわいもない話で盛り上がり、眠たい午後の授業をクリアして、家に帰るつもりなのだろう。


いや、そこまで考えず、気が付いたらそんな一日だった、という感じかもしれない。


焦馬…俺が消えたら…いや、存在が消されるんだ、俺のことなんか覚えてもいないだろうな。


「おーおーどうした?それとも恋の悩みか?」


「それならどんなに嬉しい事か…」


思わずジト目で焦馬を見てしまう。そんな俺を見て焦馬は少し距離を置く。


「真面目な…悩みか?俺で良ければ話くらいは聞くぞ?」


本当に焦馬はイイ奴だ。


話せるなら話したい。


だが、こんなこと話せないし、焦馬を巻き込みたくない。


「あー、うん。まあ、気持ちだけ受け取っとくわ」


「そっか。まあ、話聞くくらいしかできないかもしれないけど、気にせず言えよ」


俺を心配そうに見る焦馬。こういう友がいると考えると、気持ちが少し晴れてきた。


そうだよな。


まずは勝ち残って、焦馬とお昼にコーラで祝杯と行こうじゃないか!


それに…オーチェのためでもあるわけだしな。


でもさ、もし、だ。俺が最後まで勝ち残ったら…オーチェ…デートくらいしてくれないかな?


よし、シエロに言ってオーチェに伝えてもらおう!


「おい…今度は気持ち悪いニヤケ顔かよ…。空、お前大丈夫か?」


どうやら顔に出ていたらしい。


相変わらず分かりやすい俺の顔である。


「大丈夫大丈夫!男の友情に感動してただけだからさ」


「いや、今のは女の事考えてた顔だったぞ!」


さすが長年の付き合い。やるな…。


「まあ、いつもの空に戻ったようで安心したよ。お前の落ち込んでいる姿、朝から見たくないからな」


最後に大笑いする焦馬の声で、この話題はここで終わった。


いつものやり取り。いつもの朝。


そして、俺はいつもの昼休みを必ず迎えてみせる!





前触れは無かった。


十一時五十九分までは普通の授業中の風景であった。


俺は朝からずっとアマテラスを少しでもうまく扱えるように机の中に手を入れて光で色んな形を作っていた。


昼間だと光は目立たないので時々小さな光を床を走らせたり、窓に光で絵を描いたりして最後の最後までやれることをやった。


定期テストでもここまで足掻いたことはない。


そして、正午。


俺は息を呑む。


だが、特段何か変化があるわけではない。


異空間に転送もされないし、審判のような者も現れない。


もしかしてシエロのヤツ、時間間違ったのか?


そう思い教室の壁掛け時計を見る。


正午。時計の針はしっかり重なっている。


あれ?俺の気のせいか?


十二時から時計が動いていないような…。


授業中なのに俺は気にせず辺りを見回す。


そこで気が付いた。


俺の周りの誰もが…動いてない!


口の開いたままの日本史の教員。


ノートに文字を書きかけている隣の女生徒。


机で隠してバレないようにスマホを触っている斜め前の男子生徒。


まるで動画を一時停止したように止まっている。


「くるぞ!」


俺の机の上にシエロが飛び乗って来た。


俺はシエロが向いている廊下の方にゆっくりと首を動かす。


「いいか、冷静な時にできる最後のアドバイスをしておく」


何の前振りもなしにシエロは話を始める。


だが、その言葉より、廊下の光景に思わず固まって動けなくなってしまう。


「常識に縛られるな。お前は光を自由にコントロールできる。アマテラスは決して弱いスピリットスキルではないことを忘れるな」


言葉の意味は分かる。


ただ、残念なことに廊下の異様な光景のせいで、耳に入る言葉を心底理解することはできそうになかった。


そう、俺が見た光景。


それは…廊下を…人の形をした炎が歩いているのだ。


「相手は炎を操ることができるみたいだな」


シエロの言葉に思わず「ウソだろ!?」と即答した。


「対戦相手はそれぞれ自分の使えるスピリットスキルが分かりやすくなっているんだ。だから、あれも本来の姿じゃない。お前もきっと相手には光のコントロールができることが分かるように見えているはずだ」


これは想定外。


俺は不意打ちで勝とうという作戦も考えていた。


でも、これだと相手は俺が光を使って攻撃することがバレるので対策されてしまう可能性も考えなくてはならない。


「一つ教えてやる」


シエロの言葉に俺はイヤな予感しか感じないのだが…。


「俺たちの会話は相手には聞こえない。まあ、相手の会話も俺たちには聞こえないがな。相手も俺のようなサポーターがいるはずだ。何らかの会話はしているだろう。相手のサポーターの実力次第では…厳しいかもしれないけどな」


うん。やはりいいことじゃない。


まあ、こちらの会話が聞かれないのはメリットだが、相手の情報がまるでないデメリットを補える気はしない。


「もう先制攻撃していいのか?」


俺はこっそりと廊下側の窓の下の壁にまで近寄り、ゆっくりと教室の引き戸の近くに寄っていく。


「いや、ちゃんと向き合ってセロが戦いの合図をしてスタートだ。だから隠れずさっさと行け」


不意打ちをしたかったが…どうやらそういうのはダメなようだ。


考えてみれば天からの使者の代理という任を負ってする神聖な戦いだろうし、不意打ちなんて卑怯な真似できるくらいなら、相手に自分の能力が分かる姿にされたりはしないか。


深呼吸を一つして教室の引き戸を開けて廊下に出る。


俺と対峙した炎の人型が一瞬怯んだ。


相手には俺はどう見えているのだろうか?


炎の人型は後ろに何かを言っているような仕草をする。


すると、その炎の人型の後ろに茶色の毛の柴犬がおり、何かを炎の人型に話すかのように口を動かしている。


「待たせたな、魂の騎士たちよ」


どこからか声が聞こえて…その声に思わず俺は片膝を地面につき、跪いていた。


何だろう。


抗えない存在。


格の違いとか、そんな言葉じゃ表せない。


声は実に美しい少し高めの男性の声なので、その辺で聞いたなら何も思うことはないだろう。


しかし、そんな声なのに圧倒されてしまっている。


これが…全ての頂点にいる…セロ…なのか。


こんなのに戦い挑むって…無理じゃない?


「これより最初の試合を始める」


幻覚?


転送?


まるで気が付かなかった。


いつの間にかだだっ広い荒地に立っていた。


それは炎の人型も同じようで、辺りを見渡し柴犬に何かを話しかけている。


「焦るな。まずは地形をチェックしろ。ここは障害物がほとんどない。隠れて狙撃は無理だな」


シエロの言うことも分かるが、問題はそれだけじゃない。


相手の炎の攻撃を…光で止めることはできるのか!?


学校の中なら、建物の影に身を隠して炎を防ぐこともできたのだが…。


ここに飛ばされて唯一の救いは学校に被害が出ないってとこだけである。


「では、始めてくれ」


いきなりの始めの合図に俺も、炎の人型も戸惑っている。


炎の人型との距離は約十メートルくらい。これなら狙っても当てられる!


俺は意を決して指先からレーザーを出そうと構えた。


だが、それを阻むかのように巨大な炎の壁が出現し、俺に向かってきた。


(お前のような恵まれたヤツは…俺が潰してやる!)


何だ、これ?


プライバシー保護のために変換されたような声が脳に直接流れ込んでくる。


相手の声か?


いや、シエロは相手の声は聞こえないと言っていたはずだ。


かといってセロの声とも違う。


誰の声なんだ?


気を取られた俺は行動が遅れてしまった。


「こ、こんなのアリかよ!」


目の前に現れた大きな炎の壁。


直感でヤバイと感じ、情けなくも走って逃げだした。


しかし、追いつかれそうだ!思ったより早い!


「あんなのに飲み込まれたら火傷程度じゃすまないぞ!」


俺はひたすら走る。


すると、炎の壁が少しずつ小さくなり、消えていった。


「あれ?…消えた?」


俺を追いかけて二十メートルで…完全に炎の壁は消えてしまった。


「もしかして…射程距離…あるのか?俺の光も…か?」


試しに俺もレーザーを炎の人型に向けて放ってみる。


すると、レーザーは…炎の人型の肩をかすめ、遥か彼方へと消えていった。


「どういうことだ?」


「範囲と威力の問題だ」


「範囲と威力?」


相手もどうやら理解してないみたいで、柴犬に何かを聞いているように見える。


「シンプルだ。範囲の広いものや威力のあるものは技の維持が難しい。だが、お前のレーザーは細く狭い範囲だ。ゆえに遠くまで威力を保って届くわけだ」


「そんな大事な事、先に言えよ!技の使い方を考えなきゃならねぇだろ!」


シエロに噛みついていると足元が熱くなってきた。


「ヤバい!」


俺はシエロをかかえ身をよじりその場を離れる。


すると、足元から円柱状の炎の柱が天に向かって立ち上った!


もし逃げ遅れたら…焼け死んでいたんじゃないか!?


「冗談じゃないぞ!」


炎の柱に気を取られていると、また自分のいるところが熱くなってきた。


「マジかよ!」


再び転がりその場から逃げ出す。


自分のいたところに炎の柱が天に向かい立ち上る。


「とにかく…逃げろ!」


小脇にシエロを抱えてひたすら炎の人型から距離を取る。


だが、ヤツも距離と威力のことを理解したのか、こっちに向かって走ってくる!


思ったより相手の足は速い!


「何か手はないのかよ!光で炎を消すとか出来ないのかよ!」


「出来なくはないが…それをお前がイメージできるのか?」


光で炎を消すイメージ…。無理だ、思いつかない…。


「上だ!よけろ!」


シエロの声に上を向く。


すると、数十個くらいの炎の塊がこちらに向かって落ちてきている!


「ほ、炎のコントロールって滅茶苦茶強すぎだろ!」


必死に炎の塊の無い方へと走った。


俺がさっきまでいたところに炎の塊が落ちて、火炎ビンでも投げたかのように、その場で燃え続けている。


「反撃しろ!完全に相手ペースになってるぞ!」


「バカ!どうやったらできんだよ!レーザーは後ろ向きに出しても当たらないだろうが!」


俺の言葉にシエロはため息をつく。


「バカはお前だ。いいか、常識的な思考でこの戦いに勝てると思うな。今は一回戦だ。勝ち上がればスピリットスキルに慣れてきた奴らと戦うわけだ。基本は大事だが、基本に縛られてると戦えないぞ!」


「じゃあ何か?炎を降らせたみたいに光でも降らせたらいいのかよ!」


言いながら頭でイメージしてみる。


さて、どこから光を降らそうか?いや、光をどう降らせたら相手に当たるんだ?


「来るぞ!右によけろ!」


言われて即座に右に走る!


すると、俺の横をバスケットボールくらいの炎の球が通り抜けて行った。


「ちょ、待て!相手は使い慣れてきてないか、スピリットスキル!」


悔しいが、俺は一回攻撃できただけである。


それに比べて相手は様々な炎の技を駆使して俺を攻撃してくる。


「よく聞け、空!お前は頭が固くなっているんだ!幼い子供のような発想でいい!何か頭にイメージしてみろ!」


「イメージったって!今逃げるのに必死なの分かるだろ!そんな状況で」


「また来るぞ!今度は左だ!」


俺の言い訳を遮り、シエロが叫ぶ。俺は地面を蹴り左へと飛ぶ。その横を炎の球が再び通り過ぎて行く。


「シエロ、まるでお前後ろに目があるみたいだな。助かるよ」


そう。小脇にガッチリ抱えられているのにシエロには相手の攻撃がなぜか分かるようだ。


さすがサポートすると豪語しただけのことはあるな。


「…そんなことはどうでもいい」


あれ?褒めたつもりなのに…少し不機嫌そうだ。なぜなんだ?


俺の疑問を察したのかは分からないがシエロのいつもの口調で俺に指摘をしてきた。


「何よりまずは距離を取る方法を光を使って考えろ!」


光を…使って?


待てよ、炎を光で防御できるイメージ無いけど、もしかして…。


俺は必死にあるものを思い描く。


光はとんでもない速さだ。


つまり、それを利用すれば!


頭の中にイメージを思い浮かべる。光の速さで逃げる方法。それは…。


「お、おい!それはヤバくないか!」


俺の足元から光の板状の、サーフボードのようなものが現れる。


そして…とんでもない速度でサーフボードのようなものだけが飛んでいった。


俺はボードから振り落とされて頭から地面に着地…。


辺りの時間が凍り付いた気がした。


「イタタ…。光のボードなら早いかと思ったんだけどなぁ」


「アホか!生身で光の速さのボードに乗ったところで体が耐えられないだろうが!」


そりゃそうだ。


だけど…作れた。


逃げながらイメージして…頭の中で思ったものを作れた!


「おい!ヤバいぞ!相手との距離が縮まったから降ってくる炎の数を増やされてるぞ!何とかしろ!」


シエロの言葉に上を見上げる。


あぁ、なんて綺麗な花火…じゃないよなぁ…。とりあえず立ち上がるが、走って逃げられるほどの数じゃない。


「ったく!少しは手加減してくれよな!」


俺はイメージした。今度こそ大丈夫だ!


「そんなに沢山の炎が来るなら…こっちはこれだ!」


相手が球ならこっちも球だ!


「ボラデルーズ!」


俺の掛け声とともに複数のソフトボールくらいの光の玉が現れる。


その玉で敵が繰り出してくる炎の球を追尾し、当たると破裂して相殺するイメージを思い浮かべる。


「これでどうだ!」


掛け声とともに光の玉が一斉に動き出した。


すると、まるでチートでもしたかのように敵の繰り出す炎の球に面白いように当たる。


「俺もやればできるじゃん♪」


自分の才能に思わず決め顔をして見せる。


しかし、シエロは俺の攻撃を見てすぐさま驚きの声を上げた。


「ちょ、ちょっと待て!炎の球に当たってるが…細かくなってるだけで消えてないぞ!」


当てることに夢中になっていた俺は当たった後を確認していなかった。


「予想とちょっと違った…かな?」


確かシエロの言う通り、バスケットボールサイズの炎が、ゴルフボールサイズになっただけで、事態の解決になってなかった。


「余計に逃げられないだろーが!」


絶叫するシエロ。だが、俺も攻撃だけを考えていたわけではない。


もし、撃ち落とし損ねた場合もちゃんと考えている。


「こんなこともあろうかと」


ちょっと言ってみたかったセリフを言う。


できる男は余裕も大事だぜ、シエロ。


俺はイメージする。


指先から作られる三重構造の大きな光の盾を。


「弾け!エスクードルーズ!」


決まった!これ、間違いなく主人公的な感じだよな!


ピンチに何か必殺技みたいなのをカッコ良く叫ぶ。そして、敵は俺のこの連続した光のコントロールに恐れ(おのの)くはずだ!


「まさか、光で炎を弾くとは…」


慌てるシエロの声を頭の上の「ジュ!」という音が遮る。


シエロも「おぉ」と声を漏らし光の盾を見上げていた。


「これはレーザーを中心から円形に常に放射しているんだ。しかも細かく隙間ない上に三層構造。だから熱さは少ししか伝わってこないんだよね」


我ながら頭がいいと感心した。


ただ、それは一瞬だけであった。


「お、おい!炎の降ってくる数、さらに増えてるぞ!」


炎の雨。そう表現するにふさわしいほどの数の火の玉が俺に襲い掛かってくる!


「今までの攻撃はこちらを倒すための攻撃ではなく足止めだな…」


つまり、俺は相手の作戦に引っ掛かったってことなのか?確かに相手との距離が近くなっている。


あんなに格好つけたのが逆に格好悪く思えた。


「右に避けろ!」


今回の戦いでシエロの言葉を聞き、何度危機を回避したのか分からない。


それに従い右に転がりながら避ける!


何が起きたかを確認する。


すると、自分がさっきいた所が真っ黒に焦げている!


「…マジ?」


慌てて体を起こし相手の方を見る。


すると相手の右手から…ウソだろ!?


炎が…竜の形をして俺を噛みつこうと襲い掛かってきた!


しかし反応できない速度ではない。


身をよじらせ回避はできたものの…警戒してしまう。


何だか相手の術中にはめられているような気がしてならない。


足止め作戦か…どうも引っ掛かる。


まさか足止めして寄ってきて近接戦闘で強力な一撃を狙っている…ってことなのか?


何か…何か見落としたりしてないだろうか?


辺りは先程から振ってきていた炎が点在している。


だが、時間が経過しているせいで、俺を止めるには至らない炎の大きさである。


かと言って炎の竜の後に何か攻撃を続けるわけではない。


何だ?何が狙いだ?


相手の表情や話し声が聞こえないっていうのも考えものだな…。


それにしても…こうも炎に囲まれてると暑くて暑くて…冷えた炭酸を飲み干したい気分である。


「ボーっとするな!早く距離を取れ!」


相手と逆方向に駆け出すシエロ。俺も慌ててシエロの後を追う。


だが、その時である!


俺の前に複数の炎の柱が立ち上った!


しかし、俺の数メートル先なので何もダメージは無いし、熱さも大したことはない。


「何だ?何がしたいんだ?」


今度は炎の柱が無い右に逃げる。


すると今度はその数メートル先に炎の柱が数本現れて行く手を塞ぐ。


「まさか…」


嫌な予感がしてきた。俺はとにかく炎の柱が無い方向に全力で走る!


だが、遅かった。


炎の柱が俺の周りに…立ち上っていた。


「まさか…こんな技を使うとは…」


シエロの声に焦りの色が見えた。もしかして…追い詰められているのか、俺?


「これくらい俺が破壊すれば終わるだろ、シエロ♪」


俺はレーザーを炎の柱の一つに撃つ。


すると、レーザーは炎の柱を貫通し、彼方へと消えた。


その炎の柱は再生し元に戻る。どうやらこの程度では破壊はできないようである。


「き、効いてない…のかよ」


思わず後ずさりする。


これは非常にマズイ。


この状況では何をされても炎の柱で囲まれた中で対処しなくてはならない。


まだ、ある程度の広さがある。


これがもし…もっと狭められたら…。


「お、おい!この炎の柱、少しずつ寄ってきているぞ!」


シエロの言葉に最悪の事態が現実になったと思った。


突っ込むか?


いや、その程度で脱出できるなら…炎の柱で囲んで狭めてくるなんてことをするわけがない。さっきの炎の玉で攻撃を続けた方がいいだろう。


何がヤバいと思わせているかというと、炎の柱が寄ってくる以外の攻撃をしないこと。


つまり、この技には絶対的な自信があるってことなのか?


それとも、この攻撃をしている時は…他の攻撃ができないってことなのか?


何にしても俺は追い込まれたと考えるべき…か。


最初に閉じ込められたときは十メートル四方くらいだったが、今は半分くらいの五メートル四方。最後はゼロにして焼き殺すって…いい趣味してるよな。


悔しいが下手な攻撃をするより確実に追い詰め…いや、この炎の柱に全力を注いでいる可能性がある。


だから他の攻撃ができないという推測もできるな。


しかし…どうやって相手に攻撃を当てる?


炎の柱を貫通するレーザーで相手を攻撃…いや、俺の射撃精度だと…もっと距離を詰めないと外れるかもしれない。


レーザーで追尾…ってのはどうだ?


確かに二、三十メートル先に相手はいる。ここから見える。


ただ、あんなにあからさまに姿を見せているのが気になるな。


ここまで俺を追い詰めるために足止めをしたりする相手だ。もしかしたら誘っている可能性もある。


それとも、今いる距離より遠くなると炎の柱が消えるとかなのか?


気が付けば、さっきよりも炎の柱が近寄ってきていた。


炎の柱の燃える音が聞こえてくる。


時間はもうあまりない!


「せめて隠れる場所でもあればいいんだがな」


悔しそうに吐き捨てるように言うシエロ。


隠れる場所…そんなものはないだろ。これは攻撃を仕掛けて炎に潰される前に決着をつけるしかないな。


まあ、賭け、ではあるんだが。


「シエロ、俺、運がいいと思うか?」


「は?」


怪訝そうに片眉を上げ俺を見るシエロ。まあ、気持ちは分からなくもないけどね。


「俺は運がいいと思うかって聞いてるんだよ!」


「運ってお前…」


何かを言いかけて押し黙るシエロ。何かを察したのかシエロは口を少し広げる。


「あぁ。何せ俺がサポーターになってるんだからな」


こういう時は根拠何てどうでもいい。こんな俺でも肯定してくれることが力となる。


「じゃあ…危ない火遊びを終わらせようか!」


カッコつけたはいいが今にも逃げ出したい気持ちが膨れ上がりそうだ。


俺は覚悟を決め、深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、頭の中にイメージを作る。


怖くて震える足を強く叩き気合を入れた。


この炎の柱から脱出するために…スピリットスキルの火力勝負だ!

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