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6 シエロの教え

目が覚めるといつもの部屋であった。


近くにオーチェは…いなかった。


あれは夢だったのだろうか?


でも、あの涙は夢に思えない。


ならば、俺が今やることは一つ。


明日、勝つために技の開発と洗練だ。


まずは光の剣だ。


イメージはアニメで見たビームで作られるサーベルだ。


俺は拳を作る。


その親指の付け根から一直線のビームをイメージして…。


「お、おぉ」


白い光のサーベルが作れた。


試しに雑誌を軽く真上に投げる。


そして雑誌を一文字に…切れなかった。


サーベルは空を切ったのだ。


そりゃあ俺の反射神経で簡単に切れるわけないか…。


まあ、もう一度試しにやってみるか。もし当たらないならサーベル案は変更だ。


再び雑誌を真上に軽く投げる。


今度は捉えた!が、雑誌は無傷であった。


「何でだ!?」


「バカか?光を集めることだけイメージしたろ?どうやって相手にダメージを与えるか、までイメージしなきゃ懐中電灯の光で雑誌を切ろうとしているのと同じだ」


部屋の入口の隙間からぬっと現れたシエロ。


説明は助かるが…それより言いたいことがある。


「シエロ、お前猫なのにパンダ着てるのか?まあパンダは大熊猫らしいから丁度いいのかもな」


シエロが着ていたのはパンダ模様の服にパンダの頭、顔の部分からシエロの疲れた顔が見える。


「俺は着せ替え人形じゃねぇんだよ…」


俺の服、そんなに買ったこと無いのに…シエロ、母に随分と気に入られたようだな。


何となくやる気を削がれたのでベッドの上に座る。


それにしても母のセンスって…。猫にパンダ着せるのって一般的なのか?


「で、それは近接戦用の武器か?」


真面目に言ってるのだろうが、パンダの服が可愛く面白いので真剣さに欠ける。


「あ、あぁ。遠距離、近距離、範囲攻撃の武器は欲しいかなぁと思ってるよ」


俺が悩んでいるとシエロが膝の上にチョンと前足を乗せてきて俺を覗き込んだ。


「どうした?随分やる気になってるな。何かあったのか?」


さっきオーチェと話したことが夢なのかどうかを確かめるため、俺はシエロに全てを話し、自分の決意を話した。


「それは夢じゃない。言ってることは合っている」


肯定してくれたシエロ。だが、同時に事の重大さを認識させられる。


「なあ、本当にそのセロとかいうヤツ、倒せるのか?」


俺の問いにシエロは大きなため息をついた。


「あのな、まずは明日勝てなきゃ何にもならないだろうが。まずは明日に集中しろ」


そりゃそうだ。その通りです、シエロ先生。


「しかし、いいアイデアだ。距離に応じて三つの武器か。ただ難点はこの短時間で三つも使いこなせるのか?ということだ。明日はいよいよ本番だからな」


明日はいよいよ…戦うんだよな。


ならば、レーザーとサーベルの練度を上げることに時間を使うべきなのか?


「悩んでいるようだが、そんな暇はない。昨日の廃工場で練習だ」


シエロの言葉に頷いてみたものの、時間はすでに20時。あまり遅くなるわけにはいかない…か。


「時間なんか気にしてる場合じゃないぞ。できなきゃ…消されるのはお前だ」


とんでもない脅し文句を残して、シエロは部屋を出て行った。


俺はその後を必死に追いかけて行くのであった。





昨日の廃工場に来た。


昨日とは違い俺のスキルで明るく照らしたので楽に来ることができた。


「で、どういう訓練すればいいのかな?」


実戦…と言ってもシエロじゃダメだよな。さすがに猫をいじめる気はない。


かと言ってイメージトレーニングだけではダメだと思うし…。


考えている俺の横を何かが抜けて行った。


俺は慌てて辺りを見渡すと、シエロの足元に小石が沢山あった。集めてきたのだろうか?


「この石を投げるから、どちらの武器でもいい。当てるんだ」


シンプルな修行だ。


だが、猫の投げられる石は大きくないだろう。


きっと精密さや判断力を鍛えるために一つずつ…。


「いくぞ!」


ウソだろ!?


シエロは辺りの小石をポンポン上に投げ、それが俺に向かって降ってくる!


猫!その肉球でどうやってあんなに高く石を投げられるんだ!?


「ほら、降ってくるぞ」


暗い上に無数の石が空から降ってくる!


俺はただ、頭の前に手を交差してやり過ごした。


「おいおい、当てろって言っただろ?」


「ふざけんな!あんなのあたるか!」


この猫、俺を殺す気か!?


「次行くぞ」


俺の周りに落ちた石をまたポンポン空中へと送るシエロ。だが、投げるモーションも無しに何であんなに高くに投げられるんだ!?


再び石の雨が降る。


今度は闇雲だが、光の剣を振ってみた。


全く回避できないどころか、まともにおでこにクリティカルヒットである。


たまらず両手でおでこを押さえてうずくまった。


「イタタ…」


そんな俺に鬼教官は容赦はしない。


「次行くぞ!」


「待ってくれよ!」


「敵にそう言うのか?」


再び俺の周りを駆け回り、空中へと石を移動させるシエロ。


俺は立ち上がる間もなく石の雨に背中をやられる。


「待てって言ったよな!やめろよ!」


さすがに頭にきた!


訓練なんだから少しは考えて欲しいものだ。


「お前、訓練だから、とか思ってるだろ?」


心を読めるのか、シエロが俺の考えを見事に当ててきた。


「死ぬ気になってやらない訓練は時間の無駄だ。何も身に付かない」


俺は拳を握りシエロを殴ろうとした。


しかし、俺は動きを止めた。


シエロの鋭い眼光によって、まるで動けなくなった。俺はその気迫に気圧されたのだ。


「俺はお前が負けないためにできる限りの事をする。でもな、お前にその気が無いのなら、俺は今無駄なことをしているわけだ。だったら俺がお前を殺してやる。明日、負けると分かってる戦いをして苦しむよりいいだろ?」


無茶苦茶言い出したよ、この猫。


でも…これくらい凌がなきゃ…勝てるわけないってことか。


「いいか!死ぬつもりでやらなきゃ真剣に物事に向き合うことはない!次があるならいい。でもな、生きているなら次はある。だが…死んだら次はないぞ!」


再びシエロが空中に石を飛ばす。


「くそ!」


考えろ!


俺に向かってくる石を何とかする。


石を消すか?


どうやって?


レーザーか?


いや、細すぎる!


剣を振り回すか?


全部に対応できない!


それなら…。


「いててて!」


考えてる間に再び石が俺に降ってきた。


今度は頭の上に落ちてきて結構痛かった。


「今のは結構痛かっ…た…」


痛みのする場所を触ると、何かが手に着いたのが分かった。


その手を自分の目の前に持ってくる。


「…血…なのか?」


笑えないだろ?


頭から血を流すなんてアニメやゲームの世界だろ!?


「お…おい、あ、頭から…血が…」


「それも訓練だ。戦闘中、血が流れたらそうやって動揺するのか?慣れるんだ。傷を負えば血は流れる。生きてるんだ、当たり前だ」


言うだけ言うとシエロは再び石を空中に飛ばす。


コイツ、何を言っても無駄だ。何とか凌がないと…。


剣もダメ、レーザーもダメ。じゃあ盾か?でも光に石を弾くような物理的な盾は作れない。じゃあ何で防げば…。


俺はあることを思いつく。


レーザーの威力があれば石なんて壊せる。


だが当たらない。


それならば!


「これでどうだ!」


俺は立ち上がり上に向けて人差し指を突き出す。


その指先から足元に向け放たれるレーザー。


隙間なく放たれたレーザーは俺を檻のように包む三角錐の形を描く!


するとレーザーに当たった石は見事に砕けた。


全てを破壊することに成功したのだ!


「なるほどな。いい発想だ。攻撃の術を防御に転じたとはな」


俺は自分の出している三角錐を見て呆然としていた。


「な?死にたくないと思うと思わぬ発想が出るだろ?それは生きたいという本能から来るものだ。時には頭だけで考えるんじゃなく、自分を追い詰めて限界の領域で思考するのも打開策になる」


悔しいがその通り…か。


追い込まれてからこそ今の技ができたわけだしな。


もしかしてシエロは俺にそれを教えたかった…のか?


「仕方ない。今日はこれで終わるか。明日、頑張れよ。俺も全力でサポートするからな」


生まれて初めて死というものを間近に感じたせいか、今になって体の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


こんなに恐いんだな…死ぬってのは。


あの数分間のやり取りは、今まで生きてきた人生の中で初めて全力を尽くした。


何気なく自分の手を見てみた。


この手が…自らの命を守る、新たな技を放った。


何もできなかった俺が…だ。


この短期間、俺は成長している。間違いなく成長している。


それに、俺はオーチェと約束した。


下心が無いと言えばウソになるが、オーチェのために勝ちたい、そう素直に思えたのも事実だ。


ふらつく足に気合を入れるために両手で両足を何度か叩く。


痛みで誤魔化せたのか、先程より足に力が入る。


俺は立ち上がり、家路を急いで帰った。


まだ戦いまで時間はある。可能な限り色んな手を作ろう。


使えるか使えないかじゃない。思考する訓練だと思ってやればいい。


いよいよ明日、泣いても笑っても本番である。





家に帰ると俺の姿に母が絶叫した。


そりゃそうだ。


遅くに帰って来た息子が頭から血を流し、傷だらけで帰って来たのだ。当然の反応だ。


俺は母に連れられ車で救急病院に直行。


診察の結果傷は浅く、特に問題なく止血だけされて帰ることとなった。


大丈夫だと分かると母のお説教タイムが開始された。


今回は心配されたのもあって、茶化したり、丸め込むようなことはやめた。


これは全面的に俺が悪い。


余計な心配をさせないように廃工場で転んだと説明すると「ケンカしたんじゃないならいいわ」と許してくれて、晩御飯を食べることになった。


父は今日は帰りが深夜なので、食卓には俺の冷めてしまった唐揚げとサラダが残っていた。


これは揚げたてを食べたかった…。


先程「死」というものを感じたせいか、食事がとても美味く、ありがたいものに感じられた。


生きているから食べられる。


当たり前のことに今更ながら気がつく。


そんな俺に温め直した味噌汁の入った器を俺の元に置いた。


「ありがとう、母さん」


軽くお礼を言うと母は驚いた様子で俺を見ていた。


「どうしたの?」


驚く理由が分からないので聞いてみる。


「今までそんなこと言わなかったから…」


確かにそうだ。


今まで味噌汁を出してくれたくらいでお礼を言ったことは無かった。


でも、言いたかったから言ったのだ。


その理由は自分でも分からないが、今は目の前の美味しい晩御飯を食べることにした。





「遅刻するぞ」


シエロの肉球で叩かれ目が覚める。


どうやらいつの間にか寝ていたらしい。


こういう大事な日はオーチェに起こされたかったなぁ。


「早く起きろ。今日の戦いの詳細を教えるぞ」


寝ぼけた頭が切り替わる。


いよいよ今日、本番だ。


「戦いのスタートは今日の正午だ」


しょう…ご!?それって12時のこと…だよね?


「お、おい12時は授業中だぞ!?俺はどうしたらいいんだ!?」


深いため息と共に呆れ顔のシエロは話を続けた。


「そのまま授業を受けていろ。戦いが始まればわかる」


おいおい、授業中にいきなり戦いが始まるのか!?


それ、先生に怒られるだろ!?


いや、待て。それよりも…他の生徒も巻き込むってことか!?


レーザーとか撃って外したら…。


俺の顔から血の気が引く。


あんなレーザー「誤射で当てちゃった、ごめんね♪」なんて気楽に終わるものじゃない!


間違いない当たりどころ悪ければ即死だ!


「何でそういうこと言ってくれないのさ!」


俺はシエロの小さな肩を掴み揺さぶる。そんな俺の態度にシエロは、またため息をつく。


「詳細が言えるなら言っている。俺も言いたくても言えないこともあるんだ。言えば俺が消される。それがルールだそうだ。それでも話せと言うのか?」


シエロを下ろすと俺はパニックになりかけた頭の中を必死に整理する。


おいおい、学校で授業中に戦うってことかよ…。


相手がもし人の命を何とも思ってない狂った相手なら、俺はみんなを守りつつ、相手に勝たなくてはならないことになる。


どう考えても不利な状況だ。


「今日は俺も行く。サポートをできる限りするから、大人しく学校に行け」


そんなの理不尽すぎだろ。


こんな無茶苦茶でも…通されてしまうんだろうな。


神の決めたことだ。誰に抗議しても無駄だよな…。


「そうふてくされるな。理不尽なのは俺も理解しているさ。だがな、理不尽は使い方によっては成長の糧となるんだ」


「成長の糧?」


意味が分からずシエロに聞き返す。


「理不尽は誰でも嫌なものだ。だがな、理不尽を乗り越えた先には成長がある。今はそう考えるんだな」


俺の顔を見て、まるで出来の悪い生徒に疲れた先生のような表情を浮かべシエロが話を続けた。


「要はゲームのラスボスって初期のステータスから見たら理不尽な強さだろ?でもクリアする頃にはその理不尽な強さと戦える強さになっているだろ?」


その例えなら分かりやすい。


まあ、理解できたけどさ、納得できたかは別問題だ。


「行け。理不尽を超えて成長しろ。それ以外お前が生き残る選択肢は無いからな」


俺は強く頷いた。


しかし…。


「シエロをいじめるな、クソ兄!」


俺は背中に攻撃を受けた。


俺はそのままベッドに激突する。


「シエロを揺さぶるな!このバカ兄!」


ベッドにぶつけたおでこに手を当て振り返る。


そこには何も知らない間子が、…俺を睨みつけ、仁王立ちをしていた。


「シエロ、バカなお兄ちゃんなんてほっとこ!そろそろお腹空いたかな?もしくはお水かな?気が利かないお兄ちゃんでごめんね」


間子はシエロを抱き上げるとそのまま部屋を出て行ってしまった。


それにしても恐ろしい妹だ…。


一応俺の話が聞かれないように階段にも注意を払っていたが、その警戒を潜り抜けて俺に一撃加えるとは…。


アイツが戦った方が勝てるんじゃないか?


それにしても、シエロが話している声はみんなには「ニャーニャー」と聞こえるってことなんだろうか?


猫が途切れることなく鳴くなんてそうそうないわけで、俺がいじめているように思われても仕方ない。


妹よ、兄は今日大事な決戦前なんですけどね、ダメージを与えるのはやめてください。


俺はゆっくりと立ち上がると部屋から出た。


その時、間子がなぜ飛び込んでこれたか分かった。


間子の部屋のドアが開いていた。


つまり間子は部屋にいて、シエロの声が聞こえたのだろう。


そりゃあ階段を上がってくる音、聞こえないよね。


そんな簡単なことも分からないのかと、間子の部屋の網戸の向こうの手すりにちょこんといるスズメが「ちゅんちゅん」と鳴き、俺をバカにしているように見えた。


「はいはい、どうせ俺はスズメにもバカにされる男ですよ…」


上がったテンションをぶち壊されて、いつものように朝食を食べ、いつものように学校へと向かう。


初めての戦いという緊張感を胸に抱えながら…。

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