表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

4 いつもの日常、近付く戦い

腹減った…。


まだ昼前なのに俺のお腹は素晴らしくいい音を鳴らしてくれている。


あと30分で購買にパンを買いに行ける!


俺は今月の少なくなった小遣いの中から緻密な計算をして最適解である蒸しパンと焼きそばパンを買うという結論を導き出していた。


二つ買うと痛手なのだが、この空腹は耐え難いと判断したのだ。


しかし…明日、俺は誰かと戦うことになるわけだが…まるで実感がわかない。


授業中もアマテラスをこっそり練習はしていたものの、それすらまだ信じられない。


本当は焦馬や香織に自慢したかったのだが、それは止めた。


無いとは思いたいが、見せることによって巻き込まれる可能性があると思ったのだ。


その考えが朝思いつかなかったゆえに母には見せてしまったのだが…。


そうこう考えていると授業終了のチャイムが鳴った。


俺は空腹に耐えながらも、ふらふらしながら購買へと向かう。


「何だ?元気ないじゃねぇかよ」


聞き慣れた声と共に背中をパシッと叩かれる。


「焦馬…お前は元気だなぁ…」


「お、分かる?ちょっといいことあったんだよね。今はちょっと話せないんだけど、俺、今最高に気分いいんだ」


何だ?いつも元気な焦馬だが、今日はその上をいくテンションである。


「まさか…お前…誰かと…大人の階段を…」


俺の思い当たることはその一つしかなかった。


「誰かとって…ば、バカ、違う!まだ俺は経験値ゼロだ!」


さすが焦馬。俺の意図はすぐに分かってくれた。こういうところに親友として積み重ねた絆の深さを感じてしまう。


「俺は朝、トラブルで朝飯食えなかったし、弁当持ってくるの忘れたんだけどな…」


まるでワクワクしながらクリスマスを待つ子供と、楽しみにしていたお菓子を誰かに食べられた子供のように対照的な二人だが、向かう場所は同じである。


それにしても焦馬、何があったんだろう?実に嬉しそうな焦馬を見てると、こっちも少し嬉しくなってくる。


「んじゃ、将来同窓会とかで会ったら話してくれよ。まあ、どうせ彼女できたとか、ラッキースケベ体験とかなんだろうが、お前が聞くなという以上深くは聞くまい」


俺の言葉に呆れるかと思いきや、焦馬は大笑いした。


「お前と一緒にするなよ。少なくともそっち方向じゃないからさ」


とバカな会話をしているうちに購買に着いた。


昼休みということもあり、大盛況である。


「ヤバい!焼きそばパンと蒸しパンが!」


俺はすぐさま目的の品を見つける。


ターゲット、ロックオン!


俺の手が神速を超え(たつもりで)、金銭とターゲットである焼きそばパンと蒸しパンの取引を瞬時に終える!


そして無事、ミッションコンプリート。


念願の焼きそばパンと蒸しパンをこの手にできたのだ!


「てかその組み合わせ、おかしくないか?」


一人盛り上がっている俺に焦馬の友達とは思えない冷ややかな目線が俺に突き刺さった。


だが、俺は決して屈しない。俺の考えたは間違いなく世界の真理と信じている!


「甘いな。これが腹を満たす合理的な選択なんだよ」


相変わらずどうでもいい会話をしながら、俺は教室に戻り焦馬と机に向かい合わせで座る。焦馬はコロッケパンとカレーパンの惣菜コンボである。


「…さっきのことなんだけどな、まあ、言ってもいいか。あのな、姉ちゃん、来年の春に家に戻ってくるかもしれないんだ」


唐突に切り出された話題に俺はキョトンとしてしまった。


そう言えば焦馬は今、母方の実家に暮らしていると以前言っていたのを思い出した。


焦馬が四歳くらいの時、両親が離婚。焦馬の一つ上の姉の美風(みふ)は父親が、焦馬を母親が引き取ることになったそうだ。


俺も薄っすらとしか覚えてないが、焦馬はいつも「お姉ちゃん、お姉ちゃん」とよく懐いて、姉の後を歩いていた記憶がある。


「来年、この近くの大学行く予定なんだ。今の成績だと合格できるらしくて…久しぶりに姉ちゃんと暮らすことになる」


少し嬉しさと恥ずかしさの垣間見える表情。焦馬とは長い付き合いだが、こんな顔見たことがない。


「そっか…よかったな」


俺も思わず食べる手を止めて微笑んだ。


「定期的に会ってはいたんだけど…一緒に住める日が来るなんて思わなくてさ」


確かにこれは焦馬にとっていいことであり、ちょっと言い出しにくいことかもしれない。


家庭の事情だし、かと言って嬉しい事なので誰かに話したい、そんな複雑な心境を慮れない俺は何てデリカシーの無いやつなんだろう…。


「空…そう言えばお前、姉ちゃんこのと好きとか言ってたが…変な気起こすなよ」


「お、お前!それは昔の話だろ!確かに居なくなって寂しくて、そう言った記憶はあるが…まだ一桁の年齢の時の話だぞ!」


「お前…年上好きだから危ないんだよなぁ」


おい、焦馬!さっきの俺の申し訳ない気持ち、返しやがれ!


でも…案外可愛かった覚えもあるし…焦馬も決して顔の造作は悪く無い。


となると…ちょっと会ってみたいかも。


「おい、いくらお前でも姉ちゃん相手に変なこと考えたら許さないからな」


おっと、どうやら顔に出てたようだ。


「お前にお兄さんとか呼ばれるとこは想像できないよ。もし呼ぶならお兄様と呼べ」


「姉ちゃんはお前みたいなゲーム下手くそオタクなんか好みじゃねよ!」


焦馬からの…本気のヘッドロックの刑を執行され、俺は大ダメージを受けてしまった。


それにしても美風さん、きっと奇麗になってるんだろうな。


十八ってもう大人の女性だし、俺より大きかった記憶もある。焦馬の顔も良いわけだし、これでグラマラスで大人の色気溢れてたら…ごめん焦馬。俺はその場合お前を裏切ることになるかもしれない。


その時は…お前にも許しを請うよ。「お姉さんを俺に下さい!」とな。


焦馬のヘッドロックの痛みに耐えつつ変な想像でにやけてしまっている俺…ちょっと危険な領域に踏込んでしまってるかもしれない…。


腹は満たされたが、俺の昼休みは焦馬によって午後に影響するほどのダメージを受けて終わるのであった。





「ごめん、ちょっといいかな?」


放課後、シエロの事も気になるので急いで帰ろうとしたら予想外の人が俺に声をかけてきた。


水野雫である。


もしかしたら週末のことについてだろうか?


こうして向かい合って話すことは初めてかもしれない。意識したことは無かったが、間近で見ると案外可愛いと思ってしまった。


免疫無い俺は、きっと一定水準以上の顔面偏差値の女の子に接近されたらこうなるのかもしれない。ちなみに香織は例外だけど。


俺は少し人気のない駐輪場の外れに連れてこられた。


まさか…俺に告白!?なわけないとは思うが、本題を言い出しにくいのか、眉を寄せ、困り顔になっていた。


こんな時、モテる男はどう振る舞えば…いや、雫を狙っているわけではないが、やはりどんな女の子のもデキる男として見られたいというのが(おとこ)というものだ。


無駄な事とは知りつつ手櫛で髪の毛を少し整え、雫の後を付いていく。


「えっと…何か聞きたいのかな?」


急に改まった口調になる俺。やはり緊張は隠しきれない。経験値が浅い俺のメッキなんてそんなもんか。


そんな俺の気持ちも知らず、俺の問いに何かを言おうとした雫は再び黙る。


これ、すごく気まずいんですけど…。


すると、意を決したのか、雫が俺の目をじっと見つめてきた。ちょっと怖さも感じちゃうくらい真剣な目つきである。


「焦馬くんって…もしかして…誰かに告白された?」


全く予想してない質問に俺は「はい?」と反射的に返してしまった?一体どうしてそうなったのか?俺の頭には「?」がネズミ算のように増えていく。


「だって…今日の焦馬くん、妙に浮かれてて…嬉しそうで…何か普通と違うなって思って…」


思い当たることはある。昼間に焦馬が話してくれた焦馬のお姉ちゃんのことだろう。


まあ、付き合いの長い俺も似たような勘違いしてたし…シスコンなので無理はないか。


「お願い!教えて!もしそうなら…その…週末会うのは…キャンセル…しなきゃダメだし…」


思いつめたように視線を下げる雫。何だか俺が悪いことしたみたいで変な罪悪感が芽生えてしまう。


よって俺は焦馬と雫のためにも本気で弁解することにした。


当然、焦馬のために、だ。俺の罪悪感払拭のためではない…と思う。


「あ、それは違うよ。詳しくは言えないけど、告白されたとかじゃないよ。まあ、女性関係と言えなくはないけどさ」


自分で言って失敗した!と即座に分かった。


最後の一言は冗談を込めての一言だったのだが、雫の顔があからさまに落ち込んでいる。


そうだよな。この言い方だと「焦馬には本当は好きな人がいる」みたいに聞こえるよな。


何とか…何とかせねば!


「あ、いや、好きな人ができたとかじゃなくて、元々好きな人…あ、でも恋愛とかじゃなくて…えっと…」


何てリカバリーすればいいのかわからない。


ただ、泥沼にはまり、抜け出せなくなってることはよく分かった。俺の語彙力よ!奇跡を起こしてくれ!


雫は今にも泣き出しそうな顔になっている。そんな雫の顔を見た俺は焦りで言葉が頭の中から消え去って行く。


だからと言って投げだせる状況でも逃げ出せる状況でもない。


まるでRPGのボス戦で回復手段が尽きて追い詰められている気分である。


「だから、彼女とかじゃなくて、幼い頃から好きだった…じゃなくて…今でも会っている相手で…つまりその…」


頼む、俺の頭!何とかこの空気を変える方法を思いついてくれ!


「いいよ、別に気を遣わなくても…」


我慢の限界に達したのだろう、雫の頬に涙が伝う。


…やってしまった。男として最低なことをやってしまった。雫を…女の子を泣かせてしまった…。


「香織にも週末はキャンセルするって伝える…。ごめんね、空くん、ありがとう」


自分の言いたいことだけ言うと雫はその場から走り去っていった。


その場に立ち尽くし、雫の去った方向をただ、ただ見ているしかできなかった。


何か…告白してフラれるよりメンタルダメージ大きいのはどうしてなのだろうか?


それよりも俺の頭の中に香織が烈火のごとく怒り狂い、まるで天災という巨大な力に抗う事ができない小動物のように蹂躙されるであろう。


明日…敵と戦う前に香織に殺されそうだなぁ。


ごめんオーチェ。俺の運命はここまでのようだ…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ